FEATURE ARTICLES 20
ビジネス×デザイン Vol.3
花王 AEM導入プロジェクト
ビジョンの実現に向かって
花王 後藤亮氏、田中剛氏にインタビュー
Background
後藤氏(以下、敬称略)
事業支援をするサポート部門になりますが、特にテクノロジーやコンテンツ、データといったデジタルマーケティングに関わる内容を扱う部署がデジタルマーケティングセンターです。その中でのコミュニケーション技術室は、社内外のテクノロジーの知見を、花王やグループの中にどう取り込むかを考えたり、使っていけるかを検証したり浸透させたりするプロセスを開発して実行に移していく部門になります。
店頭で購入する前にスマホで製品情報を調べたり口コミを参照したりといった、今の世の中のお客さまの行動や環境に合わせたコミュニケーションを実現するために、Webサイト運用やデジタルアセットマネジメントなども含めたソリューションを考え、いかにそれを花王やグループ内に浸透させていくかというのが我々のミッションですね。
後藤
なんだろうね?(笑) 現場仕事からマネジメントまで雑務も含めて全部やっています。
田中氏(以下、敬称略)
俺の役割は何だ? 格好よく言えばデジタルコミュニケーションのシステムアーキテクトです。どういう構造のシステムにするか「構造を設計する」っていう。コンセントさんお得意のインフォメーションアーキテクトのまねごともします。
田中
簡単に言うと、海外も含めた花王グループ全体で使えるデジタルマーケティングプラットフォームを構築するのがプロジェクト全体の最終目的です。これまでもアジア圏のサポートはできていたんですけど、欧米に関してはできているとは言えない状況だったので。
AEMは、アドビ システムズさんが提供するAdobe Marketing Cloud(以下、AMC)というサービス群の一つで、コンテンツ配信やデジタルアセット管理などの機能があってWebサイトの制作・運用・管理をしていく上で一番基盤になるものなんですね。プロジェクト全体は2020年までの計画なんですが、AEM導入はその最初のフェーズで、2014年10月ぐらいに本格的に始めて1年半ほどかけてやってきたところです(2016年6月取材時点)。
後藤
理由というか導入目的としては2つあります。
たとえばWebサイトのスマホ対応ができていないといったことは機会損失にもつながるので、早いタイミングでお客さまの状況に合った環境をつくっていくことが1つ。もう1つは、古くなってきたシステムをどうリプレイスするかという話が日本とアジア、欧米でほぼ同時に出てきたということがあって、単純に置き換えるだけじゃなく、このタイミングで先を見据えた仕組みを導入しよう、と踏み切ったと。
田中
ネットユーザーのモバイル利用が加速して花王のブランドサイトに訪れるお客さまもモバイルフレンドリーな環境に慣れている中で、企業サイト側がその環境に追いついていないのはだめだろうと。お客さまの期待に応えられるようにWebサイトやデジタルコミュニケーションのあり方を整理してマルチデバイス対応などを考えたときに、パラダイムを変える必要があるなと思ったんです。
なぜアドビ システムズさんのソリューションにしたかというと、今後デジタルマーケティングをやるんだったら、Webコンテンツを管理する機能だけじゃなく、その他のサービス全てと連携していく必要性が出てくる。いろんなメーカーのサービスをつなぐのって結構大変だしのちのち仕様が揃わなくなったりもするんで、同じ会社の製品ラインナップで連携させた方がたぶん楽だろうと。ソリューションを一通り提供していて我々に合致する会社さんっていうとアドビ システムズさんしかなかったんですよね。
田中
うちの上の人たちはリテラシーとか理解度が高いから、「これでいいんじゃない」って拍子抜けするくらいすぐに合意がとれましたね。
後藤
経営層に話をもっていく前には、しっかりと調査や検討を重ねました。今ある課題に対して今後どういうふうに対応していくか。いろんなツールの点取り表をつくって「これだったらいいんじゃないか」と判断して、それを使う社内の人たちの合意を取るというように。
