おじさんはもう一度、音楽を愛せるか

music

こんにちは。最近1万円で中古のベースを購入したアートディレクターの山口です。
今回はひとつ、大好きな音楽の話でもしてみようと思います。

※いくら読み進めてもデザインとかUXとか、かっこいい言葉は出てきません!そこに期待している人がいたらごめんなさい!ただ、この話は普段僕たちがプロジェクトの中で「価値」の正体を抽出していくプロセスにとても近い部分も含んでいると思っています。


最近新しい音楽を探すのがつらい。
刺激には飢えているけど、なにから聴いていいのかわからない。
いや待てよ、そもそも音楽って「探す」もんだったっけ!?

数年前、こんなことをよく考えてました。
ただ音楽が生活から遠のいていくのは寂しい。なので、自分が日々新しい音楽に夢中になっていた頃を思い返して、なにが変わったのかを分析してみることにしました。


僕が中高生だった2000年前後、音楽は今よりももっと貴重な「資源」でした。
インターネットはありましたが、まだとうてい日常的なメディアとは言えない時代。
Youtubeなんてないから、CDを聴くしかない。
でも、欲しいCDをすべて買えるほどの経済力は当然ない。
熟考の末、買うことを決めたCDも、ショップに足を運ばないと買えない。
そんなふうに、あらゆる意味で音楽への距離はいまよりも遠かったんです。
結果、どんな行動に出たかというと、音楽雑誌を買うことにしました。
雑誌はアルバムCDより安いのに、その中にはアーティストの思想や人柄が濃密に詰まっていました。
・どんな顔をしてるのか
・とんがった人なのか、フレンドリーな人なのか
・これまでの経歴
・作品のテーマ
・使っている機材
・好きな映画、好きなお酒、好きな街、etc…
それらはあくまで音源の周辺情報にすぎないのですが、そういった情報を踏まえたうえで聴く音楽は、なんの知識もない状態で聴くときよりも、ずっとリッチに響いてきました。
当時はお金がないから、[雑誌を熟読する→一番欲しいCDを買う]という流れが基本だったのですが、無意識のうちに贅沢な音楽の聴きかたを実践していたのかもしれません。
つまり、
音そのものだけじゃなくて、
「音楽のまわりにあるもの」も
同時にたくさん摂取していた
さらに言えば、「音+まわりにあるもの」の集合こそを
「音楽」と呼んでいた

ということです。

音はそれ自体は空気の振動にすぎませんが、意図をもって組み立てられることによって「音楽」になります。
この段階でコンテンツとしてはいちおう完成しているのですが、聴覚以外のさまざまな情報が絡んでくることによって音楽の意味は何倍にも深くなっていきます。

これは「聴く」ということを考えなおすうえで大きなヒントになりました。iTunesは確かに便利ですが、「音のまわりにあるもの」にまで手を伸ばすことはできなかったのです。


つぎに、新しい音楽との出会いかたについて。

上に述べたようにインターネットが普及する前は、新しい音楽との接点は雑誌や、テレビや、ラジオがメインでした。
こういった旧来のメディアがネットと異なっているのは、「出会いを強制される」という点です。消費者はそのチャンネルや本を選ぶまでの権利は持っていても、そこから流れてくる情報まではコントロールすることはできません。できないから、流れてくるものを聴くしかない。しかも曲のスキップもできない。ただ、ギターソロで急に感覚が揺さぶられて一瞬で虜になるようなこともたまに起こります。強制された出会いには、新しい音楽の発見を促してくれる側面がありました。
そういう点においてネット以前は、新しい音楽に触れるきっかけを生み出す仕組みが、そこかしこにありました。その頃、音楽を「探す」という表現は、いまほど使われていなかったように感じます。

ネットがあることによってしんどいのは、選択肢が無限であるかのように感じられる点です。

たとえば、新しい好みの音楽に出会いたいと思って「EDM キレイめ」といったワードを打ち込むと、気が遠くなるような数の検索結果が出てきます。その中にはきっと、自分にぴったりと合うアーティストについての情報も含まれているのでしょうが、全部を見ていくのはとうてい無理な話です。多くの人は数ページ見たところで、意気消沈してウィンドウを閉じてしまうと思います。

おかしいな…昔の自分からしたらネットで無尽蔵に音楽を聴けるなんて夢みたいな世界なのに、あんまり幸せじゃないぞ…

選択肢が無限大(実は有限なのだけど無限に感じられる)になったことで、逆に興味を削がれてしまうケースは、音楽に限らずさまざまな分野で、ネットの普及以降に起こっているような気がします。たとえば映画、書籍などにおいても同様のジレンマは起こりうるでしょう。
このあたりの話は佐々木敦さんの著書「未知との遭遇」でより詳しく紹介されています。面白い本なのでおすすめです。


こういった気づきを整理して、音楽の聴きかた・探しかたを変えてみることにしました。
・「音のまわりにあるもの」に目を向ける
・強制される出会いや偶然を歓迎する
大事なのはこのふたつです。

具体的には
ディスクレビュー本/ブログを読む
ライブ映像を見る
ラジオを聴く
このようなことを試してみたところ、音楽に対する興味や好奇心はじわじわと復活してきました。
最近ではApple Musicのサジェスト機能やBandcampも愛用しています。


今回はかなり主観に寄った書き口で音楽との触れあいかたについて書いてみました。
テーマは音楽でしたが、インターネット以前/以後でひとつの文化に生じた変化を考えてみるのはすごく面白いものです。滅びてしまった文化もあれば、インターネットを利用して軽やかに発展した文化もあります。「料理」なんかはそのいい例で、CookpadやRettyを眺めていると、すごく健康的に新しい刺激との出会い/伝承が行われているように感じます。

息抜きで書きはじめたつもりがなかなかの文章量になってしまいました…
ちなみに最近はOGRE YOU ASSHOLEにどっぷりハマっています。

山口 陽一郎
アートディレクター/デザイナー 主にwebサイトやアプリを作っています。
プロフィール