Yumiko Takaishi
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Yumiko Takaishi

こんにちは。Service Design Teamの高石です。

サービスデザインの話題を中心に広くデザインについてディスカッションを行う「Service Design Salon」。社内勉強会ですが、興味のある外部の方もぜひぜひどうぞ〜という、敷居が低くも中身はアツいイベントです。早くも第4回となった12月2日開催の『サービスデザインだより from デンマーク2』をレポートします。

今回デンマークの事例を紹介してくれたのは、前回に引き続きのエスベン・グロンダールさんと、大学院でサービスデザインを学びながらコペンハーゲン市役所で働くアンドレアス・ヨンソンさん。二人による事例紹介ビデオを観たのち、Google Hangout経由のQ&Aセッションを行う、というスタイルをとりました。

水辺で語るイケメン二人。

コペンハーゲン市(以下CPH)では、公共事業においてもユーザー=住民が参加して検討したり、プロトタイピングを重ねて完成させていくなど、サービスデザイン的手法を取り入れ始めています。今回は公園の改修プロジェクトを中心にお話をうかがいました。

 

スケートボードパークを改修するにあたり、ユーザーであるスケーターと周辺住民の意見を取り入れたけれど、いざオープンしてみると近所の子どもたちがスクーターで遊んだりして危険! と問題に。スケートボードパークとしてはさすが素晴らしいと評価されたものの、結局近くに子どものための公園を作ることになったことがあるそう。

この件でわかったのは、ステークホルダーはスケートボードパークならスケーター、という単純なユーザー構造ではないのだ、ということ。近隣の住民や子どもたち、そしてその親たち、納税者。トラブルを避けるためにもまずはよく観察し、広い意味での「ユーザー」に対する調査が大事だと勉強になった、とのことでした。

そこで役所と住民のCo-クリエイションの事例を紹介してもらいました。

画面のこちらでは、みな真剣に見入っています。

■民族の公園(Folkets Park)

治安の悪化に悩んでいた改修時期を迎えた公園。犯罪者がたむろし、住民は敬遠するようになっていました。そこでアーティストにファシリテーションを依頼し、住民とのワークショップを開催しました。
単に「いま何に困っている?/何が欲しい?」ではなく、「どんな土地柄だと思っていて、どんな街にしていきたいのか」といった夢やアイデンティティについてのユーザーの声を聞き、その場でブロトタイピングしていきました。

たとえばベンチ。周辺に置かれていて、怖そうな人がいつも居座っていて近づけない。だったら公園の真ん中のオープンな場所に、カラフルなベンチを作って置いてみよう!

そしてしばらく実際に使ってもらって、同時に使われ方を観察し、不具合を感じたらまた直してみる。ワークショップ期間が終わっても、常にβ版状態でアップデートを重ねているそうです。

■グルバーグス広場

改装のための1週間にわたるワークショップを開催しました。
昨年くらいの新しい案件で、他部署とのパイロットプロジェクト。

チラシを地元住民に配布し、夢についてなど「前もって考えておいてください」とお題を提示。
集まった人たちでボードにアイデアをどんどん貼っていってもらい、いくつかのグループに分かれてプロトタイピングしていきました。

アイデアを出すだけではなくその後も参加していけば、具体化していくプロセスやその場でトライして作ったものを見ることができ、結果的に意見を取り入れてもらえて深く関わることができるので、ワークショップ終了後も広場を「じぶんごと」と感じてもらえるようになります。
「規模は小さかったがよかった。うちのチームも参考になった」とはアンドレアスの弁。

リラックスしながらも積極的に関わりあっていますね。

これらのプロジェクトのポイントは、
・現場でのワークショップだったので、チラシを見て来た人だけではなく、知らずに公園に来た人にも参加してもらえた
・公聴会とは違い、子どもから高齢者まで幅広いステークホルダーが集まった
・たくさんの住民を巻き込むことができ、皆に「じぶんごと感」をもってもらえた
・公務員が音頭をとる形にしなかったことで形式的なイメージが払拭でき、楽しそうで親しみやすいプロジェクトになった
・現場でのプロトタイピングは非常によかった。オフィスで考えて作ってもってきたのとは全然ちがうものになったと思う
ということでした。

緑豊かな公園で青空プロトタイピング、いいですね。

こんな素敵なフードが出たら、やる気も出るというもの。

こういう柔軟なプロジェクトをCPHという自治体が行っている、ということに参加者の皆さんも私たちも感心しきり。

Q&Aセッションでは、Hangoutの向こうで待機してくれていたエスベンとアンドレアスに、参加者が次々と質問。日本語・英語の両方が飛び交いました。

こんな感じでHangout越しにやりとり。

ーーこういう方式だと若い人も集まりやすかった? また告知はどのようにしたの?

