shiho yokoyama
Author:
shiho yokoyama

Input & Outputはデザイナーの横山詩歩が、異なる業界で活躍しているおもしろそうな方々に、メディアをどう使って(あるいは使わないで)インプットをしてそれをアウトプット(仕事あるいは趣味や生活)につなげているのかお話を聞く企画です。

●企画の詳細やvol.1のインタビューはこちらをどうぞ。
vol.1 : Jeffrey Chiedo「幅広いメディアと幅広い視野」

 


Input & Output vol.2 : Interview with Eri Shimomura
「社会福祉のミッションと美の分野でのアウトプットをつなぐもの」

今回、話を聞かせていただいた方:下村恵利さん(以下、E)
聞き手:横山詩歩(S)

1. お仕事と『美ノ匠』について

(S) はじめまして。早速ですが、恵利さんのお仕事について教えてください。

(E)女性起業家、ビジネスオーナーのためのプロモーションツール制作プロダクションをやっています。Webサイト、写真、動画、デザインワークなど、ビジネスプロモーションに必要不可欠なツールをクリエイターと提携しワンストップで承っています。受注案件の他に自社でもWebマガジンを運営しておりオウンドメディアの制作に力を入れています。

(S)恵利さんが運営されているWebマガジンについて教えていただけますか?

(E)『美ノ匠』は、既存の予約取次ぎサービスのように「差別化しない一般的な店舗情報」で探すのではなく「人(施術者)の魅力」ベースで検索する「予約サイト」と「情報発信メディア」を組み合わせた情報発信型の予約サイトです。「美」の分野におけるクオリティの高いスペシャリストを厳選し、ご本人たちの実績や魅力をブランディングしながら、お店の規模に囚われない予約のきっかけをつくっていくことが目的です。彼女たちが出演するCMをつくる、個人に焦点をあてて、仕事への想いをインタビュー動画形式で紹介するなど、エンターテイメントの要素もとりいれています。
第三者目線で厳選した方を集めることでクオリティの担保をし、また『美ノ匠』において彼女たちは、現代女性の理想的な働き方を実現しているロールモデルという魅せ方を徹底することで、客観的なブランディングを構築しています。

(S)では恵利さんが考える現代女性の理想の働き方とはどういったものでしょうか?

(E)女性のライフスタイルっていうのが変わってきている中で、一か所集合型の働き方だけが選択肢じゃないわけですよね。朝から晩まで時間と場所を制約されて働くというスタイルだけでは、特に女性はいつか辞めなくてはならないケースが多くなってしまいます。さまざまな方法があると思うんですけれど、もっと柔軟な働き方が成り立てばいい。極論ですが、その一つの策が「自分のビジネスをもつ」ことだと思っています。もちろん誰もが簡単にできるわけではないけれど、昔よりもやれるようになってきている。やりたい人も増えてきている。そこで、既にやっている人たちを集団で紹介することで、それを見た人にも「こんな働き方が私にもできるかも」というきっかけを与えたい。そういった社会的な意義をもって活動しています。とはいえ小難しくするのではなく、エンタメの要素を取り入れながら華やかに魅せています。

(S)『美ノ匠』のコンセプトを教えてください。

(E)腕が良い方、バイタリティのある方は独立される傾向にありますが、広告費が高い既存のフリーペーパーなどでは、掲載したとしても他者との差別化が図りづらいのが現状です。このようなツールは複数のサロンを経営している中小企業向けだと思っています。つまり、個人の方々が独立したときに載せられるプロモーションツールが存在しない。ではコストのかからない無料のSNSやブログを利用して集客しようとすると、誰もができることなのでこれはこれで他者との差別化が図りづらい。クオリティの高い人だけを厳選して掲載するという方針でこのWebマガジンを始めたので、ユーザーが腕のいい方をちゃんと探せる仕組みになっています。

2. インプットとメディアについて

(S)職業柄、美に関する情報にアンテナを張られていると思うのですが、情報収集はどのようにされていますか?

(E)そうですね、情報収集は常にしています。美容に関してよく聞かれるので、私自身がわかっていないといけないんですよね。取材でも、スペシャリストが揃っているので、彼女たちから学ぶことは本当に多いです。もともと美容の施術は相当受けているのですが、新たな流行などの調べ物をするときはWebが多いです。テレビはあまり見ません。ニュースくらいかな。『ワールドビジネスサテライト』とか『NEWS ZERO』とかは見ますね。切り口は美容なんですけど、女性の働き方がマクロのテーマなので、そこに関連する社会的な動向は必ずチェックするようにしています。

(S)新聞でニュースは読みますか?

