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ビジネス×デザイン Vol.4

共感が生む、新たな価値共創の場

INTERVIEW 2

「ワコールスタディホール京都」
について

価値共創

売るだけではなく、
「価値を伝える」

「ワコールスタディホール京都」やさまざまなCSR活動をされているワコールさまは、「学びの場」ということを大切にされている印象がありますが、その背景には冒頭にお話しされていた創業者の塚本さまの想いがあるのでしょうか?

鳥屋尾 私たちが啓発活動を熱心に行っているのは、やはり起業した背景にあると思っています。

先ほどお話ししましたように、ワコール創業当時はブラジャーというのはほとんどの人にとって存在は知っているものの着け方がわからない、というものでした。そこで1952年に阪急百貨店さまで初めて、女性にブラジャーの着け方を教える下着ショーを行いました。教育としてショーを行い隣で即売会を実施するというかたちで。300人ほど入るホールが連日満員という反響ぶりでした。

1952年に阪急百貨店で当時の著名デザイナーの藤川延子氏の指導のもと開催された下着ショー。詳細は以下の記事をご覧ください(写真は以下のページより転載)。
ワコール「まだ見ぬ美へのアプローチ。」

そうした啓発活動とモノを売るということを同時にやっていった結果、ショー開催の要請が相次ぎ、ワコールというブランド名だけでなく下着への関心が飛躍的に高まり、ワコールのショーは全国的な展開をみせました。

着物から洋装へと女性のファッションが大きく変わりつつあった戦後という時代。和装での下着は、胸の大きさを抑えるために使われていました。下着を身につけた女性がステージを歩くというショーで、着け方だけではなく、それまでの価値観を打ち破り、「こんなに美しくなれます。だから必要なんですよ」と、美しい身体のラインを創り出すというブラジャーの価値を伝える。モノを売るだけではなく、「モノの価値」をきちんと説明するという啓発に関して、当時からずっと取り組んでいるんです。

「なに」をもち帰っていただくのか

ブラジャーを着けることが習慣化した背景には、人々が気づいていない価値に気づけるようにする、ワコールさまの取り組みがあったんですね。

鳥屋尾 ワコールではずっと「コンサルティング販売」をしているんです。おひとりおひとりの身体に合ったブラジャーを売り場で見つけていただけるように、ビューティーアドバイザーがお客さまの相談にのりアドバイスをして商品をお届けしています。

そのため、私たちにとってモノを販売することと学びというのは遠い話ではないんですが、「ワコールスタディホール京都」をスタートする際に、「ワコールがなぜ学校を?」という質問もたびたび聞かれました。たとえば「この講座を受けたからといって、ブラジャーが売れるのか?」といったように、直接の商売とは遠い存在のスクールがワコールの理念と結びつかないというイメージをおもちだったようなんですね。

どのようにお答えになったのでしょうか?

鳥屋尾 そのときにご説明したのは、冒頭にお話ししたことになりますが、「ワコールという企業は下着メーカーですが、モノを売っているだけではなくて、“女性が美しくなる、美しくいられる世の中をつくり社会に寄与したい”と思っているので、違和感を感じることなく(スクールを)やっています」ということです。

もちろん、物体ではないものをお届けして対価をいただくということは新しい取り組みですので、そうした意味でこれまでとの違いというのはありますが。

これまでやられてきた啓発活動とはやはり違う?

鳥屋尾 そうですね。

たとえば「ワコール ツボミスクール」は、一般の方を自分たちで集客するのではなく、小学校や中学校からの要請をいただいてうかがうという出張型の下着教室ですので、場所ももっていないですし、お話しする内容もご要望に合わせたものになりますし、対価もいただいていません。

一方、「ワコールスタディホール京都」では、わざわざここに足を運んでいただいてお金をお支払いいただきますので、「ワコールスタディホール京都」ならではの興味深い切り口でカリキュラムをつくり、そこに参加いただいた方に「“なに”をもち帰っていただくのか」をより丁寧に自分たちで考えていく必要があります。

時間と費用をかけていただくに価する内容を、ということですね。

鳥屋尾 「モノ」がないところでどのように集客するのかということも考えなければならない重要な点です。「こういうことを学びたい」とはっきりした目的をおもちでない方にも「受けてみたい」と思っていただけるような、その方の心をくすぐり潜在的ニーズに応えられる講座をつくることを目指しています。どういうインサイトに合う講座をつくるのか、タイトルをどう付けるのかといったことは千差万別です。「ワコールスタディホール京都」は本当に広い層の方にお越しいただける場にしたいので、対象者がさまざまであることを考えると提供する講座は無限にあり得るわけです。それだけに難しいというか、おもしろいのですが。

広がる「共創」の可能性

「ワコールスタディホール京都」には、どのような人に来てもらいたいと考えていらっしゃいますか?

