Interview 3
開業されてから約10年経ち、スマートフォンの普及等により情報の取り方が変わってきている中で、商品をつくったりウェブサイトを改修したりしていくときに、難しさを感じられているのはどこでしょうか?
山口 短時間で効くフックがないと読み進めてもらえないということは、コンテンツを出しているあらゆる人がユーザーの時間の奪い合いをしているということなんですよね。アプリもあればサイトもあってLINEや通知もある中で、時間の奪い合いが起こっている。最初の数行で目を惹かないと他のものに魅力で負けて淘汰されていくというのは、すごく感じていることです。
あと、PCの頃はPCに向かわないと見ることができないという条件があったので当然なんですが、腰を据えて情報を得ていたんですよね、それがスマートフォンになり、隙間時間で情報を得ることが当たり前になってきた。つまり「セッションのスタイル」が全く変わってきていて、情報を得るときのモードがそんなに気合いの入ったものではないんですよね。そこはやっぱり違うなと思います。
以前とは捉え方を変えたところはありますか?
加納 「保険料の見積り」をやってみて、わからなかったら「診断」をやってみる。診断をやってみたけどわからなければ「LINEで相談する」。LINEで相談しようかなと思ったら、電話口が空いているから「電話で相談する」といったように、さまざまなタッチポイントをウェブサイト上にちりばめるようにしています。お客さまが忙しい中スキマ時間に見ているのか、ゆったり時間が空いているときに見ているのか、「今の状況」が我々にはわからないので、検討していただく過程にそうした反応装置をできるだけ丁寧に用意しておくということは工夫しました。
なにかを検討しているときに、「メールで連絡してください」というのと「ワンタップでオペレーターにつながります」だったら、後者を選びますよね。反応装置、つまりそうした反応しやすい状況、お客さまのお時間を少しいただくためのサービスを用意して、「線」でデザインを考えることを意識しています。
そのようにさまざまな反応装置を用意されているのは、デジタル上のユーザー体験をどのように考えてのことなのでしょうか?
加納 今はまだウェブサイトで保険商品を選んで購入していただきますが、いずれそうではなくなって、たとえば音声でも保険商品が買えるような時代になってくると思うんですよね。僕らはウェブ販売に固執しているわけではなく、あくまで「生命保険をわかりやすく、便利に、納得して買ってもらいたい」だけですので、「この技術を使ったら、お客さまに有益なんじゃないか」と思うものを僕ら自身が実際に触って、体験して、探していく。ひょっとしたら10年後にはウェブサイトはなくなっているかもしれません。
酒井 今、ウェブサイトを訪れてくださっているのは、おそらくライフネット生命のことをもともとご存じのお客さまが多いので、検討の体験としては、わかりやすくてストレートにいくユーザー体験が一番望ましいかなと思っています。ただ、このままでは先細りしていってしまいます。
ライフネット生命のことをご存じないお客さまをどう取り込んでいくのかということを考えていく必要があるんですよね。わかりやすさだけではなく、ユーザー体験を変えていかないといけないので、そこが今の大きな課題です。
加納 真正面から保険のことをお伝えして知って契約していただくだけではなく、「健康」や「子育て」といったご自身が気になっていることや「社会問題」から保険につながるといった体験を提供できればいいなと。
酒井 まさにその仕掛けとして、あらゆるライフイベントに合わせた情報を提供する「ライフネットジャーナルオンライン」というオウンドメディアを運営しています。お客さまは実際になにかライフイベントが起こったときに保険を調べ始めることが多いと思うのですが、そのときにオウンドメディアを通じて、ライフネット生命という生命保険会社はこういうことをやっているんだと知っていただき、接点が生まれる。デバイスがスマートフォンに変わり、情報をどのように届け、どう探していただくかがますます重要になってきます。そこをしっかり考えたユーザー体験を、これから実現できるようにしていきたいですね。
ユーザーの生活に入り込むタッチポイントをたくさん実現されている中で、ウェブサイトの役割がどのように変わってきたのかをお聞かせください。
酒井 これは僕の勝手な仮説ですが、「ネット保険=ライフネット生命」というのがおそらく定番になり始めていて、「生命保険って幾らくらいなんだろう?」という最初のお財布感をつかむために、当社のウェブサイトを使うといった感覚もあるのかなと考えています。「見積りトライ」というイメージです。そういうちょっとした目的で訪れているお客さまをどう惹きつけていくか、そしてその先をどうしっかり掴んでいくのかは、やはりコンテンツ力やUI次第なのではないかと思っています。
