2015/05/21 12:26
こんにちは。プロデューサーの坂東です。
サービスデザインの話題を中心に、広くデザインについてディスカッションを行う「Service Design Salon」も7回目を迎えました。
今回は、「UX and Emerging Technologies」をテーマに、ユーザーエクスペリエンスに特化したエージェンシー Involution Studios のファウンダー兼会長であるDirk Knemeyer氏(以下、ネメヤー氏)をゲストにお迎えしました。またUXD initiative との共催としたため、千葉工業大学・教授、山崎和彦氏にもお越しいただき、コンセントの長谷川を加えた3名による話題提供に基づいて、ネメヤー氏とディスカッションを行いました。
当日の内容をレポートします。
ネメヤー氏は、過去に100以上の記事を『Business Week』に寄稿し、ヨーロッパやアメリカを拠点に年間50以上のスピーチやカンファレンスでのキーノートを担当されています。
今回、そのネメヤー氏に「UX and Emerging Technologies」をテーマとしたプレゼンテーションをしていただきましたので、まずはその貴重な内容をご紹介します。
50年前、いわゆるSFとして描かれていた仮想未来のテクノロジー。時は流れ、そこに現実のテクノロジーが追いつき追い越し始めているという話を聞かせていただきました。
例えば、60年代に流行した『宇宙家族ロビンソン』で描かれたようなロボットが、今は実際に動いてしゃべる人間大のロボットとして存在する。ほかにも、1960年代に放映されたスタートレックに登場する情報端末に対し、現代を代表する情報端末のiPhone、ロボコップの世界で表現されたサイボーグに対する現代のEyeborg等、現実がSFを飛び越えてしまった事例を交え、現代のテクノロジーの進歩の可能性を感じさせる内容でした。
初めてユーザーエクスペリエンスという言葉が現れた1930年代まで遡り、UXの発展に着目した歴史の節目についてお話しいただきました。なかでも、2007年にiPhoneが登場したことで、それまで主流だったWebサイトでのUXに加え、プロダクトやサービスそのものに対するUXに注目が集まっているという話は大変興味深いものでした。
また、ネメヤー氏は、未来のUXを考えるにあたって、まずUXを大きく以下の4つのフレームに“解剖”(simple anatomy of UX)。
・Research
・Design
・UI Engineering
・Testing
続いて、デジタルプロダクトを例に、時代によってこれらを担う人員構成とプロセスが変化しているという話を紹介してくれました。
まずはUXの出現期である2000年代以前について。当時は、一人の人物が思いついたいいアイデアを、同じ人物がエンジニアリングしてリリースするという直線的な3つのプロセスでした。
・Idea(Person A)
・Engineering(Person A)
・Release
続く現代、UXの熟成期としての2000年代には、6つのプロセスに増え、それぞれのプロセスをそれぞれ別のスペシャリストが担当するようになりました。
・Idea(Person A)
・Research(Person B)
・Design(Person C)
・Engineering(Person D)
・Testing(Person E)
・Release
そして、ネメヤー氏は、これから先2020年以降の未来では、このプロセスの役割を担う人員構成がさらに変わっていくと考えているそうです。
それは、誰かが思いついたIdeaをもとに、Research、Design、Engineeringを発案者本人、またはほかの誰かが一貫して行い、Testingをスペシャリストが担当するというものです。未来では、このような製品開発プロセスが、1つのIdeaをもとに、同時に複数行われることになるだろうと予測します。
・Idea(Person A)
・Research(Person A,B,C…)
・Design(Person A,B,C…)
・Engineering(Person A,B,C…)
・Testing(Person X)
・Release
Researchをもとにユーザーニーズを発見してDesignを行うことが今では当然のこととなっているように、これから先の未来では、ResearchからEngineeringまでを一人の人間が一貫して行うことが当たり前になるのかもしれません。
プレゼンテーションの最後には、UXの未来、UXに関わる人間がこれからどんな道を歩むべきかを話してくださいました。
前述したUXでの大きなフレームであるResearch、Design、UI Engineering、Testing、の4つのうち、ResearchとTestingは常に必要なものだからこれから先も問題はない。では、DesignとUI Engineeringは未来ではどうなっているのだろうか。
多くのデザインのパターンが実証され、知見がたまってくることで、それらがパターン化され、フィジカルなインターフェースとして自動化、生産される時代が来るのではないか。
我々は常に新しい科学とエンジニアリングを理解していなければ、時代に取り残されていくことになる。UXが完全に自動化されることはまだないので、会社の企業体によってはそのまま生き残れる可能性はあるものの、そうではない場合、
・影響を直に受け、進化し、スキル向上させる
・あきらめて違う道へ
の2つに1つの道を選ぶことになる。
これからもUXに関わり続けるためにも、時代に合わせて我々も変化しなくてはならない。そのために必要な行動指針の例として、
・ResearchやTestingの役割を担い続ける
・コミュニケーション・マーケティングにDesignで柔軟に対応する
・特定範囲の業界に集中し、専門性を磨く
・よりディープな科学とEngineeringを学ぶ
