Nobuyoshi Kanai
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Nobuyoshi Kanai

こんにちは、コンセントの家内です。
みなさん LEGO ブロックって聞いて、どんなことを思い浮かべますか?

僕は、子供の頃に買ってもらったオモチャが、ガンプラと LEGO ブロックしかなかったので、それはもう遊び倒した記憶が最初に思い浮かびます。
皆さんの中でも、子供時代に、また、お子さんがいらっしゃる方は、今まさにお子さんが、熱心に遊んでいる姿をイメージされる方も多いんじゃないかと思います。

LEGO ブロックをビジネスシーンで

そんな LEGO ブロックがビジネスシーンで利用されているのに初めて出会ったのは、まだ SE として駆け出しだったころに出張で行ったシンガポールでした。
とあるグローバル SIer に縁あって遊びに行かせてもらったんですが、そこで一人の研究員が黙々と LEGO ブロックをスクラップ&ビルドしている姿を見かけました。何をしているのか聞いたところ、「今やっているプロジェクトで必要なシステムフローを設計しているんだよ。」「システムフローは人と情報と時間の3つの軸で変化があるから、三次元の LEGO で形を作ると矛盾に気付きやすいんだ。」という話をしてくれました。

僕にとっては身近なツールで、話していることも理にかなっていると思ったので、実際に真似もしてみたんですが、当時の僕には設計に必要な視点も足りなくて、LEGO を使ったところでより良いシステムのイメージを描くことなど、到底できませんでした。

でも、立体的に物事を考えるという発想にはとても感化されるものがあり、いつも頭の片隅に LEGO を使った設計のシーンがひっかかっていて、何か活かせる場所があるんじゃないかと思っていました。

ファシリテーションに感じた課題から

時は流れてコンセントに入社、クライアントを巻き込んでブレストやワークショップを重ねる中で、ファシリテーションに難しさを感じ、何か良いフレームワークがないものか考えることがありました。
僕が感じた難しさは、参加者それぞれが持つブレストやワークの場に対してのリテラシーに、アウトプットが左右された結果、ワークを通じて得た気付きに偏りが生まれている。という点です。

場に慣れていない参加者は、その場での発想と言語化がうまく進まず、意見を引き出すことがもともと難しいのですが、そこに場慣れした参加者が加わると発言量のバランスが崩れ、徐々に意見が支配されていくのを、(それはノイジーマイノリティなんじゃないかと思いながらも、)なかなかコントロールすることができません。

そんなことをぼんやりと考えていたときに、イベント告知サイトで「LEGO® SERIOUS PLAY® メソッド企業向け体験会」というタイトルを発見、直感的に上記したエピソードを思い出し、秒殺で申し込み、大いなる打算を胸に体験会へ参加してきたのです。

どのようなワークショップかは、実際にコンセント社内で開催したインハウスデモでご紹介しますが、体験会に参加して感じたのは、ノンバーバルから入るワークであれば参加者のリテラシーギャップを埋められるんじゃないか?ということでした。

体験会後にファシリテーターの方と少しディスカッションした中で、ビジュアルワークショップとの対比として、ノンバーバルな手段を持って参加者のリテラシーギャップを埋めるのは同じだけど、絵の上手い下手っていう別のギャップを持ち込まない分、心理的なハードルはより下がる。という意見があり、これは1つの選択肢として持っておくのも良いかもしれない。ということで、コンセント社内でのインハウスデモを開催する運びとなりました。
(僕自身、絵が下手なので、ビジュアルワークショップのハードルは非常に高いのです。)

LEGO® SERIOUS PLAY® メソッド

まず、「LEGO® SERIOUS PLAY® メソッド」とはそもそも何か、インハウスデモ開催に協力いただいた、株式会社人材研究所の Web ページ(http://jinzai-kenkyusho.co.jp/business/od.html)から引用します。

LEGO® SERIOUS PLAY®(以下、LSP)は、認定されたファシリテーターによって運営されるワークショップで、ひとつのコミュニケーション手法であり、課題解決の手法です。参加者は、ファシリテーター及び参加者同士による質問を通じて、個人や組織が抱えるビジネス上の課題について考察を深めていきます。
参加者は、専用に用意されたレゴ®・ブロックを使い、ファシリテーターからの「お題」に応じて、ひとりひとり、自由に3次元の形を作ります。そして、この3次元で表現されたモデルが、グループディスカッション、知識共有、課題解決、意思決定の元になっていきます。
LSPの目的は、ミーティングに参加する全員のポテンシャル、洞察力、自信、そしてコミットメントを最大化することにあります。

