サストコ
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サストコ

※本記事は、2013年11月29日公開のサストコ「FEATURE ARTICLES 13 ミッションとあらためて向き合う。」のテキスト版です。

「ふつうの人々の、ふだんの情報生活が
より豊かで、美しく、創造的なものになること。」

 

これは、コンセントが所属するAZグループのミッションです。2013年12月に40周年を迎えるこの機会に、あらためてミッションについて考えたい。今後5年、10年、20年……と将来にわたり、何をやればより良い社会をつくっていけるんだろう。

 

そのヒントを探すには…やっぱり社長に話を聞いてみなきゃ!激務が続くサストコ編集長 青木に代わり、広報担当の岩楯河内とで、コンセント代表取締役社長の籔内さんにインタビューしました。

 

サストコが始まって2年。満を持して(!?)社長登場です。


コンセント代表取締役社長 籔内康一のプロフィールページ

《INDEX》
■「生活者」が主役。
■「学びのプロセス」をつくる。
■「蓄積」と「アウトプット」と「シンキング」。
■シンキング+アウトプット=「動詞型生活者」。
■入り口としての「amu」。
■ふつうの人々にとっての豊かな状態とは?
■「プロセス」を相手に獲得させる。
■時間軸・空間軸を取っ払った「学び」を。
■組織として集まった意味。

■THE EDITOR’S NOTE

《Interview with Koichi Yabuuchi》


■「生活者」が主役。

岩楯
AZグループは12月に創立40周年を迎えますね。そして、コンセントの今年度の会社目標は「コンセントの価値と真正面から向き合う」です。ミッションともあらためて「向き合う」ことが必要だと思い、籔内社長にお話を聞きたいと思いました。
「ふつうの人々の、ふだんの情報生活がより豊かで、美しく、創造的なものになること。」という私たちのミッション。籔内さんはどのように解釈されていますか?

籔内社長
まず伝えたいことは、ミッションを読んでもらうとわかるように、主役は我々ではないということです。主役は生活者であり、何か特別な人では決してなく、あくまでも「ふだん」の状況の中での「ふつう」の人々。目的としている「豊かで美しく、創造的」な状態というのは、「これだ」と決めつけずに、個人的な解釈によって多様性があった方が、おもしろい発想につながると思っています。

岩楯
私たち一人ひとりが「より豊かで、美しく、創造的」な状態を考えるべき、ということなんですね。

籔内社長
そうそう。考えたことに対して否定は一切ないわけだよね。ただ、我々AZグループだけで決めるのではなくて、企業や行政機関や学校など、お客様と一緒に「豊かな状態」をつくっていく必要があるんです。

岩楯
ミッションを考えられたのはいつ頃ですか?

籔内社長
考えたのは鈴木誠一郎さん(AZホールディングスの元取締役会長)なんですよね。ミッションとして明示化したのは15年くらい前だけど、40年前の創業当時から「こういう方向だよね」と、創業メンバーの間では共有できていたと思います。
実は最初からこれがミッションだと決めていたわけではなくて、コーポレートサイトをつくる際に、鈴木さんの文章を読んで、「これいいじゃん!」と思って私がミッションにしちゃった。文章の中の1文だから長いんですけどね(笑)。

岩楯
どういうところが「いい」と思われたんですか?

籔内社長
「普通にやればいいんだ」と思えたところです。当時は広告が全盛の時代で、コピーもアグレッシブなものが多かった。もちろんそれが悪いというわけでは決してないんですが。
やっぱり主役が相手であって、相手がいかに豊かで創造的になるか、ということを追求しているミッションなので。我々が主役として演じてみせるのではなくて、コミュニケーションする相手が主役、というところがとても心に響いたんですよね。

岩楯
コミュニケーションする相手というのは、実際に私たちがやっている仕事で言えば、ウェブサイトを訪れる人だったり、広報誌や雑誌を読む人だったりですよね。

籔内社長
それにお客様企業や我々自身もね。そして最終ゴールの主役はその最終顧客。

岩楯
なるほど。ミッションの解釈に多様性があっていい、とおっしゃっていたのは、相手にとっての「豊かな状態」がどういうものであるかを考えるところから私たちが一緒に手伝う、という余地を残したい思いがあるからなんですね。

籔内社長
手伝うというのもあるんですけれども、「ともに」という感じが強いですね。最終顧客にとっての「未来の豊か」な状態をともに定めるというイメージです。

 


