2015/03/31 17:00
こんにちは。Service Design Teamの若林です。
サービスデザインの話題を中心に、広くデザインについてディスカッションを行うオープンな勉強会「Service Design Salon」も5回目となりました。
今回は、デンマークで活動されているビジネス・コンサルティング・エージェンシーayanomimiの岡村 彩さんと、これまでの「Service Design salon」でさまざまなデンマークの事例を紹介してくださったエスベン・グロンダールさんが、ITOKI東京イノベーションセンターでのパネル展示・セミナーのために来日されるということで、この機会に普段なかなかお会いすることのできない二人をお招きしての開催となりました。
第3回、第4回の「Service Design salon」では、「サービスデザインだより from デンマーク」と題し、デンマークからの事例紹介を中心に行ってきましたが、今回は「日本の公園から考える」と題し、日本の公園についての現状や課題を共有し、デンマークの公園との違いや共通点などをディスカッションしながら、文化や環境の違いがサー ビスデザインにどのような影響をもたらすのかを探っていけるような内容を計画しました。結果的に公園だけでなく、図書館、行政サービスについてもディスカッションできる有意義な回となりました。その様子をレポートします。
最初に岡村 彩さんから、ayanomimi設立の経緯や活動概要、ITOKIの展示内容の一部について紹介いただきました。
岡村さんのご両親は、デンマークでクリエイティブな仕事をされており、家には自然とクリエイティブな人たちが集まる環境だったそうです。そうした環境の中で育った岡村さんは、クリエイティブな人たちはとても楽しそうである反面、どうしてお金儲けがあまり上手ではないのかと感じ、クリエイティブな人たちをビジネス面からサポートしたいと考え、商科大学に進み経営学を学んだそうです。そして、言葉や文化の違いによる壁をなくし、日本のよいところ、 デンマークのよいところを活かしたビジネスを行うべく、ayanomimiを設立されたそうです。
デンマークでは日本よりも本が高いことや、知識や情報はできるかぎり多くの人がアクセスできるようにすべきという考えがあることから、昔から図書館が重要視され、地域のハブとして活用されてきているそうです。また、図書館はすべてのサービスをすべての市民に無料で提供しなければならないという法律もあるそうです。
図書館の役割は結構日本と違っているなという印象を受けました。
本を借りる人は減ってきているにもかかわらず、図書館の予算は年々上がっているそうで、その背景には時代にあった新しい機能、サービスを提供することが求められているということがあるようです。すべてのサービスが無料であるという点は変わりありませんが、本を借りるだけでなく、ゲームやスポーツの道具を借りることができたり、スポーツ施設の利用もできるようになっています。
ゲームを図書館で借りることができるとは日本では考えにくく、とても驚きました。
他にも、本棚の上を歩いたり、寝たりできるようになっているものもあるようで、「日本だとまず子供が落ちて怪我でもしたらどうする」という話になりそうだという声が会場から出ていました。また、図書館は24時間、事前に予約すれば無料で借りることができ、勉強会やコンサートなどを行うことができるようにもなっていて、市民が文化に触れる、知識を得るということにとても協力的だということです。
ここで、会場から日本にも同じような取り組みがあるとの声が。
武蔵境にある「武蔵野プレイス」という図書館にはバンドの練習スタジオやカフェがあり、市の単位では日本でも図書館を再定義しようという動きがみられるようです。日本にもそのような取り組みがあることを知り、岡村さんは「地域・国にあわせてどのように進めながらつくっていくのかを共有できたらおもしろくなるのでは」とおっしゃっていました。
参加者からも、日本では民間に行政サービスをまかせるというやり方を行い、サービス向上をはかっている事例があることを紹介してくれました。サービスレベル向上のために民間をいれることに非難の声は聞かれるものの、一定のサービスレベルが向上しているようです。日本は他国に比べてパブリックサービスが劣っているけれども、国によってパブリックセクターの予算も違っているので、そのあたりも含めて比較できるとおもしろいのではという視点を提供してくれました。
