2014/07/04 19:44
※本記事は、2014年6月27日公開のサストコ「FEATURE ARTICLES 15 コンセントが取り組む EIA 〜情報を資産に。保有から活用へ〜」のテキスト版です。
企業の情報資産をもっと有効活用するためのアプローチの1つ、「エンタープライズ情報アーキテクチャ(EIA)」。
長年取り組んできたコンセントですが、2013年10月にEIAチームを発足しました。
まだ「EIA」という言葉に馴染みのない方も多いはず。
「EIAって何だ?」という疑問を解決すべく、チームを代表して、山中さん、坂田さん、宮内さんの3人に話を聞きました。
⇒ 坂田 一倫のプロフィール(写真左)
⇒ 山中 健一のプロフィール(写真中央)
⇒ 宮内 茂奈のプロフィール(写真右)
《INDEX》
Chapter 1 EIA とは?
■企業の情報活用を強化するためのアプローチ、EIA
■問題はウェブサイトの外にも存在する
■EIAは情報を扱う全てのプロジェクトに必要
■時代、技術、意識が追いついてきた
■情報資産を有効活用できているか?
■意味と価値を与えると、情報が資産になる
Chapter 2 コンセントの EIA
■情報全体のガバナンスがEIAチームの使命
■理論構築を共有して企業自身が運営できるようにする
■中長期視点でウェブサイト活用を考える
■効果検証をどう考えるべきか?
■必要なスキルとは?
■目指すは「EIAチームの消滅」
《Talk with Kenichi Yamanaka, Kazumichi Sakata and Mona Miyauchi》
岩楯
まず、「エンタープライズ情報アーキテクチャ(以下、EIA)」とは何か、教えてください。
山中
その名のとおり「エンタープライズな情報設計(IA)」ということです。たとえば複数の商品ブランドをもつ企業は、そのブランドごとのウェブサイトを運営していますよね。サイト単位での情報設計はもちろん大事なのですが、EIAでは企業がもつウェブサイト群全体の情報アーキテクチャを考えることになります。
通常、ウェブサイトの情報設計を行う場合、「エンドユーザー(顧客)」を意識しますが、EIAではエンドユーザーだけではなく、「企業内のユーザー」も情報を活用するユーザーとして捉え重要視するのが特徴の1つとして挙げられます。そのため、特にEIAチームではユーザーのことを「情報活用ユーザー」と呼んでいます。企業内のユーザーのことなら企業担当者の方がやるべきなのではと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、あえて我々のような外部の人間がやることで、外の視点が入り、その企業だけではできないことを実現できるようになります。
岩楯
「その企業だけではできないこと」とはどんなことですか?
坂田
僕たちは、企業がもっている情報を、ただの情報ではなく「情報資産」として考えています。そしてEIAは、ウェブサイト群全体のガバナンスを行うことにより企業としての情報活用を強化することができる1つのアプローチなんです。
企業の情報は、あらゆる組織や部門に点在しています。そして全ての情報を把握している部門や部署といったものは、どの企業もあまりもっていません。
EIAプロジェクトの特徴としてステークホルダーがすごく多いことがあるんですが、そうなると当然、各部門間をはじめコミュニケーション量(=コミュニケーションコスト)が増えてくる。情報がさまざまな部署で管理されていて、部署の人数もさまざま。そういった環境下で事業部ごとにウェブサイトを運営している場合、部署間の連携がとれていないためにコンテンツの重複や齟齬が発生したり、ウェブサイトごとに情報活用ユーザーへの対応もまちまちになりがちです。これでは企業として一貫性のあるメッセージも発信しづらいですし、コミュニケーションも一貫性のないものになってしまいますよね。
そういった問題を解決するためには、全体を加味して情報設計しなければならない。しかし企業内でそうした取り組みをしていくのは実際難しいのではないかと。
われわれのような客観性をもった第三者が協力して進める方が、体制的にも俯瞰して全体を見ることができるという意味でも効果的なのではと考えています。
岩楯
企業側から、コンセントのような第三者を入れたいというニーズはあるんでしょうか?
