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Communication Desig

ビジネス×デザイン Vol.2

三菱電機「暮らしと設備」
BtoB製品総合案内サイト 構築プロジェクト

BtoB事業成果を支える、
コミュニケーションのデザイン

三菱電機 辰巳裕子氏にインタビュー

注力1:
「ビジネス課題」「ユーザーニーズ」の
コンテキストに沿ったサイト設計

辰巳さんがプロジェクトリーダーを担っていたとお聞きしていますが、推進するにあたり注力されたことを教えてください。

辰巳 本プロジェクトは2013年3月にスタートしているのですが、私は2013年12月下旬からジョインしてそのときにはユーザー調査が終わっていました。その後のプロセスの中で注力したことをお話しさせてください。

注力したことは大きく3つあります。
1つ目は「製品ごとに違う事業特性やユーザーニーズをいかにサイト設計に落とし込むか」、2つ目は「多くの社内関係者からいかに理解と協力を得るか」、そして3つ目は「社外パートナー会社とのコミュニケーションをいかにとるか」です。

まずは1つ目のサイト設計について。
情報構造やページの構成要素などをどう織り交ぜるかを考え、具体化するための案を仕上げていくサイト設計にはかなり時間がかかりました。

22サイトあったと申し上げましたが、事業規模やマーケットの成熟度、ユーザーが必要とされる情報量や深さ、コンテンツの制作体制などが製品によって違うため、それを1つのフォーマットに揃えて公開後も継続的に廻していける運用に落とし込めるかどうかを考慮して決めていく作業は大変でした。また、前述の「真のマーケティングプラットフォームの整備を目指した」という言葉の中の「プラットフォーム」には、「ユーザーのコンテキストに沿って探している情報にたどり着きやすくする」という意味合いも含まれます。企業の製品サイトを見る目的やたどり着き方など、ユーザーのコンテキストは事業の特性によって大きく変わります。マーケットが成熟しており高い専門知識が必要とされる製品には技術要素の強いスペック情報が求められますし、マーケットが未成熟で理解しやすい製品には設置イメージのビジュアル情報が求められるなど製品によってニーズも違います。

それに、事業課題をWebサイト上でどう解決していくかということも考えなければなりません。たとえば、「お問い合わせ」を見ても、「わかりやすい情報が見つけやすく提供できていれば発生しないであろうお問い合わせが多くなり、オペレーションコストが高くなっている」といったことや、「一般的で単純なお問い合わせを減らしたいが、大きな商談につながる良質なお問い合わせは増やしたい」といったことなどさまざまな課題がありましたので、1つ1つ解決策を見つけていきました。

また、解決策のサイト成果を見える化するため、それぞれの課題について成果指標を決めて定期的にレポーティングできるよう、システム担当の協力を得てデータを整備してもらいました。それまではマーケティングに利用していなかったため、情報をもっていても定期的に測定するのは運用負荷が高すぎて、指標には使えない状態になっていたものばかりでした。

マーケティングプラットフォームとしてしっかりと機能させるためには、こうしたことを1つ1つ綿密に考える必要があり、本プロジェクトにおいてサイト設計はとても重要でした。

解決策はどのように導き出したのでしょうか?

辰巳 それぞれの課題ごとにいくつかサブプロジェクトを立てるなどして、最適なメンバー構成に絞って解決策の検討を積み重ねるようにしました。手間も時間もかかりましたが、1つ1つ課題に向き合いながら、限られた期間のなかでこの構築プロジェクトの成果が出せるようバランスを重視しました。
ページ構成は、ユーザーニーズの度合いやボリュームによって、重要な情報からコンテキストに沿って配置しています。コンテキストが製品によって異なる中、サイト利用が多い製品のユーザーニーズを優先して押さえるべきポイントを見極め、不満につながるようなマイナス要素をできるだけ削っていくという意味でのバランスです。

そのバランスを大事にして、Webの経験値やスキルが高い社内関係者やコンセントさんに協力を得ながら、ユーザーのコンテキストだけでなく、製品ごとの事業課題やコンテンツオーナーである販促担当の細かなニーズを汲み取って、サイト設計案を仕上げていきました。
製品ごとに違う事業特性を活かすため、統一したフォーマットの制約やガバナンスは最小限に抑えるようにし、それぞれ情報量や構成要素には自由度をもたせるようにしています。

 

