FEATURE ARTICLES 18
ビジネス×デザイン Vol.1
リコー グローバルガイドラインリニューアルプロジェクト
カスタマーセントリックを実現させる
“運用体験”のデザイン
リコー 伊藤恵美子氏にインタビュー
伊藤 それぞれ2日間、1日に数セッションのミーティングを設けて、コミュニケーションサイドとマーケティングサイドの両方の担当者から意見を聞くようにしました。現地の運用体制に沿ったガイドラインでないといけないので、運用体制についてなど、今後どのようにWebサイトを使っていきたいかといったことを。また、特にアメリカはアクセスデータを解析してWebサイトを改善していくということにずっと取り組んでいたので、データアナリストの担当者にその状況をお聞きしたりもしました。
伊藤 活かせたと思います。
ガイドラインをつくることはプロジェクトのベースオーダーにあったものの、現地で聞いてきた要望をきちんと解釈して、どのような運用手順や運用体制で行うかということまでガイドラインに含めていただけたことは、今回すごくよかったと感じている点です。
これまでのガイドラインは、1度つくったらほとんどアップデートされずに使い、数年経ったら新しくつくり直しまた次の数年間使い続けるといったかたちだったのですが、それでは時代の流れについていけません。ましてやデータドリブン、カスタマーセントリックでWebサイトを常に改善していかなくてはというときに、規定が邪魔となり活動を阻害してしまうことがあってはいけない。彼らの要望を取り入れてガイドラインのアップデートをいかに素早く行うかという体制まで検討してつくることができたのはよかったと思っています。
Webサイト自体は今まさにリニューアル作業中で、ガイドラインについては現地からいろいろ意見が出ているところなのですが、彼らの意見をきちんと聞いて議論したり、ガイドラインを構築していく過程でその意見を反映したりするというプロセスそのものに対する、現地からの評価は高いと感じます。今までそういうことをやったことがなかったので、すごくよかったと。
かなりの頻度でコミュニケーションをとるようにしているので、現地のメンバーも要望をわれわれに言いやすくなったという副次的な効果もあるんですよね。お互いの要望や意見をきちんと言い合えるような信頼関係もつくれたのかなと思っています。
伊藤 最初に戦略策定や基本方針づくりを行い、デザインガイドラインをつくる前にWebサイト定義書を策定しました。日本企業では、グローバルサイトがありリージョンのサイトがあり各国サイトがある、というような階層構造になっていることが多いのですが、なぜそうした構造になっているのか、それぞれの構造に位置づけられたサイトの役割、その役割に基づいたあるべきコンテンツといったような、基本的な情報アーキテクチャを定義したものがWebサイト定義書で、それに基づきWebサイトの方針を策定し、実際のデザインに落とし込む、という進め方にしました。
デザインフェーズに入ると各極からさまざまな要望が挙がってきてすごく大変でした(笑)。デザインには個人の好みもありますし、文化的なことや各国・地域で流行っている色づかいやレイアウトなどがありますのでそれらをもとに意見を言ってくるわけです。ですが、そうしたときには「要望の背景がなにか」を重視するようにしました。たとえば「メインイメージのサイズをもっと大きく」と言われたときに、「今回実現させたいことはWebサイトをマーケティングに活かすことだけど、メインイメージのサイズがその目的にどれだけ寄与するのか?」ということを聞いたりしながら。
われわれが提示しているベースのデザインは好き嫌いによるものではなく、先進的と言われるWebサイトすべてをコンセントさんのIA(Information Architecture)やUI(User Interface)の知見をもって専門的に分析してもらった上で、今回の目的や状況などを考え導き出したものです。現地からの意見にも、それと同じくらいの根拠を伝えてもらうようにして、納得性があるなら反映するといったコミュニケーションをとるようにしました。
「裏にある本質的な問題はなにか」「挙がってきた要望は、その問題を解決する策となるか」で判断したわけですが、彼らに納得してもらうまでには時間もかかりました。われわれにコンセントさんがいるように、各極にも知見のあるプロのパートナーさんがいてこその意見なので、どういう背景に基づいているのかをきちんと理解したいなと。意見が相対するようならコンセントさんにもさらに裏づけを出してもらい、お互い納得し合えるようにして進めていきました。
