shiho yokoyama
Author:
shiho yokoyama

わたしはコンセントで、人に情報を届けるためのデザインを仕事としています。
紙媒体のデザインを中心としながらも、紙媒体・デジタル媒体問わず「ストーリーを伝えるデザイン」と向き合ってきました。

出版不況も騒がれる中、実際のところ人々がどのようにメディア(各種媒体)から情報を得ているのかは、この仕事を始めてからの高い関心ごとのひとつでした。
雑誌は読まなくなったのか。Webだったら読むのか。メディアについてどう思っているのか。

わたし自身もこの数年間の間、情報の受け取り方(紙の雑誌なのか。本なのか。ブックマークしているサイトなのか。 Twitterなのか。Podcastなのか。何を特化させて、どういった割合なのか)は変化し続けています。
職業的な関心ももちろんあるのですが、個人としても、どうメディアを消費していけばいいのかメディアの手段が多様になった分の戸惑いがあります。

そのちょっとしたヒントを得るために、統計などではなく、個人一人ひとりのメディアに関するストーリーを知りたいと思いました。そこでこの場を使って、異なる業界で活躍しているおもしろそうな方々に、メディアをどう使って(あるいは使わないで)インプットをしてそれをアウトプット(仕事あるいは趣味や生活)につなげているのか聞いていきたいと思います。

横山詩歩

 


Input & Output vol.1 : Interview with Jeffrey Chiedo
「幅広いメディアと幅広い視野」

今回、話を聞かせていただいた方:Jeffrey Chiedoさん(J)
聞き手:横山詩歩(S)

1. バックグラウンドについて

(S) お名前と職業を教えてください。

(J) Jeffrey Chiedoと申します。仕事ではアートに関するすべてのことをしています。アートをつくり、アートを収集し、アートを買い、アートをキュレートし、 アートについて書き、アートについて読み、アートと交流し、美術館に行き、その他にもいろいろなところに行き……。多分、すべてのレベルにおいて私はアートの消費者であり制作者です。

(S)あなたのバックグラウンドについて教えてください。

(J)シカゴで学部に行き、ニューヨーク近郊にある大学院を出ました。アートに関わる仕事をする前は、シカゴで建築とデザインに関するキュレーター兼評論家として働いていました。
アメリカと日本の行き来を繰り返しながら、日本にはもうかれこれ20年ほど住んでいます。

2. インスピレーションについて

(S)たくさんの肩書きをおもちですよね。どうやってその幅の広さを担保しているんですか?

(J) とにかくありとあらゆるものからインスピレーションを得ています。一見関係のないことからも、見方や組み合わせによってアイデアはやってきます。

(S)インスピレーションとは探すものなのでしょうか? それとも自然と来るものなのでしょうか?

(J)インスピレーションは自動的に来ますね。空手や柔道はチェスに似ていて型がいくつもあり、「こうされれば、こうやればこう動くべし」という対処法が存在している。空手とか柔道のプロは、その型を筋肉が覚えているから何も考えなくても自然に動ける。インスピレーションもそれと同じだと思います。今までのトレーニングの過程を頭が覚えているから、インスピレーションは自動的に来る気がします。

(S) インスピレーションが来た場合はどうしているのですか? メモは取りますか?

(J) だいたいは、ただ頭で記憶しているだけでなにもしません。たまにメモを取ったりもしますが。自分以外にも同じようなことを考えた人が他にもいるはずなので、他の人が同じトピックについてどのように述べているのかをリサーチします。

(S) どこでそういったリサーチをしますか?

(J)最近はネットですね。最も楽ですし。でも本屋にもよく行きますよ。

(S) 日本だとどういった本屋に行かれるんですか?

(J) 神保町にある本屋ですね。源喜堂とか。神保町には面白い本屋さんがたくさんあります。

(S) 日本とアメリカの本屋で違いなどは感じますか?

(J) 根本的なところでは特に違いは感じませんね。日本とアメリカでの違いというよりは、都市ごとの傾向はあるかもしれません。

3. 日本のメディアについて

(S)日本とアメリカのメディアを比較してなにか違いなどを感じますか?

(J) 日本人はなるべく政治的にならないようにしていると思います。その行為自体が政治性を孕んでいることに気づいているのであればまだいいのですが。ジャーナリズムの話でいくと、日本では90年代以前の方が今よりもきちんと批判がなされていた気がします。70年代の成田空港建設の新聞社の記事はとても建設的で批判もしっかりとしていたのではないでしょうか。あとは、日本のメディアのなかには品がないと感じるものもあります。例えば、若いアイドルの肌の露出はアメリカと比べると日本の方が多いと思います。

(S) 日本のニュースはいつもどうやって読んでいるんですか?