注力2:
社内ステークホルダーからの
理解と協力を得るために

2つ目の注力「多くの社内関係者からいかに理解と協力を得るか」について、詳しくお聞かせください。

辰巳 お話ししましたように、Webサイトのコンテンツオーナーは製品ごとの各販促担当ですが、その先には宣伝担当やサイト制作の営業担当、制作担当がいます。その方たちすべてから、Webサイトの再構築に対して理解と協力を得られるように、策定したサイト設計案をもって本社をはじめ、全国の製作所一カ所一カ所に直接説明して回りました。一人残らず理解してもらうため、個別での説明会も数多く行いました。私がプロジェクトにジョインする前に方針の説明を行っていましたが、人事異動などで担当者が交代していたところもあり、改めてすべての販促担当に説明しました。当社の中でも私がいるリビング・デジタルメディア事業本部はボトムアップで展開していく土壌があるのです。ただ、ボトムアップだけでは行き詰まる場合もありますので、ときには製作所長にご協力をいただきトップダウンでの展開を織り交ぜながら進めるようにしました。

中にはとても強い責任感をもってそれまでのWebサイトを運営している担当者もいて、何度か話し合いを重ねたこともありました。このプロジェクトでは、それまで運営していた従来サイトをすべて閉鎖して新しいプラットフォームに移行する方針でしたので、なぜ移行・閉鎖する必要があるのかという反感を抱かれるのは当然のことです。そういった場合は、従来のWebサイトのアクセス状況や事業課題を改めて共有するとともに、BtoB事業のサイト全体でフォーマットを統一させるユーザーメリットや販促活動上のメリットをできるだけ具体的に説明するようにしました。

注力3:
社外パートナーのディレクション

3つ目の「社外パートナー会社とのコミュニケーション」とは具体的にどのようなことでしょうか?

辰巳 三菱電機では、Factory Automation サイトで大規模リニューアルを経験しており、そのときのノウハウを取り入れるためにサイト設計をコンセントさんにご協力いただきました。本プロジェクトに私がジョインしたときには、コンセントさんのほかCMS導入やサイト内検索、レコメンド機能など、システム構築ベンダーのパートナー会社が数社決まっていました。

すべてのコンテンツオーナーから合意を得たサイト設計案をシステム構築につなげるため毎週、定例会を行い、要件定義から設計・開発と進めながら各社の進捗状況や課題を説明いただき解決策を協議・決定、という日々テクニカルな課題調整との闘いだったと思います。専門的な内容ばかりですべてを理解するのは難しく、「実現したいコアはなにか」を明確にもってそれに沿ったかたちであれば細かなところは信頼してお任せするしかありません。さらに既存の社内データベース管理システムとの連携やアクセス解析周りの設計、サイト公開後の運用設計それぞれでパートナー会社に協力を得ることになり、毎日いずれかの定例会を行っていたかと思います。従来の22サイトそれぞれの制作担当や営業担当の方が異なっていたため、コンテンツ移行を進めるにあたりさらに増えて、プロジェクト終盤にはかなり多くの社外関係者に関わっていただくことになりました。

すでにスケジュールが遅れていたこともあり、公開日に向けて、関係者全員とうまく調整しながらシステムの設計、開発、検証、バグ対応といったことを進めていくにあたっては、かなり苦労しました。私は本プロジェクトに携わるまで大規模サイト構築の経験がなく、日々技術的な実現方法を教えてもらいながら1つ1つ落としどころを見つけていく作業は、関係者全員の協力なしに進められませんでした。限られた時間の中で、サイト設計に込めた譲れない部分と照らし合わせながら、リスクの少ない現実的な落としどころを見つけて細かな取捨選択を即決して進めていくプロセスは体力勝負になりました。コンセントさんにもかなり尽力していただいて、社内外すべての関係者が一致団結していたから無事に予定通り公開できたのだと思います。

公開後も改善・検証を繰り返し、1年経った今はだいぶ落ちついてきました。でもまだ完成はしていないと思っています。

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BtoB製品総合案内サイト 構築プロジェクト

BtoB事業成果を支える、
コミュニケーションのデザイン

三菱電機 辰巳裕子氏にインタビュー

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「プロセス」と「ゴール」を描く「デザイン」

Goal Design
短期的な成果を現場と共有し、長期的成果につなげていく
真のマーケティングプラットフォームを目指して

Communication Design
注力1:「ビジネス課題」「ユーザーニーズ」のコンテキストに沿ったサイト設計
注力2:社内ステークホルダーからの理解と協力を得るために
注力3:社外パートナーのディレクション

Key Factor in Design
「プロセス」と「ゴール」を描く「デザイン」
「現場でのデジタル領域の捉えられ方」を常に意識