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特集「AZグループをひも解く」 インタビュー:4
関口よく言われますが、「コンセントっぽい」「AZっぽい」ってどういうことなんでしょうかね?
筒井さん組織全体として見たときのベースには「ふつうさ」があるように感じています。「イケイケ」ではないというか(笑)。もちろん尖っている人、おもしろい変な人がいないわけではないのですが、大多数ではなくて、そういう人材バランスも含めて「ふつうだな」と思うんです。
たとえばデザイナーには、ふつうの人がいいなと思うものを、同じ感覚でいいなと思える「ふつうさ」がある。デザイン会社が「ふつうです」と言ってしまうと、遅れをとっていると勘違いされてしまう怖さはありますが、「ふつうさ」があるからこそ、お客さま目線やユーザー目線がもてるのではないかと思っています。時代感のある、流行のデザインにキャッチアップしていたとしても、そういうデザインを「いいなあ」と思う気持ちがとっても「ふつう」ですよね。
雑誌の仕事をやっていたとき、当時のアートディレクターに言われた言葉で「自分たちが一番目の読者として仕事をしよう」というのが印象に残っています。
エディトリアルデザイナーはつくり手ではあるのですが、編集者の方が考えた企画やライターさんが書いた原稿、フォトグラファーさんが撮ってきた写真をもとに、「どういうアウトプットにしたら読者に響くか」というところを担うので、受け手側(読者)の気持ちでそれを眺めるのがすごく大事だと思っているんです。「デザインが好きな人」に響くデザインが必ずしも正解かと言えばそうではないので。
山道さん今の話を聞いていて、「すごく日本っぽいな」と思いました。個人主義に憧れているけれど、そうなれない、みたいな(笑)。
筒井さんそうそう(笑)。で、ふつうなんだけど、ふつうじゃないところにも憧れをもっている(笑)。
岩楯「なれない」のかな? 「ならない」のではなく?
山道さんどうなんだろう。でも自分自身で言えば、今のままでいいかなと思っています。コンセントはみな趣味や出自も違えばキャラも違うという感じだけれど、うまくキャラが重ならず、全体としては丸く見えて広い範囲をフォローできている気がします。
この感覚は、PIVOTさんのオフィスに行ったときにも感じたんですよね。キャラがうまく散っていてお互いを尊重し合うといった雰囲気が、コンセントと近いなと。
ただ、これはコンセントでも課題だと思っているのですが、人が増えてくると、個人個人がなにをやっているか、なにが好きかといったことが見えづらくなってくる。でも、個の部分を仕事に活かしたり、お互いを理解し合えるようにすることで、組織的な強さがもっと出てくるのかなと思っているんです。
岩楯コンセントで仕事をしていてよかったなと思うことはなんですか?
山道さん人がいいですよね。あと、今の話につながりますが、個性がいろいろな分、新しい価値観をたくさん学べる。「こんなことを考えてるんだ」「こんなことをやってるんだ」というのが多方に広がっているんですよね。僕自身は視野が狭いと思っているので、メンバーと付き合うことが自分自身の成長の糧になっています。考え方も仕事に活かせますし。そういったことを経験できるのはすごく楽しい。
さきほど話した中垣さんや、もともと紙媒体のディレクターだった佐藤三千恵さんの教育を担当したんですが、二人とも学ぼうという姿勢が強くて、僕から教えられることはそんなにないのですが、これまでの経験を伝えていくと打てば響くといった感じがあって。コミュニケーションが固くならずにしっかりとっていけるのがすごくいいなと思っています。
筒井さんとも年末にカラオケに行ったのがほぼ初めてのコミュニケーションで(笑)、仕事関係で絡んだこともないんですが、今の話を聞いていて全然違和感がない。でも、僕はプロジェクトマネージャーだけど筒井さんはデザイナーだから、僕とは違った考えをもっているはずで、そういったところも話し合えたらすごくおもしろいんじゃないかと思わせてくれる人がいっぱいいるというのが、コンセントでよかったと思っていることです。
岩楯筒井さんはいかがですか?