山中
お客さまからいただく最初のオーダーが「ウェブサイトをリニューアルしたい」ということであっても、実際に課題をひも解いてみると、ウェブサイトだけの問題ではなくて、サイト外に問題がある場合が少なくありません。たとえば体制面の問題だったり、事業戦略がウェブサイトにきちんと落とし込めていないということだったり。あるいはそれら複数の問題が絡み合っている場合もあります。ウェブサイトをリニューアルするだけでは根本的な問題解決にはならないんですね。
そして、中にはお客さま自身でウェブサイト外に問題があることに気づいてはいるものの、パワーバランスなどの理由からできない、といった場合があります。そういったときに、「公平な立ち位置で客観的に意見を言える第三者」としてわれわれが望まれている、と感じることはありますね。
坂田
企業全体で「こういうふうにしたいよね」といった共通の目標や問題意識をもてればよいのですが、しがらみなんかもあったりする中で、カウンターの1部署だけでさまざまな部署とコミュニケーションをとって同じ方向に企業全体を引っ張っていくのはなかなか難しいのかなと。
山中
そういったこともあって、EIAのプロジェクトではわれわれがお客さまの部署同士をつなぐといったこともやっています。
ある意味、外部の人間だから言えることもあるのではと思うんですよね。企業内の方でも客観的な視点をもつことはもちろんできますが、言いづらかったり、内部の視点と捉えられてしまったりというところもあると思います。われわれが外部の人間として中立的な立場で、ウェブサイトを活かして何をしたいか、マーケティングとしてどうしたいかということをお話ししながら、その企業全体で同じ目標に向かってきちんとドライブがかかるようにウェブサイトをつくり直す。それに伴って、「運用体制を見直しましょう」とか、「ガイドラインを見直しましょう」といったことを提案することもあります。
宮内
外部の人間という意味では、プロジェクトの始めでは目的を達成するために必要な情報が見えていないということが多いので、第三者の視点で各部署へのヒアリングなどを実施して集まった情報の関係性や意味を整理することで、これまで議論に上がっていなかった要件や課題などを顕在化していく、という役割も私たちが担っていると思っています。
岩楯
EIAは「企業の情報活用を強化するためのアプローチ」ということですが、特に有効に働くケースというのはありますか?
山中
強いて言うならば、グローバル化を進めているケースですね。多くの日本企業が海外に進出し、文化の異なる地域に支社をつくり、そこではさまざまな人が働いている。そんな中でウェブサイトを介して全てがグルーバルにつながっているわけです。「日本企業のブランドをどう体現するか」「コミュニケーションが難しい」といったことをサポートする際に、EIAの考え方やアプローチは非常に利くんじゃないかなと思っています。また、国内だけに展開している企業であっても事業部間を横断するケースなどにも有効です。
さきほども話にありましたが、国内問わずステークホルダーが多い状況に効果的なアプローチだと思っています。
坂田
「EIAが必要か?」という観点においては、僕は全てにおいて必要だと強く思っています。たとえばですが、1つのコンテンツを生成するときでも、そこに掲載されたり抽出される情報の整理がきちんと最適化されていないと、やりたいと思っていることが実現されなかったりするんですよね。山中さんが話したみたいに、たとえばグローバル化のような大規模プロジェクトであっても小規模のプロジェクトであっても、扱うのが企業(エンタープライズ)の情報である限り、全てにEIAは必要なんです。
構想段階のものが、実装や設計段階に入ってくると全く違うものになり描いていたことが実現されないということはよくあります。なぜかというと、システム周りや組織の問題などが解決されないまま、実現できる範囲でしか検討されなくなっているからです。構想はいくらでもできますが、それを実現するところまでは至っていないことが少なくないんです。
「情報」というとコンテンツに寄った話だと思われがちですが、そうではなく、情報整理や設計はシステム面や体制面を含め全てにおいて必要なこと。それができていないと、構想を形にするのは難しいんです。
構想だけで終えずに実現までもっていくことにおいて重要なのがEIAという観点。ですから僕は、グローバル化の案件であろうとウェブサイト設計の案件であろうと、何にでも通用するんじゃないかと思っているんです。
岩楯
コンセントには昨年(2013年)、EIAチームが設けられたわけですが、EIAは近年できたアプローチなんでしょうか?
