説得するのはクライアントではなく自分という話


こんにちは。アートディレクターの関口です。

同僚に「この高い湿度が擬人化されてぴちょんくんみたいにそばに佇んでたらかわいいのに」と言ったら、「でもそれで肥大化したぴちょんくんにアニメの相撲取りみたいな野太い声でモソモソ喋られたらいらつくよ!」と言われ思い直したところです。


さて、今日はデザイナ(私)のマインドセットの話題です。

このところ思うこととして、われわれ受託業にとっては避けて通れない「クライアント対策」…よくそんな言い方もされますが、実はそれはちょっと違うかもしれないというお話です。

私たちコンセントでは、ドキュメンテーションの際、ディレクターがちゃんとデザイナーの意図を汲んでくれます。なぜなら、制作者自身の言葉を使って説明したほうが「腹落ち感」が違うからです。ですから、ぼんやり作っていては社内ですら説明に困る、という状況になります。もちろん意図があって制作(デザイン)をしているわけなので、当然説明はできるのですが、仮に客先打ち合わせに同席しない場合でも、小さな改修でも、きちんとお客さんに意図が届くということが大切だなと感じます。

なぜ制作者の「自分の言葉」が直接届くことが「腹落ち感」につながるのでしょうか。

それには「ストーリー」が重要な意味を持っていると思います。
この記事にもありますが、

濱口 そうです。もっと言うと、自分が本当におもしろいと思ってないのでは? ということです。最初に説得すべきは上司ではなく、自分自身なんですよ。でもこれは、自分を説得する仕組みが必要なんです。ぼくの場合は、論理的に考えておもしろい理由を見つけて、納得します。そういう風に考えられない人には、プロトタイプをつくることを薦めています。100人に使ってもらって、30人以上が「おもしろい!」「これいいですね!」と言ってくれたら、そのアイデアの価値を信じられるでしょう。

つまり、「自分自身が納得している人」の「納得された自分自身の言葉」で説明されることが、お客さんに提供できる重要なサービスそのものであるということです。われわれ受託業者が自信を持って提案したことを、担当者さんに納得してもらったうえで上申してもらい、それが結果に結びつく。そうすると、次のお話も来るし、みんなが幸せになれる道がひらけます。

この話がより大きくなったものとして企業内での意思決定にコミットすること、インナーマーケティングとかインターナル・マーケティングとかいうようですが、私たちは比較的規模の大きなサイトを担当することが多いので、そういった内部コミュニケーションにリソースをたくさん割くプロジェクトも多いです。そういった際に、逆説的ですが、この「個人の腹落ち感」がものを言うわけです。

そして、こういった局面で「個の力」を最も発揮できるのは、ほかならぬ制作者、デザイナーであると私は個人的に考えています。

なぜなら、デザイナーが一番アウトプットに近い個人だからです(そういった意味では技術者も同様のことが言えると思います)。個人の肌感をもって最終成果物に取り組んでいる人の言葉が、強く、説得力があるのは自明でしょう。だからこそ翻って、それを客観的かつ自分自身の言葉で人に伝えることもまた、デザイナーのスキルであると言えるのではないでしょうか。


先日、とあるお客様からおすすめいただき上田岳弘著『私の恋人』を読みました。時間軸・人格が入り乱れ、錯綜するなかで話が進行していく物語なのですが、話が進むにつれ、唐突に入れ替わる時間や視点の切り替わりの行間に、いろいろなものが連想される面白い構成の純文学でした。

さきほどの引用記事にも似たような話がありました。

人はストーリーを求めてしまう生き物です。時代も、よりストーリーに価値がシフトしてきています。だからこそ、積極的に「個の腹落ち感=思い込み力=ストーリー」をお客さんに提示してはどうだろうか? というお話でした。

たとえば、特に思い入れもなにもないスーパーで無造作にカートに入れた袋詰めのピーマンを一人で焼いて食べるより、知人が育てた話を聞きながら焼いた自家菜園ピーマンのほうが断然美味しく感じるはずです。

まるで商店街で商いをするように、目の前のお客さんに何ができるか、試されているのかなと思う今日このごろです。


ぴちょんくん、かわいいですよね。
あの顔で年齢不詳らしいですよ。

デザイナー・アートディレクター。ウェブサイトと雑誌のデザインをやっています。Profile