■「学びのプロセス」をつくる。

河内
ある意味、昔からUXを意識していたんですね。

籔内社長
そうそう。だからアウトプットというのは必ずしも我々がやらなくていいんです。その相手自身がアウトプットする主役になったっていい。つまりプロセス重視なんです。相手が「豊かな状態」に向かっていくためのベクトルを我々がつくるという。

岩楯
創業当時は、教科書や百科事典、雑誌などの誌面デザインをされていたわけですが、目の前のアウトプットだけを考えるのではなく、最終顧客である「相手」がどうか、ということにすでに発想が向いていたのが興味深いです。

籔内社長
本の中には「コンテンツ」がありますよね。読む人はそのコンテンツから刺激を受けて、自分の価値観としてそれを取り込んでいる。だから深いわけです。表現というよりは蓄積に働きかけるというか。

河内
同じ本を読んでも、人によって捉え方が違うこととリンクしますね。その人がそれまでに培ってきた経験や考えが影響するので。

籔内社長
そうですね。私たちは、書籍のデザインから始めて、教科書、雑誌、広報ツール、ウェブサイトと、アウトプットするものの種類を広げてきているだけで、常に多様性のある相手自身に、豊かで美しく創造的になるプロセスを獲得してもらうためにすべきことを考える、というスタンスは創業当時も今も変わっていないんです。

岩楯
プロセス。

籔内社長
学びなんだと思います。言うならば「学びのプロセス」。たとえば、子どものときは1日1回机の前に座りましょう、といった習慣をつけて勉強しますよね。そういう、本を読む習慣やウェブサイトを見る習慣を学びという形で蓄積型の価値につなげていく。その蓄積された価値をどうアウトプットして生きていくのか、その一連の過程が「学びのプロセス」だと考えています。

 


■「蓄積」と「アウトプット」と「シンキング」。

河内
先ほどもおっしゃっていたように、いわば、読者や顧客の生き方自体がアウトプットなんですね。

籔内社長
そうです。表現者であるというか。コンテンツを読む前と読んだ後とで、たとえばその人の行動が変わった、というのもアウトプット。なにか「蓄積」を経て表れ出るもの、それが「アウトプット」なんです。
プロセスを成り立たせるためには、「シンキング」という要素も必要です。自分で考えるとか、同じ本を読んだ人同士で話し合うといったように、興味や関心について学び合うというのが「シンキング」。

岩楯
なるほど。コンテンツを通して蓄積して、その「蓄積」をもとに行動したり、その人自身が変化するのが「アウトプット」で、さらに深く考えたり人と共有したりするのが「シンキング」。その一連のサイクルが「学びのプロセス」で、その先にはその人にとっての「豊かで美しく創造的」な未来がある。そのプロセスを、関連する人とともに考えるということが、私たちAZグループのミッションなわけですね。

河内
本当に昔から、あくまでもエンドユーザーが主体なんですね。その人にどういう体験をしてほしいかということを念頭に置いたデザインというのを、40年前の創業当時からされていたのだと、お話を聞いて思いました。
籔内さん自身はどうしてそこに興味をもたれたんですか?

籔内社長
多分、私だけじゃなく創業メンバーたちもそうだと思うんですけれども、「学び的な生活」が好きだからかなと。それが楽しいと思えるんです。
ただ、学ぶこと自体が目的ではありません。表現というか、どういうふうにアウトプットしていくのか、という方に興味をもっているんです。絵を描いてみたり、運動してみたり。アウトプットするためには、学んだり訓練したりしないといけないので、そういうプロセス自体にすごく価値があると思ったんですよね。消費と蓄積のサイクルをどう回していくか。これからの社会に向けて、知恵や価値を蓄積しながら常に次の価値を見出していくというプロセスなんです。
「読む」ことは、実はそこまで入り込む行為なんですよね。

 