山中
あくまでチームをつくったのが去年というだけで、EIAというアプローチ自体には昔から需要はあり、コンセントでもずっとやってきたことです。
ぶっちゃけた話、僕自身もコンセント入社前から同じような仕事をしてきました。企業のガバナンスやガイドライン整備、グローバル化のお手伝いや社内コミュニケーションの円滑化といったことですね。
ただ、EIAの必要性がより高まってきたということは確かにあります。その背景にはいくつかの要因があると思っています。
1つには、日本企業は横串を刺すのをわりと嫌う傾向があったものの、グローバル化といった背景で、ウェブサイトの役割がどんどん大きくなっている以上、やらざるを得ない状況に追い込まれているということ。
もう1つ大きいと思っていることは、技術の発達により、やりたいと思っていることがやっと実現できるようになってきたということですね。技術というのは、たとえばCMS(Content Management System)や解析ツールといったものです。
企業戦略をウェブサイトでどう実現するか、マーケティングにどう寄与するのか、といったところがみれるようになったのは、やはり解析ツールの発達なしでは実現できなかったことだと思います。最近データ解析などが盛んなのも、そういった変化を顕著に表していることの1つだと思うんですよね。技術面の進歩により、本当の意味でのコンテンツ管理や効果測定ができるようになってきたので、マーケティングに寄与したり、ブランド認知のためにウェブサイトを活用することが現実的になったというところも大きいですね。
岩楯
ウェブサイトの役割が企業にとってより重要になってきたし、環境も充分整ってきた、ということですね。
山中
あと企業のウェブサイト担当者の方の意識が上がってきたということもあると思います。「ただつくればいい」ではなく、「ウェブサイトをいかに戦略的に使うか」を考えるようになってきた。また、マーケティングの担当部署もウェブサイトにきちんと意見を出すようになってきました。われわれのような「その間をつなぐ存在」がより求められるようになったのは、ブランディング担当部署、マーケティング担当部署がいかに一緒にやっていくかといったことが重要になってきたという背景もあるんじゃないかなと思っています。
坂田
加えると、ビッグデータへの注目が高まって数年経ちますが、企業が保有していたデータというのは、まさに宝の山だと言われていますよね。われわれがEIAを推進するのは、「その宝の山である企業のあらゆるデータを情報としてもっと有効活用しましょう」という訴えかけでもあるんです。
最近、企業がデータサイエンティストを積極採用しているということもよく聞かれますが、われわれはより広い面、「企業における情報全般=情報資産」を見ています。そう、まさに「資産」なんですよ。企業には情報資産となりうる種がすでにいっぱいあるのに、それをどう有効活用していくべきかがきちんと考えられていない。
岩楯
保有している情報が資産だと気づいていないケースもありますか?
坂田
そういうケースは多いと思います。ただ、さっき山中さんも話したとおり、担当者の方のリテラシーは確実に上がってきているんですよね。実際、「こういった情報がある。これを有効活用したいので助けてください」というご要望もありますし。
山中
それに、昔アナログだったデータのデジタルアセット化が進んできたので、データを活用しやすくなってきたというのもありますよね。たとえば顧客カードなんてその代表例。欧米の企業は昔からデジタルで情報を管理してきましたが、日本も環境的にやっと追いついてきた。最初から意識してデジタルで情報管理するというのが最近では当たり前になってきています。
宮内
デジタルアセット化が進んでも、その情報を有効活用できているかという観点でみると問題はいろいろありますよね。たとえば、同じ顧客データでも、ウェブサイト担当者がもっているデータと営業担当者がもっているデータとが結びついていない場合があります。そうすると、ウェブサイトから商品やサービスに興味をもったユーザーをセールスまでつなげられなくなってしまう。情報資産を目的に対してどう活用したらよいのかがわからない、という背景もあるのだと思います。
山中
以前言われていたCRM(Customer Relationship Management)が機能してないんですよね。
河内
横断的にいくのが難しいこともあるよね。たとえばオンラインで資料請求した人が、本当にお店に来てくれたかどうかのコンバージョンが取りづらいとか。オンライン請求データはデジタルなのに、店舗側はアナログの顧客カードを書いてもらっている、といった情報の断片化みたいなことが起こっていたりして。両方のデータをつないだり、店舗の人が情報を吸い上げられるようにしたりとか、そういったオペレーションまで含めて、コンセントで支援することはある?