うーん、「なるほど、わからん。」というやつです。
実際に認定ファシリテーターをされている方も、こうした説明をしても「所詮ブロックでしょ、そんなことできるの?」という反応が多いということで、LSP が注目されるに至った次のエピソードを話されています。

NASA(アメリカ国立航空宇宙局)は、2003年にスペースシャトルが2度目の重大事故を引き起こした際(1986年のチャレンジャー号事故に続き、2003年コロンビア号で2度目の悲劇が発生)、新たに「安全対策センター」を設立しました。

センターのプロジェクトリーダーは、世界中から高い専門知識を有する科学者やエンジニアを招集し、センターの“ミッション”を策定する会議の開催を企画しました。しかし、異なるバックグラウンドを持つ一流の専門家が世界中から多数集まる中で、どのように、「全員が互いを尊重しながら建設的に意見を出し合える場」を作るか悩んだプロジェクトリーダーは識者に相談しました。

その時に名前が挙がってきたのが、Robert Rasmussen氏と、彼がレゴ社において10年に渡る歳月をかけて開発した事業戦略構築の新たな手法「LEGO® SERIOUS PLAY®」だったのです。

当初は大きな懐疑心を抱いていた科学者やエンジニアたちも、ワークショップが始まると段々没頭し、5時間足らずの間に、全員が互いの意見を尊重しながら傾聴し、否定のない雰囲気の中で自由に発言でき、さらに各人のアイディアを建設的に発展していくことができる、ひとつの「チーム」になることができたのです。その後、会議はプロジェクトリーダーの狙い通りに進行し、全員が納得できる“ミッション”を策定するに至りました。

高度な専門家が集まるNASAにおいて、LEGO® SERIOUS PLAY®がその大きな可能性を発揮した瞬間でした。

LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター 
佐藤 新吾(株式会社人材研究所)

僕がワークショップに感じていた偏りという課題は、これで解決できるんじゃないかと思えるエピソードです。

インハウスデモ開催

インハウスデモの目的は、このメソッドをツールとして知ってもらうことですが、せっかく開催するのなら社内にある課題を考える場にしてみよう。ということで、当日ファシリテーションをお願いする、株式会社人材研究所 佐藤さん(LSP 認定ファシリテーター)の協力のもと、2014 年度のインターン生も取り組んだ「インナーコミュニケーション」をテーマとしたプログラムを作成しました。

インナーコミュニケーションがテーマとなるため、様々な領域から性別や年齢、社会人経験が異なるメンバー 20 名を参加者として募り、グループ編成もプログラムの1つとして準備をすすめます。

そして迎えた当日、A 会議室を貸し切って 3 時間半のワークショップがスタートします。

今回はワークショップで取り扱ったテーマの話ではなく、LSP を紹介することを主題として以下レポートしていきます。

まずは、ファシリテーターの佐藤さんから、上記した LSP のルーツやワークの流れをお話しいただきます。

LSP の生い立ちやルールの解説などをしていただきます

さて、おおよその流れを把握してもらったところで、さっそく1つ目のワークに取り掛かりたいところですが、LSP のワークショップには重要なルールがあるので、この先は次の4つのルールを頭の片隅において読み進めてください。

〜 LSP のルール 〜

  1. 手を信じて、頭の中で議論しない
  2. 後付け、こじつけ OK!とにかく言葉に(禁句:「特に意味ありません」)
  3. モデルについて語り、質問しましょう
  4. ひとりひとり拍手して交代しましょう

注目したいのは「2」のルールです。
LSP のワークは、出されたお題に対して、まず LEGO ブロックを使ってイメージを形にするところからスタートします。
そして、形にしてしまった物には、他の参加者からどんな質問をされても言葉にして答えを言わなければいけません。
このルールがあることで、参加者全員が発言し、テーマにコミットすることを可能にしているんですね。
(参加された方は実感したと思いますが、これがとてもハードでかなり疲れます。)

では、実際のワーク風景をいくつか

大量の LEGO を囲む大人の集団

作ったものには責任をもって熱く語ります

LSP のワークは、お題に対してモデルを作る個人ワークの後に、グループ内でモデルについての共有を行うというサイクルで進みます。
この時、グループにいるメンバーは、そのモデルで気になったところを、どんどん作者に質問していくわけです。
質問されたことには、すべて理由をつけて答えなくてはいけないのですが、ファシリテーターから「モデルを見るときの観点」を冒頭で解説されている参加者たちは、遠慮なしでガンガン質問していきます。

〜 モデルを見るときの観点 〜

  • 人(人形や動物を模ったパーツがあります)
  • 距離(配置にも意味があります)
  • シーン(どういう状況なのかも、形とはまた違った意味を持ちます)