■シンキング+アウトプット=「動詞型生活者」。

岩楯
蓄積とアウトプット、シンキングが大事なんですね。

籔内社長
そう。サイクルが重要。消費だけやっていると受け身になり過ぎてしまうと思うんです。より良く生きるためにはアウトプットをしないとね。

河内
受け身ではだめだというと、マインドセットの話にもなってきますね。積極的に情報をとりにいったりアウトプットしようと思えるように働きかける必要がありますよね。

籔内社長
それで思い出しましたが、コンセント取締役の吉田望さんの言葉に「動詞型生活者」(※1)というものがあります。吉田さんが電通総研時代に執筆したレポートのテーマなんですが、デジタル社会を目前にした当時の人たちに衝撃を与えました。
「動詞型生活者」というのは、河内さんが言ったみたいに、自分で動いて、情報をとりにいって、自分でアウトプットする人。シンキングしてアウトプットするという人がこれから生まれてくるぞ、というレポートだったんですが、いい社会だなと思ったのを覚えています。

※1 動詞型生活者……吉田望 執筆レポート『動詞型生活者の誕生 「探る」・「選ぶ」・「発する」・「関わる」——行動で創る新しい価値観」』(1995年「日本の潮流」)
http://www.nozomu.net/journal/doc/dousigata.pdf

岩楯
「動詞型生活者」! 興味深い言葉ですね。20年ほど前に語られていたというのもすごいです。

籔内社長
今はそれが大衆的な広がりを持ち始めて非常にやりやすくなってきていますよね。特にインターネットが普通になってからは、自分でリサーチして、シンキングして、共有したりして、より深く、新しい価値のところまでもっていって、アウトプットしてみるという一連のプロセスを回しやすい環境になってきたなと。

 


■入り口としての「amu」。

岩楯
私たちのミッションを考えると、「動詞型生活者」にはもちろん、そうじゃない人にも、より「動詞型」になれるようなプロセスを考えていくべきなのだと、とお話を聞いていて思いました。

籔内社長
我々が重視している「プロセス」には、いい意味で周囲を「巻き込む」ことが必要なんです。我々だけでなく、いろんな人や団体とコラボレーションすることで、やれることの可能性を最大限に広げていきたいと考えています。
多目的クリエイティブ・スペース「amu」(※2)はそうした考えを背景につくったんです。

※2 amu……人々の「知」をつくる場としてAZグループが運営する多目的クリエイティブ・スペース。さまざまなイベントを開催している。
http://www.a-m-u.jp/

岩楯
アウトプットの場としてでしょうか?

籔内社長
「amu」で実験的にやってみることがアウトプットの一つになることもありますが、シンキングに寄っているイベントもありますよね。つまり、必ずしもそこでアウトプットされたものを完成品として終わるのではなく、クリエイターや教育関係者、文化人の方々と「一緒にやりましょう」というきっかけになる、あくまでも「入り口」なんです。専門ジャンルをもつ人たちと一緒に活動することで、我々としては最終的にアウトプットまでもっていけるような一連のプロセスを提供していきたい。何か課題が生じたときに、他の人と協力し合ってアウトプットまでできるような人になるという。

岩楯
アウトプットというのは、言い換えれば「表現」ということですよね。

籔内社長
そう、「表れてくるもの」です。実はアウトプットには良い悪いはありません。以前よりもっと豊かで美しく創造的な生活が営める、ということが重要なので。「amu」では今後さらにグループ各社のイベントを活発化していきますが、グループ社員にはもちろん、一緒に活動をしてくれる方々、イベントに参加してくれる方々にも、「amu」を入り口にして自分たちの仲間をつくってほしいと思っています。最終ゴールである我々のミッションを一緒に実現するために。

 


■ふつうの人々にとっての豊かな状態とは?

籔内社長
ちょっと話が外れるんですけれど、ジョナス・メカスさんという、世界的に有名な映像作家とお話したことがあるんです。お会いしたのはニューヨーク、彼が94歳のときでした。
そのときの会話の中での、「一番豊かな状態というのは、歌って、踊って、お酒を飲んで楽しむことなんです」という彼の言葉が印象に残っていて。彼は突出した仕掛けをつくるような映画はあまり撮らない方で、日常の生活を記録したものこそが映像として一番価値がある、と考えている方なんですよね。

岩楯
日常の生活。ドキュメンタリーのような。

籔内社長
ドキュメンタリーもつくられたものがあったりするので(笑)。端的に言えばホームビデオですね。
メカスさんの作品に「365 DayProject 」(※3)という365日分の短編映像があって彼のウェブサイトでも見れるんですが、料理をしていたり、冷蔵庫に貼ってある詩を読んだりしてるんですよ、メカスさんが自分で撮って。つまり映像という形でアウトプットしているんですけれども、撮っているのは自分の生活なんですよね。それが本当のcreation の意味というか、アウトプットの仕方はそういう形でいいんだなと、あらためて考えさせられました。

