FEATURE ARTICLES 21

ビジネス×デザイン Vol.4

共感が生む、新たな価値共創の場

INTERVIEW 1

「ワコールスタディホール京都」
について

コンセプト設計

平和につながる
「世の中の女性を美しく」という想い

鳥屋尾さま、中太さまが所属されている総合企画室 広報・宣伝部の役割について教えていただけますでしょうか?

鳥屋尾氏(以下、敬称略) 株式会社ワコール(以下、ワコール)は、持株会社である株式会社ワコールホールディングスを中心に構成されるワコールグループの事業会社です。経営戦略をはじめとした戦略を立てるのが総合企画室の役割ですが、2つの部門があり、1つは事業を企画する事業企画部、もう1つが、私たちが所属する広報・宣伝部で、ワコールの事業や商品を広く宣伝していくことが使命となります。

広報・宣伝部は役割ごとにいくつかの課に分かれており、商品の魅力を伝える切り口を考え情報・文脈をつくる宣伝企画課や、その情報を発信する広報・宣伝課と宣伝・PR課、Webサイトに特化したPR活動を行うWEB・CRM企画課、広告をつくる企画デザイン課があり、私が所属しているスクール企画課もこの広報・宣伝部の中にあります。

ワコールは本社が京都にありますが、課によって東西に拠点があり、スクール企画課も2016年8月に完成した新京都ビル内の他、東京の麹町ビルにオフィスがあり、麹町ビルのメンバーと新京都ビルの一部のメンバーが「ワコール ツボミスクール」を、残りのメンバーが「ワコールスタディホール京都」を担当しています。

私はこのスクール企画課の課長として、京都と東京の両拠点、および「ワコールスタディホール京都」をみています。

中太氏(以下、敬称略) 私が課長を務めている宣伝企画課は、個々のブランドではなく全社横断的な宣伝活動を一手に担っており、「ワコールピンクリボン活動」「ブラ・リサイクル活動」の他、京都マラソンや京都サンガF.C.の協賛をはじめとしたスポーツ関連の支援活動を担当しています。

まず、「ワコールスタディホール京都」についてお話をお聞きしていきたいのですが、2016年10月6日に、スクールやライブラリー、コワーキングスペース、ギャラリー等を備えた施設として京都駅八条口前の新京都ビル1階・2階に開設されます。どのような目的があるのでしょうか?

鳥屋尾 「美しさ」をテーマに美を集積していくのが「ワコールスタディホール京都」ですが、キャッチコピーとしてつけた「美的好奇心をあそぶ、みらいの学び場」という言葉に、私たちがなにをしたいのかを表しています。

なぜ始めたのか、その根本にあるのは、わが社の理想であり目標として掲げている「世の女性に美しくなって貰う事によって広く社会に寄与する」ことですが、私はこれこそがワコールの存在意義だと思っています。

では、なぜ女性を美しくすることが広く社会に寄与することにつながるのかと申しますと、創業者である塚本幸一の戦争体験が深く関係しています。塚本は戦争を体験しておりまして、塚本の小隊が船出した際には、55人いた隊員が最終的にはわずか3人しか生き残らなかったんです。ミャンマーから日本に帰国するときに「戦死した仲間の代わりが自分であっても少しもおかしくなかった。どうして自分は生きているのか」と思い悩みますが、塚本はハッと「自分は生きているようにみえるが、一度死に、再び別の理由で“生かされて”いるのだ」と気がつきます。そして「この生かされた人生をどう生きるのか」と考えたときに、なにか社会に貢献できるようなことをしたいと思い、「世の中の女性を美しくする。そんな産業を興そう」と心に決めるのです。

戦争下では美しさなんて考えてはいられない状況ですが、それでも女性は今の自分よりもさらに美しくなりたいと常に思っているものですよね。「女性が “美しくなりたい”という願いを謳歌できる時代こそが平和の象徴である」と考えたわけです。女性を美しくすることが世界の平和につながる。ならば自分は世の中の女性を美しくして、広く社会に寄与したい、のだと。

「モノ」に依らない、美しさの手法として

鳥屋尾 創業当初は時代背景的に繊維製品が扱えなかったため模造真珠のネックレスやバッグの取っ手、ブローチなどの装飾品の商売をしていたのですが、あるとき塚本がブラパットに出会ったことをきっかけに婦人洋装下着を扱い始め、これまで70年ほどの間、「下着」というものを通して世の中の女性を美しくするお手伝いをしてきたのがワコールです。

