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AZ GROUP INTERVIEW

特集「AZグループをひも解く」 インタビュー:3

「本(=一つの世界)」でワクワクする社会を

BNN, Inc. [ビー・エヌ・エヌ新社]

「デザイン」「コンピューティング」「クラフト」の3分野で書籍を刊行しているビー・エヌ・エヌ新社(以下、BNN新社)。
「創造的な暮らしをつくるためのアクチュアルな知と情報を発信するパブリッシャー」として、どのような想いで書籍をつくっているのでしょう? いや、つくっているのは書籍だけなのか?
編集部で副編集長を務める村田さんと、AZホールディングスの出版営業統括部としてBNN新社の営業を担当している武田さんにお話を聞くと、見えてきたのは「本」の広い捉え方と、今までにない本を世の中に投げかけていこうとする想いでした。

村田 純一さん Junichi Murata

株式会社ビー・エヌ・エヌ新社 取締役/編集部 副編集長

Q. ふだんの仕事を教えてください。

本をつくることが仕事です。
そのために、著者や印刷会社、編集プロダクションの方など、いろんな人と会って話すことが最初にやることですね。
「こういう本を世の中につくったらおもしろいだろうな」というのがあって、それをつくるなら、こういう人に書いてもらったり関わってもらったりするといいだろうなと考え、その人たちに連絡をとり、ビジョンを伝えて会って話す。魅了しないと人は関わってくれず、魅了するためにはビジョンのワクワク感が必要。惹きつけられたら「よし! やろう!」となる。要は口説くのが仕事かもしれません。

武田 善さん Masaru Takeda

株式会社AZホールディングス 執行役員/出版営業統括部

Q. ふだんの仕事を教えてください。

編集者がつくった本を市場に流通させる。売るため、売れるようになるための活動全般をやっています。
僕を含め営業が担当している仕事は、スムーズに本が売れるようにすることと、書店での置き場所や冊数について交渉したり、店頭でどのように展開するかといった提案をすることです。社内の企画会議で本の想定読者を把握して、「その読者が来る書店はどこか、棚はどこか」と考えて売り場を決めたり、棚を一つに絞りきれない場合は、複数の棚に置いてもらった後に一番売れる棚に集約していったりしながら、一番売れる場所をつきつめていきます。

※所属先は、2015年1月取材時点のものです。

BNN新社の解釈からひも解く

世の中をおもしろくしたい

岩楯BNN新社は、誰向けにどんなことをやっている出版社なのでしょうか? お二人ご自身がどう見ているか、教えてください。

武田さんたとえば、書店員さんの中では「BNN新社ってコンピュータ書だよね」とか「デザイン書だよね」といったようにイメージが分断されていたりして、なぜこういうコンテンツを出しているのかが伝わりにくいかもしれないのですが、「モノづくりに役立つ情報を伝える出版社」と説明すると、「だからコンピュータ書なんだ、デザイン書なんだ」と理解してくださることがあります。

村田さん「本」という我々の世代では慣れ親しんだモノがあるので、その「本」を利用して世の中をおもしろくしたい、と僕自身は考えてつくっています。

河内本がなかったらおもしろくないということでしょうか?

村田さん「本」と聞くと「紙の本」をイメージすると思うんですけど、別に紙の本じゃなくてもいいんです。たとえばイベントだって本みたいなものだと考えています。本は「一つの世界」。僕がやっていることは世の中に向けておもしろいものを投げつけるということ。投げつけて時限爆弾のように爆発が起きるのを待っているんです。

岩楯爆発した先にあるのは?

村田さん「おもしろい社会」ですね。生きていてワクワクする社会。

岩楯武田さんにとっての本はどんなものでしょうか?