(E)新聞は…見出しに目を通すくらいですね。紙面よりもスマートフォンでデジタル版を読んだりします。Gunosyはニュースアプリですけど、メディアという意味では近い部分もあるので、なんであんなにダウンロードされているのかなと思ってダウンロードしてみたり。
今、現役の学生として大学で社会学や社会福祉を専攻しているので、論文を書くために図書館にも積極的に行きます。学生なので大きい図書館にも行けるし、公式の論文や過去の新聞の記事を読めるようなWebサービスにもアクセスできるので、そういったものは活用しています。

(S)美に関するトレンド情報はどうやって集めていますか?

(E)WebやSNS上ではすべての個々人がメディアなので、その中のオピニオンリーダーみたいな人をウォッチすることでトレンドって見えてくる気がします。街や店そのものがメディアの役割を果たしていることもあるかもしれないですね。オーガニックの店自体が増えきていたりとか、環境にトレンドが反映したりしている気がする。健康のためもあるんですけれど、歩くのがすごく好きなので、街行く人のファッションやお店からトレンドを発見するという意味も込めて歩いていますね。「みんなこれ着てるなあ。これ流行っているのかな?」と考えたことはあとで調べたりします。コンビニに並んでいる雑誌からも流行がわかると思います。中を読む読まないに限らず、並んでいるものからでも情報は得ていると思います。

(S)雑誌は買いますか?

(E)飛行機や新幹線に乗る前には買います。旅のときなどゆっくり時間を使うときには紙がいいなと。

(S)そういうときはリサーチ目的で買いますか? それとも読みたいものを買いますか?

(E)そこは読みたいもの!ファッション雑誌が多いですね、流行を知るために。ファッションと美容の流行って結構リンクしているんです。わかりやすいところでいくとネイルとか。ファッションで流行った柄がネイルでも流行ったり。「いろいろな職業の方のお仕事密着」という特集もおもしろいなって思って買っちゃいますね。

(S)具体的にはどういう雑誌ですか?

(E)ファッション雑誌だと『Oggi』とか、あと『Story』、『美st』、『Dress』…。『Dress』がWebプロジェクトとしてやっていることは参考にしています。ファッション雑誌は仕事にも関係するので一通り読みますね。iPadには『Vogue』の電子版を入れていて、写真としていろんなものをチェックするためにアートや写真集的な感覚で見ています。本屋に行くときは、食からファッションまで、平積みのものをいろいろとチェックしますね。

(S)ファッションがお好きなんですね

(E)留学していた時もファッションビジネス専攻だったし、海外に行くようなコレクションのモデルもやっていて、その後アパレル業界でも3年くらい働いていたんですけど。そういったキャリアのきっかけはやっぱりファッションや服が好きだったからだと思います。

(S)そういったファッション業界でのご経験から日本のファッションに関するメディアについてどう思われますか?

(E)モデルをやっているときにすごく言われていたのは、「日本には日本独自でつくっているハイファッションの視点をもった雑誌が少ない」ということです。なぜかというと売れないから。でも韓国とか中国にはその国独自のハイファッションの雑誌がわりとあるんですよ。そうすることで国内のクリエイターの質が上がるし、モデルの質も上がる。モデルって、ブックという自分の写真集みたいなものをつくるんですけど。それを持っていろんなファッションブランドやコレクションに行って、それを見たハイファッションのデザイナーが「君をモデルにするとこういう写真が撮れるんだね」とインスパイアされて、じゃあうちの春夏コレクションに出てくれ、みたいな話になるんですが…。

(S)日本のモデルだと…

(E)ハイファッションの雑誌が多くあれば、モデルのブックの質もあがる。でも日本ではそもそもそういう雑誌が少ないから、ブックに使える素材も少ない。ハイファッションの視点をもつ機会が少ないっていうのは日本のクリエイターやモデルの育成上、すごく問題だと思います。ではなぜ国や企業がハイファッションのクリエイターをサポートしないのかというと、あまりお金にならないから。それが問題だと思います。私、バレーボールの元アスリートで、一緒にやっていた仲間はオリンピック選手になったりしているんですけど、スポーツの問題も同じだと思っていて。トップアスリートの育成に力を入れないのは目先の利益になりづらいからかもしれないけれど、そこから広がって大きな産業が産まれるわけじゃないですか。ブームが始まってプレーヤーの母数が増えたり、プロダクトが売れたり、業界周りの本が売れたり…。クリエイターやアスリートのサポートっていうのはすぐに利益になりづらかったりする。でもそこのサポートをやめてしまうとクリエイティブなものや文化が産まれなくなってしまう。目先の利益にならないことはあまりサポートしないっていうのは日本の残念なところかなと思っています。

