FEATURE ARTICLES 22

ビジネス×デザイン Vol.5

ビジョンの浸透が、よりよいユーザー体験を

ライフネット生命 加納龍二氏、酒井宏平氏、安藤瑞穂氏にインタビュー

働きながらがんを治す時代

はじめに、担当されているお仕事を中心に自己紹介をお願いします。

加納 氏(以下、敬称略) ライフネット生命の営業本部 お申し込みサポート部の加納です。ライフネット生命が開業した3ヶ月後の2008年8月に入社してから、ウェブサイトの運用周りをはじめ、定量調査やユーザー調査等を実施しながらさまざまな改善活動を行うなど、広範囲にわたり担当しています。

酒井 氏(以下、敬称略) 営業本部のマーケティング部に所属している酒井です。僕は入社4年目になります。今はウェブサイトを担当していますが、もともとはライターとしてオファーを受けて入社したので、特にウェブの制作経験があったり得意だったりというわけではなかったんです。ライティングから情報設計、デザイン、そして最終的にウェブを担当するというかたちで、この3年間に徐々にいろいろなスキルを身につけていきました。今ではチーム体制の構築、UXやUIに関しても中心となって改善施策を担当しています。

安藤 氏(以下、敬称略) 営業本部のマーケティング部に所属している安藤です。私は2017年4月に入社して、6月の途中にお申し込みサポート部からマーケティング部に異動になり、酒井のもとでウェブサイトの改善施策を担当しています。

山口 コンセントのアートディレクター/デザイナーの山口です。今回のライフネット生命保険さまの2つのプロジェクトで、アートディレクション、デザインを担当させていただきました。

そのプロジェクトの1つが、2017年8月にリリースされたライフネット生命さま初のがん保険「ダブルエール」のウェブサイト制作でした。この保険の最大の特徴は「治療費と収入減をサポートするW(ダブル)保障」ですが、まずは商品開発の背景を教えてください。

酒井 ライフネット生命の商品に、病気やケガで長期間働けなくなったときに給与の代わりに毎月一定額の給付金が受け取れる就業不能保険「働く人への保険2」という商品があります。さまざま病気やケガが原因で就業不能状態になりますが、実は、がんを原因として働けなくなる方もいらっしゃいます。

がんの場合、働けるようになり復職される方も多くいらっしゃいますが、治療と仕事の両立のために、異動や転職等で収入が減ってしまうことがあります。

従来のがん保険は治療費の保障が中心でしたが、いまは、働きながらがんを治療することも多くなっています。治療費のサポートだけではなく、収入減少もサポートできるようながん保険があったらいいんじゃないか、というのが開発の背景です。

がんになって長期間働けなくなった場合は「就業不能保険」がカバーし、復職後にがんの治療と仕事を両立する中で収入が減ってしまった場合は「がん保険」でカバーする、というコンセプトでつくったのが今回の新商品であるがん保険「ダブルエール」です。

また、開発にあたっては定量的な調査を行ったのですが、本当に役に立つがん保険をつくるためには、がん経験者の方の声をきちんと聞く必要があると思い、特定非営利活動法人キャンサーネットジャパンの協力を得て、アンケート調査を実施しました。572名のがん経験者の方が回答してくださったのですが、その結果からも実際に収入が減っている方が非常に多くいらっしゃることがわかりました。この調査にご参加くださった多くのがん経験者の方からの「こういったアンケートを取ってくれてありがとうございます」「私たちの声を活かしていってほしい」というお言葉が、非常に励みになっています。

社会のニーズ、
課題に合った保険を

ライフネット生命さまは、間もなく開業10周年を迎えられますが(2017年10月取材時点)、なぜ、今、がん保険をつくられたのでしょうか?

酒井 今年(2017年)、若い世代に後を託したいという考えで会長の出口が退任をして、代表取締役社長の岩瀬のもと、新しく30代の取締役が就任し、ライフネット生命の主要なお客さまに近い年齢の経営体制にしていこうという動きも背景の1つとしてありました。

加納 2008年の開業時は世帯の所得減少や少子化といった大きな社会課題があり、そこに対して創業者の出口が「安心して赤ちゃんを産んでもらうために、20~40代の子育て世代の保険料を半額にする」という理念で、インターネットを活用し、シンプルでわかりやすいベーシックな保険商品から提供を始めましたが、約10年が経過し、また新たな社会課題が浮上しています。

酒井 たとえば、共働き世帯の増加、単身世帯の増加などの社会環境の変化です。

たとえば、就業不能保険はアメリカやドイツなど海外では広く普及している保険ですが、日本では、全く知られていない保険でした。病気やケガで長期間働けなくなることは、非常に経済的リスクが高いと思います。働く生活者の皆さんに本当に必要な保険だからこそ、ライフネット生命は生命保険会社で先駆けて就業不能保険を発売しました。

今回のがん保険「ダブルエール」も、お客さまのニーズや社会の課題に合わせた保険だと考えています。がんは「死に至る病」から「長く付き合う病気」に変化してきていることに合わせて、働きながらがんを治療するために必要な保障を提供したいという想いで開発しました。

今の時代に合った保険を提案していくことが僕らライフネット生命の役割だと捉え、チャレンジを続けています。

契約件数10万件達成を記念して、社員一人ひとりがシールを手貼りしてつくったロゴ。休憩やイベント等に活用されている交流スペース「サマルカンド」に飾ってある(2017年10月取材時点)。

保険料だけでなく、
お客さまの検討コストも下げる

がん保険「ダブルエール」のリリースにともない、「保険料シミュレーション」も改修しましたが、背景にはどのようなことがあったのでしょうか?