ライフネット生命のSNSアカウント専用キャラクター「ラネットくん」。「ライフネット生命LINE公式アカウント担当者」に設定するなど、保険選びをサポートするナビゲーターとして活用している。
最後に今後の展望をお1人ずつお聞かせください。
酒井 抽象的な話になりますが、当社のウェブサイトを訪れていただいて、「本当にいい体験をしたな」とすっきりした状態でお申し込みを完了していただけるような体験を提供したいとずっと思っているんです。
保険はどうしても難しいイメージがあるのものですが、その答えというのは結局はお客さまの納得感なんですよね。その納得感の醸成と、ストレスをなくすことをどのようにして実現させるか。
保険業は免許事業です。監督官庁の下、きちんとやらないといけないところも多々あります。お客さまに適切な情報を提示する使命もありながら、でもストレスを感じさせないという絶妙のバランスを探っていくのがライフネットの使命なのかなと。それこそが本当のわかりやすさだと思うのです。うわべだけではなく、最終的な納得感とストレスがない状態をお客さまに提供するのが、僕らがやらないといけないことだと考えています。
加納 病気になられたり亡くなられたりした方のお話を知人からよく聞くのですが、「保険に入っていればよかった」と後悔することがないように僕たちは活動していかなければいけません。規模としてはまだ小さな会社ですが、そういう保険ニーズの顕在化にも力を入れていかなければいけないなと。保険会社としては基本的なことかもしれませんが、保険に携わる身として大事な責任だと思っています。
たとえば今回のがん保険で言えば、商品を伝えるだけではなくて、がんと就労という社会課題を広く世の中に伝えて、そこからがん保険の必要性を認識してもらう。そうした活動をすることで、「保険に入っていてよかった」と安心していただき、世の中のためになっていきたいと思っています。
安藤 もともとライフネット生命のパンフレット等を見ていて、保険をわかりやすくしようというのが伝わってきて、私もそういうものをつくりたいと思って入社しました。ただ、私たちの「わかりやすくシンプルに伝える」という考え方は、同業他社さんも徐々に取り組まれるようになってきているので、さらに一歩先を進めるものをつくれるようになりたいですね。
保険を決めるときに、いろいろな会社を見た結果、「やはりライフネット生命のウェブサイトが見やすかったし、使いやすかったからここにしよう」と思っていただけることを目指していきたいです。
山口 結局、「このブランドだから信頼できる」というところですよね。ライフネット生命さんの場合、「柔らかさ」や「ゆるさ」といったイメージをもたせながら体験価値を提案したり保険ニーズの顕在化に努められたりしていくことで、ブランドへの信頼感が醸成されて、「すっきりした状態」でお申し込みを完了できることにつながるのかもしれないですね。
ウェブサイトやLINE、オウンドメディアやブログなどさまざまな取り組みをされている中で「ライフネット生命らしさ」を感じられるのは、みなさんが共通のイメージをもてているからこそなのだなと思いました。
加納 「他社とは違うな」という想いで入社したメンバーがほぼ100パーセントだと思うんですが、マニフェストに書いてある通りで、圧倒的に便利でわかりやすいといったところをみんな目指してやっているんですよね。
「生命保険の未来を創造していきたい」という考えでつくった「202x年 空想保険」という動画があるのですが、これは、2020年代の近未来にテクノロジーの進歩によってお客さまと生命保険の関わり方がどう発展するかを空想した短編動画です。2020年代にしたのは、あまり先の未来だと遠すぎて実感としてイメージできないので、「これなら実現できているかもしれない」と期待していただけるようにしたかったからです。
この世界に、僕たちライフネット生命が一番に到達したいですね。
お客さまと生命保険の近未来の関わり方を空想して制作された、ライフネット生命保険の動画「200x年空想保険」。その制作背景は、『ライフネットジャーナルオンライン』で紹介されている。
(取材:2017年10月、掲載:2018年2月15日)
加納 スマートフォンへの変化は本当に大きいですね。生命保険は旧来の慣習が根強く、対面で丁寧にご説明することで、理屈よりも安心感という因子で選ばれやすい商材です。そのような環境下、スマートフォンを軸にどうコミュニケーションをとって、いかにしてお客さまの中に安心を醸成するかは難しいところです。大量の情報は苦痛でしかない時代ですから、安心していただける情報をたくさん出せばよいわけではありませんし。
安藤 「自分がすごく興味があったり、どうしても調べないといけなかったりという状況だったら長い文章も読みますが、ふだん触れているネットニュースなどの記事は、まず3行で概要があって、興味がある人はその続きを読む、といった仕組みになっていますよね。その3行でぐっと惹き寄せないと読んでいただけないだろうなと思います。