山中
場合によってはありますね。実際、あるお客さまのプロジェクトでは、店舗とウェブサイトをどうつなぐかといったオペレーションまで踏み込んで考え議論しています。実現するには結構ハードルがあって難しいのも事実ですが。
宮内
EIAでは企業の情報資産を有効活用できるようにちゃんとあるべき姿に整理していく、ということが重要。それがあるから円滑なコミュニケーションが可能になると思っています。
坂田
普段の生活の中でもみんな情報整理をしているんです。たとえば今から打ち合わせに行くという場合に、「何時の電車に乗って、どういう経路で行こう」と考えたり、「交通機関を利用するためにSuicaというものがあって、乗車駅と降車駅の情報が入っている」こととか。それらは全て情報設計されているわけで、そこにのっかって僕たちは生活している。そう考えると情報整理は特別なことではなく、日常として当たり前のことなんです。
宮内
私たちが「情報を整理する」と言うとき、個々のデータ整理だけを指していないんですよね。今、坂田くんの話に出てきた「電車の時刻」や「電車の路線」「Suicaというカード」などは個々のデータだけど、大きくみると電車を利用する人のための情報で、「目的のためには個々のデータがどんな形でつながっていればよいか」「つながるためには何が必要か」といった見えないことも含めて整理していくのが情報整理だと思っています。
河内
「山中さんとモナちゃんの間にどういう力関係が働いているか」みたいな見えない部分も情報を整理すれば出てくる。
宮内
そうですね。条件とかそういうものも全て「情報」です。
調査をしたりして、見えていないものをどんどん可視化していって、情報間の関係性を考えながら課題の本質を突き詰める。
坂田
突き詰めて意味性や目的を問う。意味を与えて情報として活用する。よく聞く話ですがデータはまだ情報ではなくて、データに意味があるから情報になる、ということです。それ以上話すと、IAとは何ぞやってことになって長くなるから今は踏み込まず(笑)。
岩楯
(笑)。見えていなかったり気づいていなかったり、一見「この情報は別に大したものではない」と思っているものでも実は大事な情報だったりするわけですね。
ところで、情報が資産になるためには何が必要ですか?
坂田
意味と価値を与えてあげることです。
なんで必要なのかという価値をきちんと見える化する。調査をして、「こういった人に対して、これにはこういう価値があるから有効活用していきましょう」と。逆に、提供者側では必要だと思っていてもユーザー側にしてみたら価値がなかった、という可能性もあるんですよね。そういったときは「なんのためか」「誰が見るのか」ということを考えて、再設計したり再構成したりしますけど。
岩楯
だからコミュニケーションを円滑にするためには情報設計が必要ということですね。
山中・坂田・宮内
そうです。
岩楯
EIAとは何かについてお話しいただいたところで、後半はコンセントのEIAについてお聞きしていきたいと思います。
「構想段階のものを実現できるところまでやる」というお話がありましたが、そのための仕組みづくりのようなことが、EIAチームとして具体的にやっていることでしょうか?
坂田
僕たち3人は主にガイドライン策定をやっていますが、EIAチームの他のメンバーを含め、担当している業務は人それぞれです。ウェブサイトを設計している人もいれば、そうじゃないことをやっている人もいます。
岩楯
ウェブサイトをつくらないこともあるんですね。
山中
はい。ウェブサイトそのものはつくらずに、運用体制や運用組織づくりを支援するプロジェクトというのも多いんです。
EIAチームの使命は情報全体のガバナンスを行うこと。情報ガバナンスを行うことで、ブランド価値向上やブランド毀損回避、企業の意識統一といったことに寄与すると考えています。そのための情報化のポリシーやルール、体制づくりなどがわれわれの仕事になります。
ガイドライン策定も情報ガバナンスのために重要な仕事の1つ。
たとえば、あるグローバル企業さまでは何十ものウェブサイトを展開していて各国に運用チームがいます。運用にあたっては、その人たちにいちいち細かく指示を出すわけにもいかないのでガイドラインが配布されるわけですよね。彼らもガイドラインに書いてあることは守ってくれますが、書いていないことやいろんな解釈ができる表現などでは「どうすればいいんだ?」となってしまう。それでは企業としての意識が統一されたウェブサイトを運営するのは難しくなるわけです。
岩楯
ガイドライン策定では、具体的にどんなことをやるんですか?
宮内
私が担当しているものにグローバルサイトに関連するガイドライン策定があるのですが、そのプロジェクトでは、グローバルサイト群を構築するために必要なガイドラインを全て集めて、全ステークホルダーの方たちにとってわかりやすいものになるよう体系立てて整理し直す、ということをやっています。
河内
コンセントでつくったものじゃなく、すでに存在するガイドラインを集めて、ステークホルダーのレベルに合わせて編集し直しているということ?