デンマークからみると、日本のパブリックセクターにそれほど予算がないことが不思議だそうです。
デンマークの図書館も10年前は日本と変わりなく、デジタル化をきっかけに政府が戦略的にサービス強化の施策を行い、2ビリオンクローネの利益を出すことができるようになっていったようです。2014年11月にはペーパーレス行政とし、時代にあわせて、効率よくスムーズにコミュニケーションできるインフラをつくることに取り組んできた結果だと思うとおっしゃっていました。その背景には福祉国家であること、行政と市民の距離が近いということが影響しているのではとのことです。デジタル化によって、より便利に使える人たちがいる一方、使い方がわからない人たちも出てきてしまうという問題については、ショッピングセンターや図書館といった身近な場所に使い方を教えてくれる人を配置するという対策を行っているそうです。
日本の場合、デジタル化、ペーパーレス化によって使いこなせない人たちが困るという話からなかなか先に進めない現状があるかと思いますが、使い方がわからない人への対応も含めてペーパーレス行政へと移行できるあたりに、日本とデンマークの違いを感じました。
岡村さんからITOKIでの展示内容について紹介していただく中で、図書館、パブリックサービスについて、日本とデンマークの違いや共通点がみえてきましたが、ここからは日本の公園について、行政へのインタビューなどを行いリサーチした結果を共有し、現状の日本の公園が抱える課題やそれに対する解決案についてディスカッションしました。
最初に映し出されたスライドは、暗闇に怪しく光る何だかわからない造形物! それが何枚か続き、それが公園の遊具を撮影したものであることがわかりました。
昔の公園には、このようなおもしろく、変なものがあったけれど、最近はあまり見かけなくなってきたことや、大人になってから公園で遊んでないことから、公園ってどうやってつくられているんだろう? という疑問がわき、地域の人に受け入れられている公園をつくった行政にインタビューをしてきてくれました。
その公園は市民参加型でつくられた公園で、市民参加のプロセスも工夫して取り組んだものでした。普通にワークショップを実施してしまうと、大人が中心になり、公園についての意見も、騒音対策、防犯、不良やホームレスが集まらないというものが多くなってしまい、公園が均質化してしまうという問題があるそうです。そこで、まず子供中心のワークショップを行い、その結果を大人に提示するというプロセスをとることで、大人中心になってしまうことによる「公園の均質化」問題を回避する工夫をされていました。
市民参加型のものづくりプロセスには工夫がされていたものの、「大人はどうやって公園で遊ぶことを想定しているのか」という質問には「ベンチに座って植物を眺める」という回答だったようで、それって遊びじゃないのでは? という疑問がわき、やはり大人にとっても楽しめる公園が少ないという問題意識が強まったようです。
公園は遊具が古くなって取り替える必要があったりするため、どんどん新しくなっていってるようですが、そこには
・公園が土地と歴史から疎外されている
・地域住民が公園づくりのプロセスから疎外されている
・大人が遊びから疎外されている
という課題があり、それらの課題を解決し、公園づくりにもっと関わっていくためには、
・地域住民の意見を汲み取れるソリューション
・土地の特性、歴史を踏まえた公園づくりへの提言
・大人の公園の遊び方/子どものためだけではない公園のあり方
を考えていくことが有効ではないかというアイデアを提案していただきました。
これまでの発表内容を受け、会場のみなさんから質問をいただきながら一緒にディスカッションを行いました。
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ーー日本の公園はベンチに手すりをつけて、ホームレスが寝ることができないようにしているが、それについてどう思うか?
「最近ヨーロッパでもそういう話があり、ロンドンでは、歩道に凸凹つけて寝られないようにしている。デンマークでも、地下鉄にはホームレス対策として、座ることができないけれどもたれかかることはできるようなベンチが多くなっている」
ーー日本の公園づくりのワークショップにはデザイナーやアーティストは参加している?