(J)日本語があまりうまくないので、ネットで日本語の記事を読む場合はGoogle翻訳を活用しています。紙の新聞もよく読みますよ。『Japan Times』と朝日新聞や読売新聞の英語版を読みます。『Japan Times』はゴシップも多いのですが(笑)。

(S)日本の新聞紙の英語版って日本語版と結構違うものなのでしょうか?

(J) 日本について書かれた欧米向けの記事と捉えられるとわかりやすいと思います。日本語版の内容をただ翻訳したというわけではありません。ですので、日本語版と英語版とでは同じ新聞社が出したとは思えないほど内容が違う場合もあります。日本に住んでいる「ガイジン」が日本について議論していることを理解したかったら、 日本の新聞の英語版を読むといいと思います。またアメリカを別の視点から見るのにも日本の新聞の記事は役立っています。

4. ニューヨーク的なスタイルについて

(S) いろいろな方法を駆使して広い視点を得ているんですね。

(J) 私は「ニューヨーク的なスタイル」がベストな生き方だと信じています。どういうことかと言いますと、例えば自分がアーティストだったとしても、医者の友達、弁護士の友達、音楽の友達、写真家の友達、彫刻家の友達、バーテンダーの友達といった友人のネットワークをもっています。それぞれの分野で困ったときは助けてくれる友達がいるし、紹介し合ったりもできるわけです。みんなが得をするシステムです。日本ではこういった傾向は低いように思えます。銀行員は 銀行員の友達しかいない。さらに言えば、同じ銀行内での付き合いしかない。こういう状況にいると視野はやはり狭まります。

(S) そういった幅広い関係性ってどうやって築いているのですか? いったいどこで出会うものなんでしょう?

(J) 普通にバーやレストラン、パーティー、友達の紹介などですよ。ニューヨークだとバーやレストランで見知らぬ他人に話しかけることは一般的です。でも日本だとレストランで隣のテーブルの人たちと話すのは稀ですよね。これはとても残念なことだと思います。せっかく隣でおもしろい議論をしているのであれば、その議論に参加するべきだと思います。自分の輪の外の人間ともっと話すべきで、日本のシステムは人々を分断しているように感じます。
また、幅広い世界で友人がいるとFacebook上の体験もとても豊かです。アクティビストや中東の現地にいる友達からニュースよりも先に情報が入ってくるので、ニュースメディアよりも大きい存在に感じられたりもします。ただかねがね思っているのは、「これは見たくない」というものを非表示にしてくれるフィルターをFacebookが早く開発してくれること。私はスポーツには興味ないし、ビートルズも嫌いです。他人の赤ちゃんの写真を永遠と見せられるのにももううんざりです(笑)。もちろん本人やその家族には意味のあることなので、ポストする行為自体を悪だと言っているわけではありません。

5. 好きな雑誌について

(S)紙の雑誌はあまり読まれないんですか?

(J) そんなことはありません。よく読みますよ。雑誌は遠い未来は教えてくれないけれど、少し先の未来を知る参考にはなります。

(S)どのようにして雑誌を読みますか?

(J) 『The Economist』なんかは定期購読してる友達からもらったり。逆に自分の読み終わった雑誌を友達にあげたりもします。

(S)好きな雑誌はありますか?

(J) 今日も持ってきたのですが、『Frieze』はずっと好きな雑誌です。アート系の雑誌で最も有名なのものは『Frieze』と『Art Forum』の2誌です。『Art Forum』はニューヨークからの視点で書かれた雑誌ということもあり、昔はよく読んでいたのですが、10年ほど前からフィルムとビデオの話ばかりになってしまい遠ざかっています。その点『Frieze』はもっと幅広くアートを扱っています。レビューもその展示に行きたいと思わせるものが多いです。たとえ悪い展示だと書かれていても、レビュー自体の出来がさほど良くなかったとしてもなぜか観に行きたくなる、もっと知りたくなりリサーチをしたくなる、そんなレビューです。ただヨーロッパ系の雑誌のため、やや反ニューヨーク的なバイアスは感じます。ニューヨークの方がロンドンよりも多くのアートギャラリーを持っているのだから、今 『Frieze』に載っている倍以上のニューヨークのレビューがあるべきだと思っています。

(S)なるほど。雑誌や紙の本もたくさん読まれている中で、ネットも活用されているんですね。本当にさまざまなメディアから情報を得ている方のお話が聞けておもしろかったです。ありがとうございました。

プロフィール
Jeffrey Chiedo(ジェフリー・チエド)
 
アート講師、ギャラリー・ディレクター、キュレーター、アーティスト。イエール大学大学院・修士号(写真)取得。ニューヨーク・スクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ・修士号(写真&芸術理論)取得。
アートギャラリーMotus Fort主催(現在移転中)。http://www.motusfort.com/

 

写真クレジット:Michael Holmes
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