宮内
うん、そうです。
ガイドラインがつくられてから長い時間が経っている場合、当初つくったガイドライン規定では管理しきれなくなって、追加事項が個別ガイドラインとしていろいろ付け足され、誰が何をどの順番で見ていいのかがわからない、といった問題が出てくるんですよね。なので、全てを集めて現状の利用者とウェブサイト構築に見合ったものに整理し直す必要があるんです。
山中
ガイドラインを策定する際は、ウェブサイトのことだけを考えるのではなく、VIやCIといった企業としての大前提のルールも全て含めて考えるようにしています。たとえば、VIがウェブサイトのガイドラインにどういう関係性があるのか、どうやって参照しなきゃいけないのかといったことが明示されていないことが多いので、意図的にひもづけるようなことをして、ガイドラインの体系を整え直す。
ウェブサイトは企業戦略やブランドイメージを反映しているべきなので。そのためには、ガイドライン策定の仕事に限らないのですが、「どうやってグローバルに展開しようとしているのか」「国内では何に力を入れているのか」といった経営や事業戦略、中長期計画などをその企業のIRの資料などから読み取り充分に理解した上で、「ウェブサイトでどうすればいいのか」「体制はどうすべきか」「どんな運用プロセスが最適か」といったことを検討、提案しています。
たとえ同じような課題をもつ場合でも、企業それぞれで体質や体制、計画は異なるので、どういったステップでプロジェクトを進めるか、カスタマイズしたプロジェクト設計が必要になってきます。だからEIAチームと一口に言っても、担当しているプロジェクトによってやっていることがさまざまなんですよね。
坂田
あと、たとえば店舗のご担当者など企業の方への啓蒙もわれわれの仕事だと思っています。なぜガイドラインが存在していて、なぜEIAという考え方が必要なのかを理解していただかないと、その後も同じような問題がまた起きてしまう。そうならないためにはインプットをしていく必要があるんです。われわれのチャレンジでもあるんですけどね。
山中
そうですね。われわれがずっとフォローし続けるのではなくて、将来的にはその企業の中で同じ方向を向いて運用できるようにわれわれが支援する、というのが大切ですね。
坂田
日々のお客さまとのコミュニケーションの中でも、「こういう考え方のもと設計しています」といったことは、やはり透明性をもって共有しているんですよね。そうすることで、勘所をつかんでいただけると思うので。モナさんが話していたように、「ガイドラインをつくるってそもそもどういうこと?」ということについても、「こういう観点で体系立てているんですよ」とか、「こういうふうに見つけやすさを検討するべきなんですよ」と説明すると、理解、納得していただけます。EIAの話は理論構築に近いんですよね。
河内
「サイトリニューアル依頼だったけど、ひも解いたらサイト外に問題があった」という話があったじゃない? それが今話してくれたような「情報全体のガバナンスをしましょう」ということになると、担当者の方が想定していたよりも規模が広がってしまうよね? その場合、予算を確保したりスケジュール調整もしたりとプロジェクト設計をし直さなきゃいけないと思うんだけど、どうやって段取りをつけていくの?
山中
期内の場合だと予算がすでに決まっている場合が多いので、今期でできることは今期で整理しつつ、来期の予算に組み込んでいただけるように、企業内で稟議を通していただけるよう、資料作りの支援などもしています。
河内
中長期の視点で見た上で、まずここをやるというところは進めて予算取りまで手伝えるように。
山中
そうですね。もちろんご提案をしても、サイトリニューアルだけで終わりにしたいという方もいらっしゃいますので、そういった場合はサイトリニューアル自体をしっかりやります。われわれの考えを一方的に押しつけて無理強いすることには意味がありませんから。
ただ、経験がないことというのはゴール感がわからないので決断しづらい、ということがあると思います。そこをゴール感も含めてわれわれのチームで設計しながら一緒にやりましょうという感じで、納得いただけるように提案するようにはしています。
坂田
今のところの感触ですが、スコープを広げての提案をして進められているプロジェクトが多いことを考えると、EIAのアプローチが企業に受け入れられているということなんじゃないかなと実感しています。
岩楯
ご相談をいただくのはどういった部署が多いですか?
