FEATURE ARTICLES 12 人間の中にある「編集デザイン」

第2章 連句 × 鈴木 誠一郎

受け手が「穴」を埋める構造


青木
鈴木さんの著書『レイアウトの教科書。』にも書いてありましたが、アートディレクターも捌き手に似ていますね。

鈴木
うん。捌き手もアートディレクターも、みんなのノリのよさを引き出さなきゃだめなんだ。
連句っていろいろな形式、長さがあるけれど、代表的なのは36句の「歌仙(かせん)」という形式。それだとだいたい完成までに4、5時間かかる。そうすると、その間ずっとみんなが高いテンションを保ち続けることはできなくて、人によってモチベーションの緩急もある。それに、採用された句の数が人によって偏っちゃうと、採用されない人はどんどん調子が出なくなっちゃうわけ。だから、そこら辺も考えつつやらなきゃいけない。

鈴木
明治時代に正岡子規が、連句の最初の1句(=発句(ほっく))だけでよしとしよう、と言って広まったのが「俳句」なんだけれど、連句をやると最初の1句がすごく大事だっていうのがよくわかる。その発句だけでつくる俳句っていうのは、17文字の中で言いたいことを全部言おうとすると、ろくな句にならないんだ。いろんなことを言おうとしてもその長さではちゃんとは説明できないし、何とか詰め込んだとしても全然面白くない。そうではなくて、「穴」を開けておいて、「その穴を読者が勝手に埋める」って構造を上手につくれると、すごくいい句になる。読者が自分の思いを美しく盛ることができるような新しい器をどう提供できるか。「上手な余白のつくり方」「上手な器の作り方」をどうするかっていう技術なんだよね。突き詰めれば連句の句は全部そうなんだけれども。

青木
なるほど。俳句をつくるときも、連句の最初をつくる気持ちでつくった方がいい作品になるんですね。

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