筒井さん30歳くらいになると、転職したり環境が変わる人が周りに多くなってきますよね。私は会社を辞めていないわけですが、転職したような感覚になるときがあるんです。
入社時アレフ・ゼロだったのが合併してコンセントになったということもありますが、特に私の場合は、アートディレクターとデザイナーのみの6名ほどのチームで雑誌を担当するという、ある意味個人事務所で仕事をしているかのような時期が一定期間あった上で、出版社以外のお仕事もするようになったり、合併して規模も大きくなりWebサイトなどの仕事もするようになったりしているので、同じ会社にいながら変化が何度もあったなと感じています。もともと本が好きで本のデザインをしたくて入社したんですが、デザインするだけではなく情報を編集するおもしろさに気づけたのが、いろんな変化に対応できた一因かもしれません。
コンセントは、いい方向に変化し続けられる会社なんじゃないかなと思うんです。だから、私のようなエディトリアルデザインしかやってこなかった人でも、本人が興味と熱意をもってやりたいと言えば、Webサイトプロジェクトのアートディレクションを担当できる機会も得られる。
わからないことを聞いて相談できる人材もいます。チャレンジすることを誰も止めない、むしろウェルカムというところが、コンセントでよかったと思うところです。
またEdi Teamは、1〜2割がお子さんをもつお母さんで、時短勤務制度を利用して働いている人も数多くいます。この会社規模でこれだけの女性デザイナーが出産してからも働き続けられているのは、すごいことだなと思います。
岩楯最後に、今後目指していきたいことを教えてください。
山道さん僕は2006年3月にコンセントに入社したので丸9年経つのですが、入社した頃と今とでは、規模も違えばやっていることや考えるべきところも違うという感じで、すごく変わってきたなと思っています。会社自ら変わったのももちろんですが、インタラクションデザイン領域で見れば、Web環境の変化に合わせて会社が変わってきたところもあるかなと。環境はこれからも、加速度を上げてもっともっと変わっていくだろうと思うんですね。そうなるとコンセントもまたどんどん変化していくだろうと。
自分はプロジェクトマネージメントを通して、人と人をうまくつなげたいと思っているんですが、逆に言うと、会社で活かせる自分のバリューはそれぐらいなのかもしれません。なぜなら、もともとエンジニアとして入社したのでシステムのことはわかるのですが計良さん(コンセント 取締役)ほどにはわからないし、デザインについても紙とWebでどんな違いがあるのかぐらいしかわからない。ディレクターとしての経験も9年のうちの2年です。
コンセントは変化していこうとする会社なので、これからも業種が複雑になっていくことが考えられる。そういう状況と自分のこれまでの経験とを合わせて考えると、メンバー個人個人のスキルや仕事をうまくつなげて、よりよいものをつくっていくのが自分のミッションなのでは思っています。
岩楯筒井さんは今後どんなことを目指していきたいですか?
筒井さん集団と、自分個人としてやりたいことに分けてお話ししますね。
まずエディトリアルデザイナーの集団としては、エディトリアルデザインの力をもっと活かした仕事の仕方を増やしていけるようにしたいと思っています。
雑誌や書籍の仕事は業界的に厳しい状況にありますが、「アートディレクターとデザイナーは価値のある仕事をしているのに」と思う気持ちがあるんです。なぜならエディトリアルデザイナーは、渡された原稿をただ割りつけるのではなく、コンテンツそのものが成り立つか成り立たないかのレベルで、コミュニケーションの大事な部分を担っているので。
また、よくお仕事の依頼をいただく編集者の方から「筒井さんは編集から一緒に考えてくれるのがいいと思っている。だから仕事をお願いしたい」というお言葉をいただいたことがあるのですが、「デザイン」の定義は広いので、どこまでをデザインとするか、デザイナー自身が広げればいくらでも広げられるはず。実際に今、私は媒体にとらわれずにデザインするという働き方を目指していますが、これまでと違うことをやっている意識はそれほどないんですね。
紙とWebサイトのデザインとではつくる手段としては違うので結構大変なのですが(笑)、苦労してでも両方できるようになるという道を選ぶ人がいてもいいし、でも「雑誌をやりたい」と媒体にこだわる気持ちもすごく理解できるので、一つのベクトルをとことん深掘りする人がいてもいいなと。
Edi Teamのマネージャーとしていろんな人の仕事を見る機会に恵まれましたが、エディトリアルデザイナーは本質的にお客さまや読者のために考えることが好きなんだなと実感しています。その本質的なところを活かしてデザインの対象を広げることで、価値の拡張ができるし、デザイナー自身もより豊かになれると思うんです。デザイナーになぜその仕事が楽しかったのかを聞いて分解してみると、本人は目の前の仕事でしかできないと思っていることであっても、他の仕事でもできることがある。
だから、Edi Teamのマネージャーとしては、「エディトリアルデザイナーと一口に言っても、いろんな働き方がある」とみんなに気づいてもらえるようにしていきたいです。その結果、「これもできたんだ。これもおもしろかったんだ」という気づきが社内に増えていくといいなと思っています。
筒井さん個人としてやりたいことは、クオリティの高い仕事をすることです。
仕事をしていると、「もっと時間があったらブラッシュアップできたのに」とか「もっとこういう写真だったらよかったのに」と思うことがあって、写真やイラストのディレクションも大事、企画の切り口も大事、プロジェクトデザインも大事……というふうに拡大解釈していくと、最終的なアウトプットのクオリティを高めるためにやれることというのは無限にある。あり過ぎてどうしようと思うくらいです(笑)。
同時に、プロジェクトとしてのクオリティを高めるために人材バランスや日々のコミュニケーションを考えることも、「ある意味、デザインのクオリティアップのための仕事と言える」という捉え方でやってきたら、今、なぜかマネージャーになっているという(笑)。
自分自身、私がやっている仕事のクオリティに全く満足できていないんです。デザインの最初から、上流からかかわれるほど、最後に生まれるもののクオリティが上がるはずだと、最近考えていて。上流という言い方は好きではないのですが。だからと言って「人にそういう仕事を与えてもらえればいいデザインができるのに」と思うのは、デザイナーとしては違うんじゃないかなと。いいデザインがしたいなら、それを実現できる環境をつくることも、デザイナーとしては大事なことなんじゃないかと思うんです。(終わり)
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特集「AZグループをひも解く」 ~ Interview:働いている人の考えから探る~