「子どもから高齢者まで幅広い人が“公園のユーザー”というくくりで集まり、大盛況でした。
告知は、地域にはがきやチラシを配布し、質問箱を設置。その場で考えてもらうと時間がもったいないので、前もって質問箱に入れてもらいました」

公聴会は「発表して話を聞いてあげて、参考にせず帰るってかたちですね」。時間的に余裕のある老人や、苦情を言いたい人が集まりやすいので、同じユーザー視点になりがちな上「今後どうしたいか」という議論や提案にはなりにくい、と。そこは日本と同じですね。

ーーこれをCPHがやっているということが驚きです。住民参加型のプロセスをどうやって広げていこうと考えていますか?

「実はこれらのプロジェクトはコンサルに入ってもらいました。まだ公務員にスキルがないのでファシリテーションを依頼しましたが、金銭的に全案件で呼べるわけではないし、常に他者頼みだと学ばなくなる。これからは、プロジェクトのためではなく組織を変えるためにファシリテーターが公務員を教育していき、公務員自身ができるようになることが必要だと思っています。
リサーチの部分は、時間もお金もかかるうえ効果を数値化しづらいので、プロジェクトの中でカットされがち。スキルを身につけ、結果を出し、実績を積み重ねていかなければいけないですね」

英語でのトークの字幕は、日本語も堪能なエスベン作。 「やらんといけん」。どこで覚えたの? な味わい深い言葉も織り交ぜて。

ーーチームみんながこういうマインドなんですか?

「わかっている人もいるが、大部分はまだまだ。ペルソナとか定性分析とかワークショップの話は、わかりやすく噛み砕いて伝えるようにしたり、発表の資料に入れて明示化したり、がんばっているところ」

ーー公園以外ではどんなプロジェクトがありますか?

「自転車でつながる街づくりをすすめる“スーパー自転車道計画”というのがあり、高速道路のように自転車専用道路があって、自転車がとても普及しています。
自転車道と車道の境界に、信号が連動するようになっているLEDが埋め込まれていて、前の信号と同じ色に光る、インタラクショナルな自転車専用道路もあります」


ーー公園や自転車道など、街の住民=ユーザのローカリティが強いサービスデザインの話でしたが、CPHでマスプロダクトやある特定のユーザーに限定しないようなサービスデザインの例はありますか?

「市民にスポーツの機会を提供するために、水路の中に皆が無料で泳げる公共プールが作られています。街が応援するスポーツキャンペーンの一環です」

 


「Service Design Salon vol.4」の一部を紹介させていただきましたが、いかがでしたか?
日本の公園は「子どもの遊び場」という性格が強いように感じます。ママ同士のつきあいもスリリング(結局公園デビューしなかった二児の母・高石)。日本が特殊なのかもしれませんが、福祉の国デンマークは公園の在り方自体も興味深いなぁと思いました。

次回・第5回は、2月27日(金)に開催が決定! 今度はリアルエスベンがやってきます。

デンマークのビジネス・コンサルティング・エイジェンシーayanomimi代表の岡村彩さんとエスベンが、ITOKI東京イノベーションスペースでの展示・セミナーのために来日されることになり、それに合わせてお二人をお招きします。『日本の公園から考える ――サービスデザインだより from デンマーク3』と題し、デンマークの事例を交えてのディスカッションを行う予定です。

ご興味をもたれた方、参加してみたい! と思っていただいた方は sd-salon★concentinc.jp までご連絡ください(メールをいただく際は「★」を「@」に変えてください)。
お待ちしています!

 


【関連リンク】
オープンな勉強会「Service Design Salon」