坂田
広報系やブランド戦略系の部署など、企業の中核を担うコミュニケーション部門が多いです。
河内
広報部門とかだと、コンプライアンスなども関係してディフェンシブな理由で「ちゃんとウェブサイトを整備しないといけない」といった意識があるのかもしれないですね、きっと。
山中
おっしゃるとおりですね。リスクヘッジのためにきちんとしておきたいというのが広報的にはあると思います。
宮内
確かに。今までは事業部ごとにウェブサイトを制作してきたけれど、それでは企業ブランドとして統一した情報提供ができておらず一貫したメッセージを発信するためにもウェブサイトを統合したい、というご要望をいただくこともありますね。
山中
事業部ですと「何がどう変わるのか?」といった数値としての成果が不可欠ということがやはりあるので、われわれとしても最初にそういったオーダーがあればきちんとそれに対応します。
ただブランド価値を上げるためには、ある程度の期間で考える必要があるんですよね。中長期計画で3年や5年という単位で考えるのと同じこと。ウェブサイトをどう活用していくかを考えるには、中長期でみることが大切なんです。
岩楯
ある程度の予算が動くことを考えると、お客さまから「どういう成果が期待できるのか」「効果検証はどうするのか」といった話が挙がるのではと思うのですがどうですか?
山中
挙がるときもありますね。「役員稟議を通すために、妥当性を示してほしい」といったように。そういう場合は、その企業の戦略に合わせて指標をつくるというイメージで進めます。
たとえば、「各国のウェブサイト上でグローバルサイトへ誘導する機能がきちんと働いているか」「迷わずに問い合わせ部門に問い合わせがいっているか」など。何を求められているかを読み取りながら妥当性を示すという感じです。
岩楯
「企業の戦略に合わせて指標をつくる」というのは、具体的にはどんな指標が立ってきますか?
山中
たとえば「ガイドラインが使いにくい」という問題が最初にあったとしたら、「使いやすくなった」「業務効率が上がった」といったことが改善後に目指す指標に入ってくる、という感じです。方法としては定性的なアンケートをとるというのが1つあると思います。
河内
お客さまから、これをどうしても達成する必要があるからと、最初に指標を示されることはない?
山中
「売り上げを120%にする」「問い合わせを2倍にする」といった指標はどちらかと言えば営業に近い部署が管理するものなので、コミュニケーション部門からの相談が多いEIAのプロジェクトでは、数値を厳密に示してくるお客さまはあまりいらっしゃらないですね。
EIAのアプローチで解決する問題というのは、お話ししてきたように、コミュニケーションを円滑にするとか、ブランド毀損にあたらないようにリスクヘッジするとか、ブランド認知を向上させるといったことなので、数値では示しにくいんです。
坂田
われわれがやっているのは、人対人のコミュニケーションデザイン。ここで言う「人」というのは、社内の人とエンドユーザーの人という意味です。たとえば「言語が違う」「部門間で連携が取れていない」といったコミュニケーションデザイン上の課題というのは定性的で、何よりもその課題自体に強く共感を得られるんですよね。だからその課題が改善されるのはイメージしやすいわけです。言語の問題だったら会話ができるのが改善イメージ、という具合に。そういった共感が得られるような課題を摘出できるように設計しているというのも、EIAプロジェクトの特徴の1つかなと思います。
このコミュニケーションデザイン上の定性的な課題というのは、間接的にいろんな問題の複合要因になっているので、それが改善されるとさまざまな効果をもたらすんですね。課題そのものだけではなく、その先にある課題までが改善されるという効果が。
ですので、「効果検証はこうしましょう」というよりも、「これらが改善されます」とお伝えすることが多いですね。
岩楯
最後に人材教育と今後の目標についてお聞かせください。
EIAプロジェクトをやるにあたり必要なスキルにはどのようなものがありますか?
山中
僕は「特にこれだ」というものはないと思っています。幅広い知識が求められるので。たとえばお話ししたようなIRの資料を読み込む必要もあるので、IR資料はなんのためにつくられていてどんなことが書いてあるのかを理解していることが大前提にある。だからビジネスや経済の知識も必要ですし、システムコンサルティングの人と協力することもあるのでシステムの知識も必要。また、当然ながらわれわれは情報を設計する人間なので、情報がどういったところにあるのかについての勘所もないとできません。ある程度の経験を積む必要はあるかなと思います。
岩楯
人材教育を考えると経験の少ない人にもトライさせていく場面があると思うのですが、経験がない場合、大事な素養というのはありますか?