僕たちは普段、モノを作り上げる仕事をする中で、言語化したイメージをロジカルに積み重ねてアウトプットを組み立てていく癖がついていますが、LSP のワークショップは、まったく逆のプロセス。
作者は予想外の質問に戸惑いながら、なんとか理由をひねり出していきます。

作者は質問の集中砲火を迎え撃ちます

そうすることで、無意識に選んだピースの色や組み立てた形を通じ、自分自身でも気が付かなかった価値観や拘りを言語化、周囲に説明すると同時に自分自身でも再認識をするわけですね。

こうして、いくつかのお題で個人ワーク、グループ内での相互理解を進めながら、全員のモデルを統合することにもチャレンジします。

職種や年齢・性別を超えて、お互いの思いを尊重できる場が生まれます

個々人で作ったモデルの意味や拘りのポイントをグループ全体が理解しているので、それぞれの意見を尊重しながら1つのモデルへと統合が進められるという寸法です。

気が付くと壮大な統合モデルになっていきます

こうして、グループメンバーの総意として1つの統合モデルが作り上げられます。

最後のワークでは、統合モデルについての言語化をグループ全員でディスカッション。
これまで個人ワークで繰り返してきた「モデルを見るときの観点」を基にして、この統合モデル全体のシーンや部分ごとの配置、色、形が持つ意味を、言葉としてまとめていく工程です。

個々人が作ったモデルが持つ意味が統合モデルには反映されているので、最終的に言語化されても、そのエッセンスは必ず残り続けます。

最後にグループ発表を行なって、ワークショップは終了です

全員が自然と参加でき、相互理解の上で意見が集約されるワークショップ。
3時間半という長丁場というのもありますが、付箋使った言葉によるロジカルなワークショップに比べると、終了時の疲れ方が段違いです。
参加いただいた皆さん、本当にお疲れさまでした。

言葉には現れないモノを通して

LSP とは何か?という段で引用した文章から、再度1つのセンテンスを取り上げます。

LSPの目的は、ミーティングに参加する全員のポテンシャル、洞察力、自信、そしてコミットメントを最大化することにあります。

クライアントワークやチームミーティングなど、社内外を問わずに日常的に行われているワークショップですが、参加されるメンバーの中には、ワークショップそのものに苦手意識を持たれている方もいらっしゃいますし、立場の違いから意見を抑えてしまったり、単に場に慣れていなくて発言ができない方もいらっしゃいます。
ですが、その中には誰一人として、意見を聞かなくても良い人はいません。

LSP は、

  • 新製品や新サービスの開発のためのアイデアの共創
  • 社員のキャリア開発およびリーダーシップ開発
  • 企業の未来・ビジョン創りおよび事業部のミッション創り
  • 事業の戦略策定とアクション創り
  • 国内外の拠点および事業部の職域を超えたチーム創り

など、企業においてもさまざまなシーンで利用され始めています。
こうしたシーンに共通して言えるのは、多様性を相互に認めた上で、より良い状態が何かをアウトプットとすることが必要。ということなんじゃないかと思います。

現代社会においては、人々の多様な価値観と、企業やサービスがどのように共存していくのか?ということも、僕たちデザイン会社が取り組むべき重要なテーマだということはもちろんですが、まず身近にある多様な価値観に触れ、尊重しあえるプロジェクトをデザインできるように、このようなファシリテーション方法もオプションの1つとして持っておこうと改めて考えさせらる体験でした。

参加いただいた方たちへのアンケートから一部抜粋

「普段あまり接点がない人と、手を動かしながら話すことで、自分でも意外なくらい話すことができた」
「言葉にできない不思議な感覚を何度か味わえた」
「自分と他人、両方の思いが楽しく見れてよかった」
「最初 手が動かず、右脳使ってなかったなと実感できた」
「課題に対する対応のし方、いろいろと応用できるところもあると思う」
「社員間の無理のないコミュニケーションのキッカケになった」
「モノを使うことで、話が進むというのは面白かった」
「かたちに助けられて、みんなの考えがどんどん引き出され、飽きることがなかった」
「良い意味で無責任に答えられる安心感、必ず答えてもらえる安心感、この安心感がコミュニケーションに必要なのだと気付きました」

最後に

ワークショップの設計からご協力いただいた、株式会社人材研究所(http://jinzai-kenkyusho.co.jp) 佐藤さん。
ワークショップに参加いただいた、みなさん。
当日の準備を手伝ってくれた、高石さん、石井さん。
ありがとうございました。