※3 ジョナス・メカス「365 Day Project 」
http://jonasmekas.com/365/month.php?month=1

河内
今のお話と似ていたので思い出したのですが、『ビル・カニンガム&ニューヨーク』(※4)という映画はご覧になりましたか?ビル・カニンガムさんはニューヨークで活動するファッション写真家なんですけど、ファッションの写真というと、ハイエンドファッションで固めたモードな、とてもつくられた世界という感じがするじゃないですか。
確かにニューヨークだから、素晴らしいファッションの人もいっぱいいて、もちろんそれはそれでよくて。でもビル・カニンガムさんは、何十年も自転車に乗って、パリの道路清掃員が制服にしているような青い上っ張りを着て街を行く——ストリートファッションを撮ってる、すごく自然体なおじいちゃんなんです。雨や雪が降っているときに、水たまりや泥を避けようとして飛び跳ねるような姿だったりという瞬間が一番おもしろいと思っていて。
ファッションモデルを撮っているわけじゃなくて、ごく普通の人が何かの考えでそのファッションを身につけて、ごく普通の生活をしているところを切り取っている人なんですよね。

※4『ビル・カニンガム&ニューヨーク』公式サイト
http://www.bcny.jp/

籔内社長
似てますね。その方が芸術的というか美しい。一生懸命生きている人が美しいという感じがあって、そこを一番大事にしたいところですね。他人と比べていい服を着ているとか、そういうことではなくて。

 


■「プロセス」を相手に獲得させる。

岩楯
籔内さんは、後に集合デンと合併したヘルベチカという会社を1988年に設立されましたが、当時はどのようなお仕事をされていたんですか?

籔内社長
取引先はファッション関係の企業が多く、企業広報ツールのお手伝いをしていました。誌面のデザインだけではなく、企画や編集部分、運営面の支援をしたり。お客様企業の担当の方々は当然ながら編集経験がない場合が多く、何をどう進めていけばいいかわからないという状況だったので、企業の方たち向けに「編集デザイン」をテーマにした1年間の教育プログラムをつくって教えたり、ということもしていました。

河内
企業向けの教育プログラムを、ヘルベチカ時代からされていたというのがすごいですね。

籔内社長
広報誌などの具体的なアウトプットをつくるというのも仕事としてもちろん大事なんですけれど、そこに関わる人たちが、どういうふうにプロセスを獲得できるかというのは非常に重要なんです。釣りで言えば、釣ってみせるんじゃなくて釣り方を教えるという。編集の専門家ではない人たちが、「編集デザイン」の能力を獲得してくれることがすごく嬉しいんですよね。企業だけでなく、大学や専門学校などでも教えていました。

広報誌って、伝わる状態にもっていくのが難しい。雑誌などと違って無料で提供するものだから、一方的なメッセージになりがちだなと思っていました。もっと、届ける「相手」側に立って相手に気づいてもらう、という視点で考えることが大切なんです。「気づかせてくれたのがこの会社」と相手に思ってもらえれば、「自分のために支援してくれる会社」というポジションから顧客との関係性をスタートできますよね。そして、その気づきがつながっていってさらに次の気づきがあるかもしれないと期待してもらえる。この会社があるから、自分の生活がより豊かになるかもしれない、美しくなるかもしれないと。

岩楯
顧客視点。コンセントが「伝える」ではなく「伝わる」を大事にしているのは、ミッションが基本思想として根底にあるんですね。あらためて感じました。伝わるものを一緒につくるプロ、という姿勢が大切なのだなと。

籔内社長
一緒につくっていく、ないしはお客様企業がつくれるという状態を我々がつくり出すというところですよね。お客様企業からのオーダーの向こうにあるのは、その会社のミッションを果たし未来をつくりたいという想い。そこを一緒に考えるところからスタートすることが大事。お客様企業の視点でその会社のミッションを考えると、お客様企業と最終顧客との長期的な関係をつくることが不可欠なので、それをどうつくるかを我々が一緒に考えていくべきなんです。その会社にとっての「伝わるしくみ」を考える。それが、最終的には我々のミッションにつながるわけです。本質的なところは、先ほどから話しているように「学びのプロセス」をどういうふうに相手に獲得させるか、だと思っているので。
今のコンセントを見ても、プロジェクトの中でワークショップのファシリテーターをやるのが当たり前になっていたりと、創業当時から我々が大事にしていたものが受け継がれているのが見えて、正しい方向に向かっているなと思っています。
ただ、もっともっとより良いアウトプットの仕方ということを研究する必要があります。たとえば教育機関と一緒に組むなどして、シンキングからアウトプットまで非常にいい形で獲得できるような設計ができるように。

 


■時間軸・空間軸を取っ払った「学び」を。

岩楯
40周年という節目を迎えるにあたり、今後、どのようなことに取り組んでいきたいですか?

