yuka iwadate
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yuka iwadate

こんにちは。『サストコ』編集部の岩楯です。

11月27日に公開した特集Vol.009「読者とデザイン。」では、雑誌『オレンジページ』にレシピを提供されている料理家の小田真規子先生にインタビュー、『オレンジページ』のレシピをどのように開発されているのか、読者をどのようにイメージされているのかなどについてお聞きしました。
(もう読んでくれましたよねー!?)

『サストコ』特集Vol.009で小田先生にインタビュー。

そして——。

実は、特集でご紹介済みのお話以外にも、「仕事の姿勢として見習いたい!」
「こんなことまで考えてレシピを作られているんだ!」と素敵なお話がいっぱいだったんです!!

ページの関係上、特集では全部を紹介しきれなかったのですが……。
紹介しないのはもったいない! いろんな人に読んでもらいたい!何か感じとってもらいたい! 分かち合いたい!

編集部一同のそんな熱いをこめて、ロングインタビューとしてご紹介させていただきます。(再編集ゆえ、一部、特集でのインタビューと内容が重複していますがご了承くださいー)

インタビュアーは、『サストコ』編集長の青木さんでーす。

 


●ロングインタビュー
〜料理家 小田真規子先生のレシピ作りに込める想い〜

検証を繰り返して“フィルター”を排除

青木:小田先生は、『オレンジページ』の読者に向けて、どんなふうにレシピを開発しているのでしょうか?

小田先生:『オレンジページ』の場合、お仕事のご依頼をいただいてから出版されるまでに、長いと2ヵ月ぐらいかけて誌面を作ることになります。その間、試作や撮影・校正を繰り返すのですが、単発的にアシスタントさんに入ってもらう形では、工程によって人が変わってしまうことになって、例えば最初の撮影の時にはできてもその後はうまくできないということがすごくあって。
お一人で活動されている料理の先生も多いのですが、私が料理家として「スタジオナッツ」という会社の体制をつくることを選んだのも、『オレンジページ』のお仕事が多かったからという背景があるんです。

私が考える材料や調味料の選び方、作りやすいと思えるレシピをもとに、私自身がその料理を作れるのは当然なのですが、実際に作るのは料理への理解の浅い読者の方々。私ができても読者ができないことがいっぱいあるはずです。だから、私はもちろんですが、主に社員である若手のスタッフに試作をしてもらうようにしています。彼らが読者の方々の立場に立って、パッと見て、読んで、わかって、作ることができて、やり直しもしやすい、というレシピを開発することがすごく大事だと考えています。

青木:雑誌など文字を通してだと直接教えることができない。だから試作をすることで読者の視点に近づいていくのですね。

小田先生:料理教室と違って、雑誌は目の前に相手がいるのではなく、活字や画像といった、いわば「フィルター」の向こう側にいます。しかもキッチンや道具が同じ条件ではなかったりすると、さらに「フィルター」が重なって、必要なことがきちんと伝わりにくくなってしまう。それをできるだけ除くために試作を繰り返して、少ない材料にしたり、調理工程を限りなく少なくしたりということをしています。

それに伝え方にも気をつけています。例えば、少なくともフライパンは30秒ぐらいは温めてほしいけれど、「フライパンに油を熱して」と言うと、新しいスタッフの場合、フライパンをコンロにのせて油をひいてすぐに材料を入れてしまう。だから「油を入れたら30秒待ってね」と表現を工夫したりしているんです。

また、大さじや小さじを持っていない人も多いので、調味料の量をわかりやすい数値で示すようにしたり。例えば、「3分の1」や「4分の1」などとするのではなく、「1:1:1」や「1:2:2」というように、なるべく誰もが覚えやすい数値にしています。そうするとスタッフが試作を仕損じることが少ない。量るのが簡単なため、誤差が少なくなるし記憶もしやすくなるんです。

そうした検証の結果の数々をレシピの中で表現するようにしていったら、『オレンジページ』のお仕事の中で少しずつ信頼してもらえるようになったというのもあります。

 

スタッフは自分にとって「ブレーン」

青木:読者が再現しやすいレシピを開発するにあたって「会社」という体制が必要で。一方、試作を繰り返すことによってスタッフの方々も育っていくという。全てがつながっているんですね。

小田先生:そうですね。『オレンジページ』という信頼ある雑誌の試作を担わせていただくことで、スタッフもプライドを持つことができますし、自分たちが試作をしたレシピが雑誌に掲載されて、さらに「すごくおいしかった!」といった読者の方々の声が返ってくることも、とてもいい励みになっているのではないでしょうか。