坂田
「本質を追究する」ことに長けているということが1つあると思います。物事に対して素直に「なぜか?」と思えること。着眼点がいいというか。「それってなんで起きてるんだっけ?」と疑問をもたないと、せっかくの可能性みたいなものが失われてしまうんですよね。疑問をもって調べたりして、はじめていろいろなものがみえてきたりファクトとして出てくるわけなので。
長谷川さん流で言うとしたら、「メタ認知能力」と呼んでいるものになりますが。
自分の今いるレイヤーの上のレイヤーから情報を認知したり関係性を見出していく能力。専門的な知識がなくても、「ブランド観点だとこうなるんじゃないか?」とか、「経営的にはどうなんだっけ?」とか、関心がいろんなところにつながって、何か情報を引っ張り出せるわけです。
山中
あと広い視野をもっていることも大切ですね。細かくやらなければいけないタスクもありますが、客観的に広い視野でみていないと本質にはたどり着けないので。
河内
でもある意味、どの部門の人材にも求められる能力じゃない?
坂田
われわれの場合、ただ広い視野でみるだけではなくて、あらゆる事象や物事を情報という観点で捉えて設計・整理をしているのが特徴ですね。
小ネタで面白い話があるんですが(笑)。IA界隈の人たちで飲むと、すぐに仕組みの話になるんですよ。たとえば「下水道の仕組みってどうなっているんだっけ?」とか、「社会的な仕組みをちょっと追ってみよう」とか。「どういうフローでこのことが進んでいて、社会に対してどのように設計されているのか?」といったことに関心がある。それがIA界隈の人たちの特徴でもあるんですが。関係性を考える際、仕組みって大事なんですよ。
山中
当たり前化された仕組みは、みようとしないとわからないですからね。
坂田
物事がどう構造化されているか。その名のとおり、アーキテクチャーをみる能力だと思います。
岩楯
では最後に今後の目標をお聞かせください。
宮内
目的に合わせた全体のコミュニケーションデザインをするのが目標です。そのためにはまず必要な情報を適切に整理するところに注力したいですね。なぜならお話ししてきたように、EIAでは企業の情報資産がまずありきで、コミュニケーションを円滑にするためには情報整理が不可欠だからです。その上で、適切な設計ができるようプロジェクトを通していろいろな整理・設計パターンを蓄積したいなと思っています。そして情報設計をする際には、お客さま(企業)とエンドユーザー双方のためということをきちんと踏まえることを大事にしていきたいですね。
坂田
僕、「ふつうの人々の、ふだんの情報生活がより豊かで、美しく、創造的なものになること。」というAZグループのビジョンステートメントが、EIAにすごくマッチしていると思っているんです。「情報生活」というところでまさにそのまま。われわれはBtoBで仕事をしていますけれど、その先のお客さまのことまで考えて設計しているので。
ミッションを実現しているんだという自負をもち、プロジェクトを遂行するだけではなく、僕たちの考えなどを形にして社内に展開、浸透するということもより強化していきたいですね。
山中
必要なスキルとして先ほどお話しした視点、つまりメタ認知能力といったようなものは、本来誰しもがもつべきもの。EIAチームのメンバーだけではなく、コンセントのスタッフみんなができるようになってほしいと思っています。だから、EIAチームはずっとあり続けるのではなく、できるだけ早く消滅する方がいいんですよね。
(インタビュー終わり)
《WE ARE EIA TEAM!》
山中 健一(インフォメーションアーキテクト)⇒ PROFILE
坂田 一倫(ユーザーエクスペリエンスアーキテクト)⇒ PROFILE
宮内 茂奈(ユーザーエクスペリエンスアーキテクト)⇒ PROFILE
石野 博一(プロジェクトマネージャー)⇒ PROFILE
堀口 真人(プロデューサー)⇒ PROFILE
加川 大志郎(プロデューサー)⇒ PROFILE
笹原 舞(プロジェクトマネージャー)⇒ PROFILE
足立 大輔(プロデューサー)⇒ PROFILE
吉野 確(ウェブアナリスト)
山口 唯(ディレクター/ユーザーエクスペリエンスアーキテクト)⇒ PROFILE
千田 汐香(デザイナー)⇒ PROFILE
◆Credits
Photos_Junpei Kato
Text_Yuka Iwadate
Edit_Yuka Iwadate, Naoko Kawachi
Art direction & Design_Yuuichi Momiji
◆取材・撮影場所
多目的クリエイディブ・スペース「amu」