FEATURE ARTICLES 20

ビジネス×デザイン Vol.3

花王 AEM導入プロジェクト

ビジョンの実現に向かって

花王 後藤亮氏、田中剛氏にインタビュー

User Interface Design

UI設計

ジャブが響いてくるから

田中 このプロジェクトを通してデザインが重要だと実感しましたね。

通常、Web Content Management(以下、WCM)※1のシステムを利用してWebサイトを生成できるようにする場合、一番気にしなきゃいけないところとして「お客さまが見たWebサイトがどうであるか」っていうデザインがありますよね。そこはどの会社さんでも必ず重視して設計すると思うんですが、今回、コンセントさんには、お客さま向けのインターフェースはもちろん、それをつくるためのもう1つのインターフェースである「サイト制作者向けのユーザーインターフェイス設計(以下、UI設計)」にもかなり力を入れてやってもらいました。うちの場合、特定多数のパートナー会社さんに制作をお願いしているんですが、担当の方も替わるので、なるべく難易度が低い状態にしておかないとその都度説明が大変だろうなと。 ※1「Web Content Management(WCM)」とはWebコンテンツ管理のことで、日本では従来、「CMS」と呼ばれてきた。

サイト制作者向けのUI設計に注力されたんですね。

田中 コストがそれなりにかかることなので、普通は「わかるけど、そこは制作側に我慢してもらおう」となりがちですけど、そうしてしまうとあとあとジャブが響いてくることになると思うからなんですよね。まず3ヶ月間のテスト導入期間を設けて、AEMを実際に使ってコンポーネントの設計・開発をしてページ制作まで行うといった感じでコンセントさんに調査をしてもらったんですが、「サイト制作者に向けてのUIも設計しないと、結局生産効率が下がる」とわかったんです。

WCMのツールのデフォルトのインターフェースは簡単になっているとはいえ、やっぱり難易度は高い。文字修正レベルなら問題はないんですけど、花王の場合はかなり高い頻度でリニューアルレベルの更新をするので、楽にしておかないと結局コストや時間が無駄にかかってしまうことになる。ただでさえ新しいツールの習熟時間はすごくかかりますからね。

機能があり過ぎても使われないですし、難しくして何でもできるようにすると結局手でHTMLを書いた方が早くなっちゃう。だから、「花王のサイトにはこのぐらいの機能があればいいので、標準的にこういう設計にしましょう」と決めて、運用テストで課題が見つかったらつくったものをばらしてゼロからもう一度組み立てるといったことを繰り返し、使いやすいインターフェースをつくっていきました。

ただ、カスタマイズしたインターフェースはあくまで花王オリジナルになるので、初めてお仕事をしていただくときには1回は習熟しなきゃいけない。そういう意味でも習熟の難易度を下げておきたいなと。
実際に完成したものもそこそこ難しいとは思いますけど、デフォルトのインターフェースに比べればだいぶ使いやすくなっているはずです。

「あのサイトを 見ちゃったからな…」

一方の「お客さま向けのインターフェース」は、どういったことを大切にされましたか?

後藤 基本、シンプルに。

田中 理由としてはモバイルファーストというのがまずあります。

モバイルファーストと言っても、ガラケーの頃はネットワークの事情がよくなかったり速度が高くなかったりしてデータが重いと通信料がかかるから軽くしましょうということだったと思うんですけど、最近は通信料が定額制になった代わりにパケット上限があるというのが皆さんにとって一番怖い出来事だと思うので、そっちを考えた方がいいんじゃないかと。今はネットワークの事情もよくなっていて4Gでつながるところであれば家の有線よりも速かったりする場合もあるからやっぱり一番気になるのはパケット上限になる。絶対に見たいYouTubeの動画とかは重くても見ると思うんですけど、ちょっと知りたいだけの製品情報を見るときに貴重なパケットを使うかっていうとそうじゃないだろうと思うんですよね。

今の僕の中での「企業サイトやブランドサイトはこうあるべき姿」は、そこを結構気にしています。

ブランドイメージにも影響しそうですよね。

後藤 「あの会社のサイトを見たせいで、(パケット上限を超えて)速度制限がかかっちゃった!」とかね(笑)。機会損失にもつながりますし。

独りよがりにならない

田中 あとシンプルにということのもう1つはユーザビリティですね。

後藤 「探さないと出てこない」じゃなくて、「シンプルにその情報にたどり着くように」。

田中 昔ながらにいろいろ凝ったサイトって使いづらく感じるんですよね。たとえば、以前なら僕も感動したであろう、すごく凝った映画の紹介サイトがあったときに「何をしたいんだろう? 誰がうれしいんだろう?」と感じてしまう。今はモバイルファーストの発想がよくわかっている会社さんも増えて、昔で言う「さくさく出てくるサイト」が多くなってきているような時代。人気のあるWeb系のサービスサイトってやっぱり軽いじゃない? 最終的にはアプリにして囲い込みたいというのはあると思うんですけど。

そんな中、企業の独りよがりが目立つようだと、「お客さんは今これ喜ばないよな。パケット上限がかかっちゃうもんな(笑)」って。ローディングってなった時点で、多分そのサイトを閉じると思うんですよね。PCで見てる頃なら待ってくれたかもしれないけれど、今はマイクロモーメントって言われるように、刹那刹那で思いついてモバイルデバイスでちょっと調べるような状況なのに、そこをきちんと想像して設計をしているのかなと思う。

ビジネス×デザイン Vol.3

花王 AEM導入プロジェクト

ビジョンの実現に向かって

花王 後藤亮氏、田中剛氏にインタビュー

特集トップページに戻る