また、雑誌の場合、編集者やデザイナーさんがどんどん若い方に交代していく時に対応できるように、私自身も若い人を育てたり、若い感覚を得るために今まであったものを捨てることもしていかないといけないということも独立してからずっと考えています。一匹狼でいてはすぐにできなくなってしまうんですよね。

雑誌のクレジットに掲載されるのは、お料理の先生の場合はだいたい1名なので私の名前が出るだけですが、その裏ではたくさんのスタッフが動いてくれています。1年目でもキャリアのある者でも、私にとっては同じブレーン。編集もデザインもレシピも、ブレーンの集まりであるチームでお仕事をしているという感じはあります。

私たちにとって、『オレンジページ』はクライアントさんです。良い内容を提供することによって、クライアントさんの売上も上がるし、私たちも会社としてともに成長できる。とてもありがたい雑誌なんです。

 

自分と仕事をしたことをメリットに感じてもらう

青木:編集部さんとの関係のつくり方が、デザイナーと似ているなと感じました。

小田先生:単純においしいレシピを提供するだけではなく、編集者の方がやりやすいようにお仕事を進めるようにしたいなと思っています。そのほうが、編集者の方も私たちもお互いに居心地良く、一緒にやっていて気持ちがいいなって思えるようになりますよね。そのために、例えば原稿を早くお送りしたりとか、試作の結果を早くお伝えしたりとか。「こういうストーリーや誌面を作りたい」ということに支障が出たら、その企画が崩れて内容を変更せざるを得なくなってしまうので、「できますよ」ということを早く編集者の方に言ってあげたいんです。

ちょっとずつなんですけど、自分が早く動けば誰かが楽になるとか、自分がきちんとやればお料理を作る人が上手に作れるようになって、家庭が幸せになるとか。編集の方やスタイリストの方、デザイナーの方など仕事で関わる方が、どうしたら自分と仕事をしたことをメリットと思ってくれるかな、といったことまで考えながら仕事をしているという感じです。

青木:仕事で関係する人に対してのメリットを考える。素敵な考え方ですね。

小田先生:今、料理業界は、ブロガーさんやシェフ、料理研究家の方がたくさんいらっしゃって、将来多様に変化していくことが予想される中で、編集部さんも『オレンジページ』という媒体としてのポジションをキープしていくためにどうすべきかを考えていらっしゃると思います。私がすべきことを考えた時に、信頼できるレシピやおいしさがきちんと伝わる写真、継続して買いたいと思ってもらえる内容などについて、お互いに考えていくべきだと。こういう企画が来たから単純にやりますというのではなくて、何かのテーマにつながるようなレシピを考えていく方がいいかなと思っています。

 

「家庭で作れるレシピ」を考える中で生まれる付加価値

青木:レシピを作っていく時の読者像は?

小田先生:例えば「お肉をやわらかくしたい」という企画の場合、お父さんのために少し割安な値段のお肉を買うお母さんの顔が思い浮かんで、それから帰宅されたお子さんやお父さんが食卓で「やわらかいね」と言っているところをイメージして。企業の依頼だとしたら、商品を開発する担当者、販促の方々、消費者の方々のことまで想像します。
作り手と食べる人とか、売り手と使う人とか、2段階でそれぞれのメリットを考えるんです。

お菓子のレシピを作った時の話ですが、たまたまお菓子屋さんで仕事をしていたスタッフに、私のレシピを見せて「こういうふうにやってみて」と試作してもらいました。お店の場合だと、「ここまできちんとやりたい」という基準があるのですが、私たちは、お店で作る人のためではなくて家のキッチンで作る人のためのレシピを提供するのが仕事。だから、例えば誰もが覚えやすくて量りやすい数値にするために「チョコレートは55gじゃなくて50gじゃだめ?」と直したり、「無塩バターだと、このレシピのためだけに買わなければならない人もいるから、有塩バターでもできるように」と工夫したりして、彼女のもっているポリシーを時には捨てたり、変えたりしてもらいながらレシピを作っていきました。

お店やレストランで出てくるようなメニューは、その通りのレシピや材料を家庭で再現することは難しい。最高級の食材を使ったら最高級の料理ができるのは当たり前です。そうではないものを使ってちょっとした材料の組み合わせで、その料理に近いものができたり、かえって作り方を省くことによって違う付加価値が生まれたりということもある。それが私たちが提供するレシピの価値だと思っています。

 

レシピに「乗ってみる」

青木:『オレンジページ』ではどんなレシピを目指しているんですか?