籔内社長
「学び」のジャンルにさらに力を入れていきたいと考えています。教育現場に対してのサービスを提供していきたいと。プロセスを獲得させることのできる先生を養成するとか、デジタル教科書教材を開発するとか。
デジタル教科書教材については、DiTT(デジタル教科書教材協議会)の理事を務めており、グループ各社の役員や社員とともに「編集デザイン」のノウハウを教育分野で活かすべく活動中です。先日、メディアでも取り上げていただきましたが、教材会社とコンセントとで共同開発したデジタル教科書コンテンツ「情報活用トレーニングノート」を用いた実際の教室での実証実験をはじめ、これまで我々が長年培ってきた編集デザインのプロセスの知見を、学びの環境に役立てていきたいんです。

岩楯
最近では、コンセントの取締役でもあるフィルムアート社編集長の津田広志さんによる、愛知大学での「編集デザイン」講義や、青山学院大学苅宿俊文研究室とAZグループとの共同研究による「学習コミュニティデザイン特論」科目のプログラム(※5)がありますね。

※5 青山学院大学苅宿俊文研究室とAZグループとの共同研究プログラム「“幸福”をめぐる選択——いま、なぜ幸せが問われる時代か?——」
http://agu-az-2012.jp/

籔内社長
そうですね。でも、対象としているのは学校だけじゃないんです。企業や商店街など、人が集まって未来をつくろうとしているところには、アウトプットまで含めた一連のプロセスを提供できると考えています。
学ぶ時期が20年間、働く時期が40年間という時間軸で分断されていなくて、「学び」は一生あるものだと思うんですよね。たとえば会社にも。

河内
生きていればずっと「学び」に触れるというわけですね。

籔内社長
たとえば、フィンランドでは52%が仕事に就いた後にまた学校に通うというデータがあるんですけど。52%ってすごい割合ですよね。
いったん社会に出て気づいたことを前提に、また学校へ行くと学び方が変わってくるし、獲得できるものも変わってくると思うんです。それが産業競争力につながっているというところもあるのではと。
そういった、一生学んでいくプロセスに我々としても関わっていきたいなと思っています。時間軸や空間軸といった領域的なところを取っ払った状態で何ができるか、ということを追求し続けていきたいんです。

河内
じゃあファッション事業をやりましょう! 私、パーソナルスタイリストでもあるんですが、ファッションってハウツーじゃなくてやっぱりプロセスなんです。その人がその人らしく、最大限よく見せることの実現だからファッション=アウトプットで、同時にシンキングも必要。多くの人は、服をどう着るかというプロセスを学んでないんですよね。再現性のあるところをプロセスにして、ある程度までは自分自身で考えられるフレームワークに落とせるのではと思うんです。フィルムアート社の哲学的な側面やビー・エヌ・エヌ新社の実務的な側面といったグループ各社のノウハウや、コンセントのデザイン思考プロセスを使って新しい学びにしたいんです。

籔内社長
なるほど、いいと思います。コンセントの役員会では男性が多いためか、どうも社会や価値観っていうシンキングの話に寄りがちで、なかなかアウトプットにいかなくて(笑)。
ファッションは普通の人の普段の生活の一部だから大事ですよね。あと私自身、もう一つ興味をもっているのは子どもの学びなんです。

河内
ママさんデザイナーと話す会などをやってもいいですよね。いろんなアイデアが出てきそう!

籔内社長
そうですね。そういう運動を一緒に盛り上げていきましょう。

 


■組織として集まった意味。

岩楯
最後にコンセントの未来についてお話ができればと。どういう企業にしていきたいですか?