伊藤 ただ、そうやって関係をつくってきても、現地の担当者が替わってしまうということもありました。
Webサイトはやはりビジネスに欠かせないものになってきているので、最初はコーポレートコミュニケーション(以下、CC)部門だったのが、マーケティング部門に主導権が移ったり、アメリカの場合は最近できてきたカスタマーエクスペリエンスマネジメント(以下、CXM)といった部門になったりと、Webサイトの主管がどんどん変わっていくんですね。CCが主管のときはグローバルブランディングという共通の目的があるため同じ文脈で話も伝わるのですが、主管がマーケティングやCXMに移っていくと同じ視点で話すことが難しくなってしまう。
伊藤 その通りです。ただ“顧客”の捉え方がそれぞれで違ってくるんですよね。CCという立場では、“お客さま”はユーザーやポテンシャルカスタマー、株主といったような大きな捉え方ですが、マーケティングの立場ではプロダクトやサービスごとでセグメントがどんどん分かれますし、CXMの立場ではまた異なり、たとえばわれわれが5つのセグメントで捉えているものが、20や30となってくる。その20、30のセグメントの方々が求めているものを等しくWebサイト上で提供しようとすると、ダイナミックにページをつくりたくなり、もっとフレキシビリティが欲しくなります。こうした主管の変遷は今回のプロジェクト進行中に起きたことで、調整がすごく難しいところでした。
ただこのように、WebサイトをWebサイト単体ではなく、顧客とのタッチポイントの1つとして捉えて、ここではこうした情報をこのように提供しようと考えるのは正しい姿だと思います。だからこそ、各極の要望をきちんと汲み、ガイドラインで実現できるようにするためにはどうすべきかという調整は必要なんですよね。
伊藤 難しいですね。でも、実際に実装フェーズに入ってみると、すごくうまくつくっていただいているということにあらためて気づいたんです。今回のガイドラインでは、フレキシビリティを高めるためにコンテンツを構成するパーツが全てモジュール化されていて、足りないモジュールは現地担当者がつくってもいいと規定しています。ガイドラインそのものが、各海外極でカスタマイズしやすくなっているんですね。
伊藤 もちろん、本当に好きにモジュールをつくられてしまうと全体の印象が変わってしまいますので、そうならないように“デザインプリンシプル”をコンセントさんに定めてもらいました。
デザインプリンシプルには、CI (Corporate Identity)などについて書かれたブランドガイドラインで規定しているフォントフェイスやカラーパレットなどもきちんと取り入れて、その上で、グリッドや要素の傾きの角度に至るまでかなり細かくデザイン方針やルールを制定して、その内容に則れば好きにつくっていいという前提をおいています。
また、「このレベルのカスタマイズは事前に相談して承認をもらってから進める」といったように、足りないモジュールをつくる際のプロセスについても一緒に示しているので、ブランディングとして統一したい印象が破綻しないつくりになっているんです。
伊藤 必要な手続きなども含めてすべてオンラインで参照できるように、ガイドラインポータルサイトを今回あらたにつくりました。最初にコンセントさんと一緒にプロジェクトの概要を決める際に、ガイドラインのアップデートということを問題点として挙げていたのですが、こうした運用に対する解決策としてご提案いただいたのがこのガイドラインポータルサイトです。
わかりやすくするなどの改善はもう少し必要だとは思いますが、あるのとないのとでは全然違いますね。「ここに最新の情報がすべて載っています」と伝え続ければ、現地担当者もどんどん「ポータルサイトを見ればいいんだな」となりますから。
それ以外では、テレビ会議で直接説明をしたり、テレビ会議に参加していない人にも伝わるように、資料をつくって説明をするということも徹底するようにしています。ボリュームも結構ありますし、規定は読むだけで理解できるかというと難しいところはやはりありますので、コンセプトをきちんと伝えるようにしています。
リコー グローバルガイドラインリニューアルプロジェクト
カスタマーセントリックを実現させる
“運用体験”のデザイン
リコー 伊藤恵美子氏にインタビュー