小田先生:お仕事をさせていただいて感じるのは、読者の目線の高さをあまり大きく越さない、等身大よりちょっとだけ背伸びしているぐらいの、安心感のある流行がベースになっている誌面づくり。ですから私もそれを心がけています。
でも、その中でもちょっとびっくりしてもらいたいというか、何か「おおっ」というものは必要かなと。ドキドキワクワクするわけではないけれど、でもちょっとくすぐられる、作ってみようかと思える。そういう感じをレシピに出せたらいいなと思っています。

青木:読者が先生のレシピでお料理する時に「こうしたら」というアドバイスをお願いします。

小田先生:私の作るレシピは、試作をきちんとして、おいしいと思ってもらえるための道筋というかルートを描いたもの。だから騙されたと思って、1回そのルートに沿ってお料理をみてほしいということがあります。

『オレンジページ』も、「このとおりに作ってほしい」という想いを込めているからこそ、ここまで詳しく書かれているのだと思っています。分量や手順は多少違っても味に変わりはないだろうと思うこともあるかもしれませんが、1回はレシピどおりに作ってほしい。それで「おっ、うまくいきそう!」と思ったら料理がおいしくなると思うし、「うまくいかないな」と思ったら、それはレシピが良くなかったということもあるので、自分が「乗れる」レシピをたくさん探してその中からさらに取捨選択してもらえればいいなと思います。

青木:「乗る」というのが素敵な表現ですね。まずは基本的な型を体に沁み込ませるというイメージかなと。

小田先生:レシピに乗ってもらいやすくするためには、材料や作り方の工程をシンプルにしたり、思いもつかないようなおもしろいやり方をちょっと入れてみたりということが必要かなと。小説も同じだと思うのですが、どういう結末になるのかを想像する中で、想像できない意外性があることも大事なんですよね。

 

「作る対象が必ずある」ことを大切に

青木:小田先生にとって「料理」とは何でしょうか?

小田先生:料理は、「人を楽しませるもの」「自分が作る料理によって人が喜びを感じてくれるもの」だと考えています。料理を作る対象が必ずあるということ、それを大事にしたいです。
でも、必ずしも「作る対象=自分ではない誰か」ということを言っているのではありません。例えば、1人暮らしの場合でも、「明日の自分のために作ってあげよう」というように「明日の自分」という相手がいるわけです。例えば常備菜は、「疲れている自分」のために作る料理とも言えますしね。

青木:最後に「先生ご自身に対して作ってみたい料理」を教えてください。

小田先生:お節料理です。常に基本に立ち戻れるお料理なので。例えば、きちんと皮を剥くことによっても精神統一ができたりします。おせち料理を作る時にはいつも気持ちが引き締まります。忙しくても、ちゃんと出汁をとって八つ頭を煮たりゆっくり黒豆を煮る。時間をかけてやりたいですね。

●プロフィール|小田真規子先生
料理家・栄養士・フードディレクター。
株式会社ナッツカンパニー、有限会社スタジオナッツ主宰。
「オレンジページ」「きょうの料理」「ESSE」などの料理関連雑誌、企業のPR誌に、オリジナルの料理やお菓子のレシピを発表している。NHK「きょう の料理ビギナーズ」、テレビ朝日「ウチゴハン」など、TV料理番組へのメニュー提案やフードコーディネートを手がけ、出演も多い。

 

株式会社ナッツカンパニー
http://www.nutscompany.com/

 

有限会社スタジオナッツ
http://www.studionuts.com/

 

 


●お話をお聞きして感じたこと(by 岩楯)

読者が家庭で再現しやすいことを考えていろいろな工夫をされてレシピを開発しているというお話をはじめ、「会社」という体制をとられている経緯、スタッフさんをブレーンと考えていらっしゃること、雑誌の今後を考えながらお仕事されていること、一緒に仕事をする人にメリットを感じてもらうという考え方、再現しやすいレシピを作ることでうまれる付加価値を提供するレシピの価値だと考えていらっしゃること……などなど。
業種や職種は違っても、仕事をする人間として共通してもつべき大切な考え方を教えていただきました。

読者のこと、一緒に仕事をする人のことをこんなに考えて、数々のレシピを開発されている小田先生って本当に素敵です!

小田先生、ありがとうございました!