武田さん僕はつくる側じゃなくて売る側なので、村田さんとは見え方が違うんですが、言ってしまえば本は「商品」。出版社という中での自分の立ち位置で言うと、村田さんたち編集者がつくった本をお金に変える、村田さんの言う「投げつける」作業をしているわけです。「投げつける」というのは、読者に伝え、届けること。そういう面で、「本が売れる=伝わっていく」というワクワク感は、村田さんと似たような感覚だと思います。

村田さん「売る」って最高だよね。売るほどエキサイティングなことはない。だってお金は大事じゃないですか(笑)。人がお金を払ってくれるのを引き出しているってすごいことです。羨ましい。

武田さんとは言え、距離的なことでいうと読者さんと触れ合う機会は少ないんですよね。本屋さんが売ってくれているので。読者さんが手に取っている瞬間になかなか立ち会えない。だから書店を回っているときに、自分たちの本を見てくれている人を見つけると、嬉しくなって遠くから「レジにもっていって」と念じてみたり(笑)。これは営業だけではなく編集者も同じだと思いますが。

売り場がない本!?

岩楯他の出版社とBNN新社の違いはどこにあると思っていますか?

村田さん「他と違うことをやる」というところですね。「オルタナティブである」ということ。

武田さん僕も村田さんもBNN新社が3社目なんですが、出版社は「このジャンルで本を出します」という世界に縛られているところが多いんですよ。たとえば、僕は以前、建築書の版元にいたんですけど、そこには「建築領域でご飯を食べていくぞ」としか考えない人が多いんですよね。そうじゃない人ももちろんいますが。

BNN新社に入って驚いたのは、そういったジャンルに縛られていないところです。僕が入社した数年前まではデザイン書をがっちりやっていたのが、今やビジネス書も出せば実用書も出す。それも、いろんなジャンルの本をただ出しているわけではなく、編集の中で出す意義というものの筋を通しているんです。そうした発想の自由度と、出した本をきちんと売上げに変えられているというパワーはすごいと思っています。

河内レイヤーが違うということですよね?

武田さん一般的な出版社は、本屋さんで売上げを立てるという構造になっているので、この棚にしか営業にいかないからこの棚で売れる本をつくる、という傾向が強いのかもしれないですね。

村田さん強みでもあり弱みでもあるかもしれないんですけど。
たとえば、奥付を見て十何刷りとかしている本と同じ本をつくろうという発想でつくる。これはもっともな考え方で、商いとしてはきっと正しい姿です。ですが私の場合は「既にある本を出したってしかたがない。世の中にない本を出した方がよくないか」という発想でつくっています。営業は大変だと思いますが。

武田さん村田さんのつくる本は本当に決まった売り場がないんですよ(笑)。「この棚でも売れるし、あっちの棚でも売れるし、フロアが違うけどここでも売れるし」っていう。

河内メタ的ということですよね。一般的に建築書なら建築のジャンルの棚に置けばいいけど、「これは建築の側面もあるし、別の側面もあるし」となるといろんな棚に置けますものね。建築という限られた範囲ではない別の視点が見えているからこそ、そうした本をつくれるのだと思いました。

武田さん村田さんの本は全体的につなげていっているんですけど、物理的な本棚はつなげない。ですので、たとえば帯に「建築、デザイン、アート」と入れたりして、いろんな棚に置けるようにしています。

村田さんが8年ほど前につくった『Built with Processing』という本があるんですが、Processing(プロセッシング)の本なんて当時一冊もなかったんですよ。村田さんの本が初めて。今では4、5社の出版社が出すようになって、「画像処理」という棚に置かれるようになったんですが、そこまでたどりつくのにいろんな棚を転々としました。
村田さんのつくる本は、最初どの棚に置いたらいいかわからないものが多いわけですが、それだけ今まで世にない本を投げかけているんじゃないかなと思っています。

河内新しく市場をつくっている。

村田さん「荒野マーケティング」です。あるいは「焼け野原マーケティング」。

一同(笑)

『Built with Processing[Ver. 1. X 対応版] デザイン/アートのためのプログラミング入門』

(BNN新社刊。2010年06月10日発売。ISBN:978-4-86100-707-1)

2007年に出版された日本初のProcessing解説書の最新版。デザイン/アートの現場での作品制作に特化したオープンソースのプログラミング環境である「Processing」について、その魅力的な世界を紹介するとともに、プログラミングを利用した造形の基礎について解説している。

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特集「AZグループをひも解く」 ~ Interview:働いている人の考えから探る~

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