加納 僕らが目指しているのは、お客さまに生命保険の必要性をわかりやすく伝え、保険料自体はもちろん、商品や保障のプランを検討するコストや手間を下げていくことです。世の中に合ったいい保険商品を追加する反面で、受け取る情報量が増えること、そして選択する要素が増えて選びづらくなり手間暇がかかる課題を生み出します。そのため、お客さまの検討コストを下げるためには、保険料シミュレーションの改修が必要だったんですね。

具体的にはどのような改修を行ったのでしょうか?

酒井 ものすごくドラスティックに変えたわけではないのですが、なによりもまず「お客さまがどういう保険に興味があるのか」という選択肢を提示するようにしました。

今までは保険料を提示して安さに共感していただくという体験から始まっていたのですが、商品が増えるとページが長くなるので疲れてしまいますし、一覧性に欠けるんですよね。お客さまにとって、ライフネット生命にどのような商品があるかがわかりづらいという課題があるんじゃないかと。その課題に対して「どういう商品に興味がありますか」「どの商品の保険料を見積りたいですか」という選択肢の提案から入るのは、お客さまのニーズに非常にマッチしているんじゃないかなと思っています。

改修の効果は実際に数字にも表れていて、お客さま1人当たりの商品契約数が増えているのですが、それを下支えしているのがこの選択肢の提案によるものだと捉えています。もちろん商品が増えたから契約点数が増えたということもありますが、お客さまご自身が能動的に「これとこれに興味がある」というところが出発点になっていることが、おのずとコンバージョンにも影響しているのかなと。

課題に気づきその打開策を模索して行う細々とした改善が、お客さまの利便性を向上させることにもつながっているのではと感じています。

加納 僕らが開業した頃は物事を調べるのはPCがメインでしたが、今はスマートフォンが主流になって、一時的に許容できる情報量がすごく減ってきていますよね。詳しいだけのウェブサイトではお客さまに負荷がかかってしまいますので、情報をできるだけ絞り、第1選択肢を投げかけて、次に第2選択肢を投げかけて、といったご案内に変えていくというように、お客さまの文脈に沿いながら情報を多段的に提供することを意識しています。

2017年に改修したライフネット生命の「保険料シミュレーション」。生年月日と性別を入力して、選択肢から見積りたい保険を選ぶだけで、保険料が提示される。また、電話やLINEでの相談窓口や資料請求なども提示され、見積り後のユーザーの行動文脈に沿った動線が設計されている。

http://www.lifenet-seimei.co.jp/plan/

※画面は2017年12月19日時点のもの。

オンライン・オフラインで
安心を

保険商品は1度契約すると密着した接点をもつことがあまりなく、またある日突然他の保険会社のものに変えられてしまうこともあると思うのですが、契約後の体験を考えて工夫されていることはありますか?

加納 たしかに当社は、経費を抑えてその分お手頃な保険料で提供するために自社の営業職員を持ち得ていませんが、その分、メールやLINE、お手紙などでのコミュニケーションをとても大事にしています。

たとえば住所変更されたタイミングで「ライフイベントにお変わりはないですか」とメールでお聞きしたり、僕らはお手紙と呼んでいますが厚みのある冊子を年1回送って契約内容の確認とご請求漏れがないように請求勧奨を行うようにしたりしています。

安藤 出産に関する請求勧奨はすごく評判がいいですよね。

酒井 世の中では20%ぐらいの方が異常分娩や帝王切開を経験されると言われていますが、これらで給付金を請求できることを知らない方が結構いらっしゃるんです。請求忘れがないように、「こういった事例でも給付金が出ます。なにか忘れていらっしゃいませんか」という請求勧奨を、お手紙を通して必ず行うようにしているんです。

加納 お手紙やメール、LINEの他にも、対面でのコミュニケーションの場として「ふれあいフェア」というご契約者さまと集うイベントを実施しています。このイベントは開業した2008年から数ヶ月に1回のペースでずっと続けているものですが、ご契約者さまと当社社員が1対1でお話をする中で、どういうサービスが必要なのか、提供サービスの認知度はどうなのか、などを肌で感じることができるんですよね。ご参加いただいたご契約者皆さんの満足度もとても高くて、続けて参加してくださったり、新幹線に乗ってきていただける方もいらっしゃるほどです。

ライフネット生命は解約手続きもウェブサイトで行えますが、それはお客さまを想えばこそで、それを阻害するために利便性を下げるというのはおかしな話なんですよね。

酒井 解約することを、必ずしも悪いことだとは僕たちは思っていないんです。
すごくありがたく感じたのは、解約後のアンケートでの「数年間お世話になりました。子どもが大きくなり保険が不要になったので卒業させていただきます」というお客さまのお言葉です。ライフネット生命が常々お伝えしている「子育ての期間中は経済的な負担が大きいので、必要な期間、最低限の保障を備えましょう。そうしたら保険料も安くて、もし何かあったら安心な保障もあります」という保険の考え方をしっかり理解されて、卒業というかたちで解約されている、ということなんですよね。これはまさに理想の形で、ご理解いただけていることの裏返しなのかなと思っています。

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