「大人中心で公園づくりのためのワークショップを行うと、何もいらないとなってしまいがちだそう。インタビューしてきた公園のワークショップでは、コンサルタントが参加していた。子供たちに自由に遊んでもらい、楽しかった行為を音で表現して、そこから公園をつくるというプロセスをとっていた。小さい公園だと、公務員の方が設計している。あとは、公共の施設をつくるという観点から、大人が楽しめる公園というようにターゲットを絞ることはなかなかできないよう」
ーーデンマークはやってみようという文化があると聞いた。日本だと、学校にしても、役所にしても意見をもらったら、それをどうしてよいかわからないから、もらわないようにしている気がする。
「デンマークの国民性として、意見やアイデアを共有するというのがある。あとは、ワークショップをファシリテーションするときに、デザイナーやランドスケープデザイナーが、意見にフィルターをかけて整理していて、市民はアイデアは出すけど、それをかたちにしていく過程には、デザイナーやランドスケープデザイナーなどの造形的プロフェッショナルな人たちが必要だということが認知されており、そのような人たちの存在が尊重されている。」
ーーコペンハーゲンは「どこに住んでいても公園やビーチに徒歩15分以内で着ける」環境の整備を掲げ、ポケットパークと呼ばれる小さな規模の公園やグリーンエリアを創設している。デンマークは災害が少ないため、日本と違って災害のためのアイデアというよりも憩いの場、エコ、スマートシティのためのアイデアが中心。
「日本でも、公園に防災広場としての役割があったとしても、そこに憩いの場という意味合いがもっとあってもよいのではと思う。」
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「Service Design salon Vol.5」の一部を紹介させていただきました。いかがでしたでしょうか。
図書館、行政サービス、公園の事例から、日本とデンマークにおける「行政と市民の距離」や「スペース(土地)」の違いがあり、それがつくられるモノやサービスに影響していることが見えてきました。一方、図書館や公園のあり方を見なおしていこう、市民を巻き込んでモノやサービスをつくっていこうという動きは、どちらの国にもみることができました。
個人的に日本とデンマークで大きく違っているかなと感じたのは、デンマークでは市民を巻き込んでつくっていこうとする際に、デザイナーやアーティストの必要性が市民に認知され、尊重されているというところです。日本では、そういった場合にデザイナーやアーティストの役割や必要性を多くの方に認知してもらえているとは言えない気がしており、デザイナー側から自分たちの仕事の内容や価値を多くの人に伝えていかなければならないなあと改めて感じました。
3月17日(火)に開催された第6回は、「サービスデザイン思考と学び」と題し、UXD initiative研究会との共催で開催。「サービスデザイン思考とは?」「サービスデザイン思考の学ぶには?」というテーマで、サービスデザイン思考に関連する活動をしている安藤昌也氏(千葉工業大学・准教授)、山崎和彦氏(千葉工業大学・教授)とコンセントの長谷川の3名に話題提供をしていただき、パネル・ディスカッションを行いました。また後半には、千葉工業大学の学生の方々のサービスデザインのパネル発表も見ながら、参加者でのディスカッションを深めました。
そして、4月3日(金)には第7回を開催予定です。UXD initiative研究会との合同企画で「UX and Emerging Technologies」をテーマに、TEDx や IxDA などの国際会議でスピーカーを務めるDirk Knemeyer氏をゲストにお招きし、テクノロジーの側面からデザインないしはユーザエクスペリエンスの今後について議論を深めたいと思っています。この記事が公開された時点ではわずかですが残席がありますので、ご興味のある方はぜひ以下のページにて詳細をご確認いただきチケットをお申し込みください。
⇒ Service Design Salon Vol.7/第17回UXD initiative研究会 詳細・チケット申込ページ
今後もさまざまなテーマでService Design Salonを開催予定です。ご興味をもっていただいた方、参加してみたい!と思っていただいた方は sd-salon★concentinc.jp までご連絡ください(メールをいただく際は「★」を「@」に変えてください)。
お待ちしています!
【関連リンク】
⇒ オープンな勉強会「Service Design Salon」
⇒ Service Design Salon vol.4 レポート