下着を扱い始めた当時はほとんどの女性がブラジャーを着けていなかった時代。バストを立体的に形づくる造形美という概念がなかったんですよね。それが今ではブラジャーを着けるのが当たり前のことになりました。これだけ豊かになった時代でワコールがさらに社会に貢献できることは、心や感性の美しさ、生き方を支援するといった、「モノ」に依っていない部分なのではないか。そこに寄与できる事業はなにかと考えたのが、この「ワコールスタディホール京都」の起こりです。

ワコールが考える「3つの美」

鳥屋尾 美しさをテーマにすると言ってもそれだけでは言葉の意味も広いので、「どういう“美しさ”があるか?」と広報・宣伝部メンバーを中心に熟考し、「身体の美」「感性の美」「社会の美」という3つのテーマを掲げました。

なぜこの3つのテーマかと申しますと、ワコールには「ワコール人間科学研究所」という50年以上にわたり女性の美しさを科学的にみつめ日本人女性の体型計測および女性下着を研究開発してきた組織もあり、「身体の美しさ」はずっと研究していることですし、先ほどお話ししたように「感性の美しさ」も今回のコンセプトの1つなので外せないものです。残る「社会の美」についても、私たちワコールは「社会のありようまでも美しくしたい」と思っていますので必要不可欠なものなんですね。

「ワコールスタディホール京都」は、この「3つの美」で展開するスクールと、「美」の集積であるライブラリーをメインに、コワーキングスペースやギャラリー、ショップも併設した施設です。どんなカリキュラムや本を揃えているのかが、私たちの人格を表すのではないかと思っています。

「社会の美」について、少し具体的に教えていただけますでしょうか?

鳥屋尾 ワコールでは、先ほど中太の話にあった「ピンクリボン活動」「ブラ・リサイクル活動」の他にも、着け始めの年齢のお子さんが下着の大切さと身体の成長について学べる出張型の下着教室「ワコール ツボミスクール」などのCSR活動に取り組んでおり、それが「社会の美」というテーマにつながっているというのが大きくあるのですが、「ワコールスタディホール京都」では「社会を美しくするのはどういうことなのか」についてもっと考えていきたいと思っています。

わかりやすい例に「わたしだけのマイプロジェクト探究ラボ」があるのですが、これは「社会の美」の講座として最初に立ち上げたものです。「社会をこう変えるんだ」といった壮大なことではなく、「私はこうなりたい。そのために、自分はなにをすればいいのか」とひとりひとりが棚卸しして自分の目標を決め、実際にやってみてその結果どうだったかというところまで行う「その人にしかできない」プロジェクトなんです。Webマガジン『greenz.jp』の元編集長で今は京都精華大学人文学部の特任講師をされている、勉強家の兼松佳宏さんにファシリテーターとしてご一緒いただいています。

なぜ個人のためのプロジェクトなのかというと、社会の美しさというのは1人の人間の変化によって起きることだと考えていて、まずは「人の生き方」という単位にスポットを当ててやっていこうと。単発講座ではなく連続講座として行う予定です。

また、コンセントさんと共同開発した「ココロとカラダに向き合う下着デザインワークショップ」も「社会の美」を目指した1つのかたちですね。

「8つの切り口」で無限に広がる美の学び

講座を通して3つのテーマを具現化しているのですね。

鳥屋尾 はい。ただ3つのテーマだけですとぼんやりしてしまうため、さらに「哲学、歴史、文化、アート、科学、トレンド、生活、ビジネス」という8つの分野を設けています。

たとえば、「社会の美」の講座の1つ、「京都観光おもてなし大使が語る“京都の伝統とモダンの美” 京都達人的案内」は、京都観光おもてなし大使で地域活性プロデューサーの島田昭彦さんを講師にお迎えして、洛内の伝統と革新、伝統とモダンの美をテーマにとっておきのスポットを2時間でご紹介するバーチャルトラベルですが、「文化」や「アート」が関連しています。

このように、8つの切り口を入れることで、「身体」「感性」「社会」のひとつひとつの「美」が無限に広がっていくんですよね。

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ビジネス×デザイン Vol.4

ワコール鳥屋尾優子氏、中太寛行氏にインタビュー

共感が生む、新たな価値共創の場

ワコールスタディホール京都/ワコールつどいプロジェクト

INDEX

「ワコールスタディホール京都」について

「ワコールつどいプロジェクト」について

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