なにより、自分が「諦めない」ことを上げていました。
また、UXに関わる者が学ぶべき科学とエンジニアリング分野の例として
・Computer Science(コンピュータサイエンス)
・Artifical Intelligence(人工知能)
・Materials Science(材質科学)
・Human Physiology(人間生理学)
・Genomics(ゲノミクス)
・Neuroscience(神経科学)
・Psychology(心理学)
・Sociology(社会学)
等を挙げ、これらの知識と知見を基に、人間性に対する深い理解が私たちには必要であると締めくくりました。
テクノロジーの躍進に伴ってものづくりの本質が変わっていくことで、我々の職種(デザイナー、エンジニア)がどう変わるのか、そうした職種に適切な人材を教育によってどのように育てることができるのか、UXデザインは今後どうなるのか、という話等、大変身になると感じるプレゼンテーションでした。
プレゼンテーション後、会場の参加者の方々も交え、UXをテーマにさまざまなディスカッションを行いました。
以下、当日盛り上がったテーマごとにいくつか抜粋してご紹介します。
・教育について
前回のサロンに引き続き今回も快くご参加くださった山崎氏からの、AIやデザイン、エンジニアリングの新しいあり方について学ぶことのできる教育の場が必要だと考えている、という話題に対し、ネメヤー氏は、ただデザインやエンジニアリングを教えている学校はこれから必要ではなくなっていくのではないか、との考えをおもちのようでした。
また、海外と日本の教育の違いについても言及。高校から自分が進みたい分野や興味のある分野を学ぶことができるようになっている、いわゆる「ヨーロッパタイプ」として普及している教育スタイルでは、学生それぞれが早い時期から専門性を身につけていくのに対し、日本の教育では専門性が分かれ始めるのは大学から。社会に出る直前からになってしまっていることを改善し、教育のあり方を見直すべきでは、とも考えているようです。
今の時代、オンラインスクールで知識を補うことができるが、必ずしも必須ではない。むしろ、義務教育等は、この自由な学びの考えを取り入れていくことが、これからの時代に必要なのではないか。そこ(教育分野)は未だイノベーションが起きていない分野なので、ネメヤー氏もこれからに期待をしている分野だとのことでした。
・Humanizationについて
来場者からの「Humanizationについてどう思うか」という質問に対しては、「人間の身体性を奪うのは間違っていて、あくまでも人間性というのは何かということを理解した上での技術の進歩があると思っている」と持論を展開。
今回モデレーターを務めたコンセントのUXアーキテクト 坂田からも「世の中がどんどん便利になっているけれど、便利さを追及することで最終的には身体性がすべて置き換えられてしまい、ついには人間性が失われてしまうのではないか、そこに危機感を感じる。忘れてはいけないのは人間性や身体の拡張性の方だと考えている」という意見が出ました。
「Service Design Salon vol.7」の一部を紹介させていただきましたが、いかがでしたか?
今回、ネメヤー氏は会の締めくくりとして「我々の職種は絶滅危惧種だ。正解が分からない先を見ようとしているが、ネガティブなこととは感じていない。大事なのはさまざまなことに好奇心をもつことで、こういった場に参加している君たちはすでに成功者だ。これからも自分が社会にどんな役に立てる人間なのかを常に考え続け、アイデンティティを失わず進んでいこう」と語りました。
テクノロジーの躍進に伴って関係する職種や考え方がどんどん変わっていくなか、私たちデザインに携わる者が、その本質にこれからどう関わっていくべきかを考えさせられる、大変有意義な会となりました。
また、イベント終了後に、ネメヤー氏がファウンダーを務めるInvolution StudiosのWebサイト「goinvo」でも、コンセントとService Design Salonについてご紹介いただきました。ぜひご一読ください。
⇒ goinvo|Tea + UX: Talking About UX and Emerging Tech in Japan
Service Design Salonで一緒にディスカッションしませんか?
3月17日(火)に開催されたService Design Salon第6回は、「サービスデザイン思考と学び」と題し、UXD initiative研究会との共催で開催。「サービスデザイン思考とは?」「サービスデザイン思考を学ぶには?」というテーマで、第7回にもお越しいただいた山崎氏と、サービスデザイン思考に関連する活動をされている安藤昌也氏(千葉工業大学・准教授)、コンセントの長谷川の3名による話題提供後、パネル・ディスカッションを行いました。また後半には、千葉工業大学の学生のみなさんのサービスデザインのパネル発表も見ながら、参加者同士、議論を深めました。第6回のレポートは追って掲載します。
次回「Service Design Salon vol.8」の開催情報は、コンセントの公式Facebookページにて告知しますので、ご興味のある方はぜひ以下のページにて詳細をご確認ください。
⇒ https://www.facebook.com/concentinc
今後もさまざまなテーマでService Design Salonを開催予定です。
ご興味をもっていただいた方、参加してみたい!と思っていただいた方は sd-salon★concentinc.jp までご連絡ください(メールをいただく際は「★」を「@」に変えてください)。
お待ちしています!
【関連リンク】
⇒ オープンな勉強会「Service Design Salon」
⇒ Service Design Salon vol.4 レポート
⇒ 〜日本の公園から考える〜Service Design Salon vol.5 レポート