籔内社長
これまでは、お客様企業の土壌をどうつくるか、どう改良するかというところをサービスの中心にしてきて、それはそれでやり続けたいと思っているのですが、同時に、自分たちの土壌をつくりたいとも考えています。数社を束ねてAZグループとしてグループ化したのもそのためです、1社の力だけではできないと思っているので。
文化複合体であるAZグループという土壌の中で、河内さんが言ったようなファッションの事業をはじめ、いろんな事業を育てていきたいと思う。それこそAからZまで(笑)。
社員にはそういう事業をどんどんつくっていってほしいと思っています。私の方で土壌を準備するので。

岩楯
土壌というのは、いろんなサービスを提供できる下地という意味ですよね。

籔内社長
相手ブランドを支援する仕事もしながら自分のブランドもつくりますという。でも先にも言いましたがグループ内だけに限らず、周囲をどんどん巻き込んでいってほしいと思っています。そうすることによって、パートナーとして1社だけではできないサービスの提供が可能になるんじゃないかと。

河内
たとえばファッションだったら、アパレル企業のサービスに、コンセントのプロセス化した何かをくっつけて、彼らの商品を売れるようにする。同時に、コンセントとしては人々が毎日、着たいと思う服を上手に着られて、自信をもって心地よく豊かな気持ちで過ごせる、というところに喜びを見出す、みたいな。

籔内社長
そうですね。今期、コンセントとして自治的組織づくりを目指したのも、社員一人ひとりがこれまでの概念にとらわれずに、より柔軟な発想で自発的に動ける環境にするための土壌づくりでもあるわけです。

岩楯
ミッション実現のためなんですね。「ふつうの人々」にとっての「ふだんの情報生活」を「より豊かで美しく創造的に」にしたいというのが私たちのミッションで、社員一人ひとりがいつも心にとめて行動する、という。

籔内社長
ミッションがなければ、組織である必要ってあまりないので(笑)。
社員にはミッションについて考え、繰り返し繰り返し議論してほしい。なんのために我々はここに集まっているのか、常にこのことに向き合っていってほしいと思います。(おわり)

THE EDITOR’S NOTE

 

うちのミッションってほわんとしてて具体的につかみづらい。40 周年に便乗(?)して編集部特権でそんな自分の疑問に答えを見つけたい。そんな思いも抱えつつ、インタビューに臨みました。

 

「最終顧客が主役」「顧客自身がアウトプット」「日常生活の中にこそ価値がある」「アウトプットとは過去の知識や体験から表れ出る行動」「解釈には多様性があっていい」「一緒につくっていくもの」「周囲を巻き込む」…。
取材を進める中で籔内さんから発される言葉の数々を聞くうちに、どんどん雲が晴れていくような感じ。取材が終わったときには、ミッションへの理解が深まっただけではなく、あらためて共感しました。

 

蓄積してアウトプットして共有して、「嬉しい」「楽しい」と思えるルートを一緒につくる。最終顧客や一緒にやる人自身がそのルートづくり=プロセスを獲得できるように。
それを考え実現していくのが私たちのミッション。
手前味噌だけどいいミッション。取材直後の率直な感想です。
(サストコ編集部 岩楯ユカ)

 


 

普通の人が、必要な手段を獲得し、普通のことを自ら発信することには価値がある。そう感じたインタビューでした。

 

内容が決して大発明ではなくとも、発信することでその人自身が豊かさを感じ、発信した後のプロセスのなかで、自身が学び、静かに新しい何かが生まれ、次の活動につながって誰かを豊かにする可能性を秘めている。そこに寄り添い続けることを許容してくれるAZグループのミッション。

 

即効性のある何かの追求ではなく、体質改善のように土壌を作っていくところが私たちらしく、ある意味それ自体が私たち社員にとっての豊かさなのかもしれません。

 

「この目標に向かってがむしゃらにやれ!」ではなく、緩やかなミッションだけを共有し、その解釈や道筋のつけ方は一人ひとりが自由でいい。一見、バクっとしすぎているように見えるミッションも、実は、思考停止に陥らない装置として機能していたんですね。
(サストコ編集部 河内尚子)

◆Credits
Photos_Satoshi Nagare(Fuse Inc.)
Text_Yuka Iwadate
Edit_Kouji Aoki, Naoko Kawachi, Yuka Iwadate
Art direction & Design_Yasuki Honda

◆取材場所/多目的クリエイティブスペース「amu」
http://www.a-m-u.jp/