3. 女性の働き方について

(S)先ほど現役で大学に通われているというお話がありましたが、入学したきっかけはありますか?

(E)それには明確なきっかけがあって、5年前に母が交通事故で障害を負ってしまったんです。モデルやファッション業界で働いていて、海外に頻繁に行っているようななかでそういう事故が起きて、私、働けなくなってしまって。海外に行くなんてとんでもないし、家からも出られない。そういった時期が事故から2年間くらいあって。男系家族だったので彼らは会社を辞めるわけにもいかないし、自然な役割として私が主介護者になったんです。家族の中での緊急事態なので、もちろん納得していたし、母のためなのでそれはまったく苦ではなかったんですけど…。なにが辛いって、介護ではなくて、働けないことが辛かったんです。家族には必要とされているんだけれど、社会には必要とされていない自分。他者との接点がないことに惨めさを感じました。2年くらい経って、状態が緩やかになったときに、せめて勉強したいなって。一連のアクシデントがあって、行政や病院に関わるようになって、介護や医療の問題点の当事者になって、自分の無力さや社会のおかしさを感じて…「変えたいな、日本」って、でっかいマグマが沸いてきて…(笑)。でも変えたいならまずは学ぶことだなって思ったんです。海外で2年制のカレッジを卒業してからはモデルをやるためにパリに行っていて、大学には通えていなかったので通おうと。

(S)今のお話で恵利さんが現在のお仕事の中で大切にされていることに合点がいきました。

(E)社会性とか社会福祉にこだわっているのは、そういった出来事が動機になっているからなんです。今も介護の生活は続いてるんですけれど、いろんな人の協力や社会サービスのおかげで私が外に出れる。再び働くことができる。それって本当にありがたいことだと思っています。「社会との接点をもてない」ということがどれだけ惨めだったか。自分が充実していないときには、人に愛情を注げないということをすごく感じたんです。まずは自分が輝いていること。だからこそ自分以外の人間に愛情が注げる。「輝き」ってやっぱり社会との繋がりの中で生まれるなあって思ったんですよね。みなさんそれぞれさまざまな状況におかれていると思うんですけれど、働き方の形態は昔より豊富にある。だからそこをフューチャーしたいなって。それはずっと変わらない部分としてあって。なので会社の理念が「女性の独立・起業をもっとフレキシブルに」なんです。独立や起業じゃなくてももちろんいいんですけれど、「働き方」をもっとフレキシブルにしたいなって。
(終わり)

プロフィール
下村恵利(しもむら・えり)

 

1983年生まれ、東京都出身。カリフォルニア州立フラトンカレッジ卒業、早稲田大学在学中(メディアコミュニケーション研究室所属)。在米時にモデルエージェンシーよりスカウトを受け、帰国後、本格的にショーモデルとしての活動を開始。ニューヨーク、パリ、ミラノ、アジアへと渡り、2006年、パリコレクションでビッグメゾンへの出演を果たす。その後某アパレルブランドにて、貿易・生産管理業務に就く。

 

2011年より早稲田大学人間科学部(eスクール)に入学し、社会福祉・社会学を中心に『女性の働き方・ワークライフバランス』を探求。 2012年、女性が起業したい分野No.1ともいわれる美容事業にシフトチェンジ。店舗所有のリスク軽減とWebサポートを組み込んだ新しい形のレンタルシェアサロン『進化型会員制シェアサロンBe Asia』をオープン。
2013年BEAUTYスペシャリストが発信するWEBマガジン連動予約サイト『美ノ匠』の立ち上げと同時に、女性起業家プロモート、WEB/写真/DTP/動画等のプロモーションツール制作プロダクションである株式会社ビーエイジアを設立。

 

http://www.be-asia.jp/
http://www.be-takumi.jp/

 

写真クレジット:Michael Holmes
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