お客さまのデバイス環境の変化に対応するためなので、経営層も含めて誰もノーとは言わない話ですし、一方、社内でそのツールを使う人間にとっても、商品画像などのWebコンテンツの素材制作はAdobeソフトを使っていることが多いので、同じ会社のものならばスピ-ディに統合できる。文字化けが起きたとか細かいところでみんな苦労しているので、「Adobeのツールで」と言った瞬間に、制作環境の変化の壁はぐーんと低くなりましたね。
後藤
うちの会社の風土として、「最終目的はこうしたいんだ」というところが間違っていなければ大きな抵抗はないんですね。ただ、各部門で抱えている課題はやっぱり違うと思うので、我々はその課題が何なのかを一番気にしなきゃいけない。解決するためにどういうことをやれば最終的に我々の描いている像にたどり着くか。最終的なゴールは一緒で、そこにアプローチするプロセスだけが課題ごとにちょっとずつ違うところを我々がどう提案できるかだけかなと。
田中
さっきのスマホ対応という話も、「お客さまの環境変化がある中でうちってできてないよね。だからこういうツールを入れてこういうフローにしたら、コストも下がるし時間短縮になるよね」っていう話をすれば、「それはいいよね」ってなる。
後藤
そのゴールイメージはみんな一緒になれたかなと思っています。
後藤
大きなゴールにきちんと向かうように、それぞれの課題を解決するプロセスを慎重に設計しました。
田中
繰り返しになりますが、変えなきゃいけない理由にはお客さまの環境の変化があると。スマホ対応で言えば、国内ではコンセントさんにも手伝ってもらって変換サービスを使ったりしながらやっているものの、コストがかかることなので予算のあるブランドしかできない。国外では、たとえばアジア圏の人々がスマホでもインターネットにつないでいる現状を考えると、やっぱりWebサイトはスマホ対応をきちんとしていないと大きな機会損失につながる。でも状況をポジティブに捉えれば、競合もなかなかできていないようなのでチャンスでもあるっていう考え方がうちの部署としてもあったんですよね。そういう話をすると「そりゃそうだよね」となる。
ポイントがあるとしたら「当たり前のことしか言わない」っていう(笑)。「雨の日って濡れるよね」「夏って暑いよね」とか(笑)
後藤
そうそう(笑)。「誰もノーと言わないことは何なのか」を突き詰めるみたいな。課題をシンプルにするのが重要だと思うんですよね。
後藤
なんだろう…。現場のドロドロ仕事も含めてやっているところは大きいと思うんですよね。頭でっかちに考えるだけじゃなくて、現場の本当にドロドロとしたところまで理解しているから、ここに課題があるって見分けをつけてそこを攻められるっていうのはあるかなと。
田中
「こうすべきだ」という課題解決を提案すればみんな「そうだよね」ってなるけど、同時に「じゃあ、それって誰がやるの?」って話になる。こういう課題があるから対応してくださいって言っても、やってくれる人って少ないと思うんですよね。だから、「こういう課題があってこういうプロセスで俺たちが直しますんで、やらせてください」って言えば、「ああ、やって」となる。
前向きな安請け合いをするっていうね(笑)。よく言えばわらしべ長者的に仕事がどんどん降ってきますけど。本当にもう、後藤は室長なのでそれなりに偉いんですけど、現場仕事の安請け合いをしてしまう(笑)。すぐ首を突っ込みたがるっていうか、いい意味でね。
後藤
最近の苦痛は、途中で口を出さないことです(笑)。
後藤 自分1人で判断して仕事してるならそれでいいんですけど、チームとしてどうやるかっていうことを考えなきゃいけないですからね。大きな案件になってくると、判断に対していろんな意見も出てくるので、いったん飲み込んである程度考えてから、「じゃあ、どうしようか」ってみんなと相談しながら進めていかないと、あとあと厳しくなってくるかなと。優先順位も付けなきゃいけないしね。
ビジネス×デザイン Vol.3
花王 AEM導入プロジェクト
ビジョンの実現に向かって
花王 後藤亮氏、田中剛氏にインタビュー
番外編 in From Editors
「システム名は…“KANAI”です」