鳥屋尾 キャッチコピーに「美的好奇心をあそぶ」とあるように、好奇心をおもちで、なにかおもしろいことを吸収したいと思っていらっしゃるような方に来ていただけたらと思っています。20代の方にも80代の方にも来ていただきたいです。

訪れた方が好奇心を満たしたりさらに興味を湧かせたりしながらなにか行動につながって社会に少しずつ結びついていったらいいですね。
企業と顧客が一緒に新たな価値を創り出す、まさに「価値共創」をされていく場なのだと感じました。

鳥屋尾 「ワコールスタディホール京都」では、1人で学んで1人で満足するというより、同じような興味をおもちの方たちが集まってコミュニティをつくってほしいと思っているんです。そうしたコミュニティからモノが生まれたら最高ですが。

ここ数年、オープンイノベーションによる創造を目指したフューチャーセンターが増えています。「ワコールスタディホール京都」はB to Cなので本当にいろいろな方がいらっしゃると思っています。来てくださった方々と私たちとがコミュニケーションをとりそこから新しいなにかを生み出していくということは、やりたいと思っていることです。ここをつくった目的の1つでもありますので。

企業が一方的に提供するのではなく、顧客と一緒に創り出す「共創」というかたちだからこそ、創り出せる価値はあるとお考えでしょうか?

鳥屋尾 人にはいろいろな価値観がありますし、知っている知識も多様です。集い語り合う場でその多様性を体験しながら、自分にないものごとの見方ができるようになってくる。そういう意味で、共創していくことはとてもよいことですし、お互いにいろいろな気づきがあるので、そういう関係性はすごく大事だと思っています。

「ワコールスタディホール京都」を立ち上げるにあたっても多くの方にご協力いただいているのですが、その方たちと「こういうことをやりたい」と相談していく中で、おもしろいアイデアや企画などいろいろな話が生まれました。そんな会話が共創につながっていくのだと実感しています。この場所を通じて新しいなにかが生まれる。さまざまな共創の可能性があると信じています。

「場」が、
段階を踏んだ共創を可能に

今後の展望としても、そうした共創による価値創出というのは考えていらっしゃいますか?

鳥屋尾 いくつかのステップがあると思っています。

「ワコールスタディホール京都」は講座が商品なので、参加された方とその講座に関するいろいろなお話をしてお客さまにフィットするように新しくつくっていくというのも1つの小さい共創ですし、いらっしゃった方々と一緒に大きななにかをつくって、最終的に社会を美しくしていく活動を生み出すということもあると思います。ただ、それをするためには人に集まっていただかないことには始まらないので、まずは魅力的な講座や施設をつくっていくことが大切だと思っています。

共創は、「やろう」と決めさえすれば別にこの場所がなくてもできるわけですが、「この場所を使う」と考えることに広がりを感じています。「なにかを学びたい、美しくなりたい」と思っている方たちが集まってくださって、いろいろな話をする中でここを好んでくださる方が増えていけば、さまざまな共創を生み出すことができるのではと。

最初に「ステップ」と言ったのはそういう意味で、「ワコールスタディホール京都」という場があることで、段階を踏んだ共創というのができるのではないかと思っており、そこが期待しているところでもあり楽しみなところです。

自然に出てくる「ワコールらしさ」

いろいろな企業が直接的な販売にはつながらないような知的な活動をされているのをよく見かけるようになり、参加する側にとっては選択肢がたくさんある状況ですが、差別化といったことは視野に入れていらっしゃいますか?

鳥屋尾 差別化は頭のどこかにはありますが、他と比べてなにかを判断することはあまりないですね。それよりも、「ワコールスタディホール京都」のコンセプトに合っているかや、独自視点で編集できているかなどにこだわっています。

先ほどのテーマの話に関連しますが、実は「京都美学」ということもすごく意識している点なんです。京都は本当に奥深く美しい町ですし、ワコールにとっては創業の地であり結びつきが深い町だからです。

たとえば、「心で感じる茶の湯の美学 第1回 茶会の楽しみ」というお茶の講座は、京都の茶道美術図書出版社の株式会社淡交社さまと一緒に企画しているのですが、お手前を習うのではなく、茶道の中にある哲学を学んでいただくことを主旨とした講座です。よく禅寺とお茶という話がなされますが、なぜつながっているのかなどを学び、それを知ったうえで日常生活を送るのと知らずに送るのでは、なにか違うのではと。

ひとつひとつの所作に文化や歴史を感じられるようになりそうですね。

鳥屋尾 そうなんです。あと差別化という意味で言いますと、幸いなことに、創業者の塚本が創設した公益財団法人の京都服飾文化研究財団や、同じグループの株式会社ワコールアートセンターが運営する東京のスパイラルからいろいろな協力を得ながら、文化やファッション、アート的なものを取り入れていけるのもワコールらしさだなと。また京都商工会議所さまや先ほどの淡交社さまといった方々にご協力をいただけているのも、私たちが京都にいることがあると思いますので、そうしたところからワコールらしさが出てくるのではないかと考えています。

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ビジネス×デザイン Vol.4

ワコール鳥屋尾優子氏、中太寛行氏にインタビュー

共感が生む、新たな価値共創の場

ワコールスタディホール京都/ワコールつどいプロジェクト

INDEX

「ワコールスタディホール京都」について

「ワコールつどいプロジェクト」について

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