FEATURE ARTICLES 17
AZ GROUP INTERVIEW
特集「AZグループをひも解く」 インタビュー:6
草花やレッスンを通した「豊かな暮らし方」の提案
株式会社草冠(以下、kusakanmuri)は、白と緑の草花を扱うフラワーショップの運営、レッスンやイベントの企画・開催、書籍・雑貨の販売、ティールーム運営などさまざまな事業を通し、「気持ちと気持ちを丁寧につなげていくプラットフォームのような存在」を目指しています。
取締役で事業部長の堀田さんへのインタビューを通して、「白と緑」の草花のみを扱う理由や、「つくる、つながる、くさかんむり。」というブランドコンセプトに込められている想い、それがどのように商品などに反映されているのかに迫ってみました。
index
ブランドコンセプトからひも解く
│kusakanmuriの商品からひも解く
支える仕組みからひも解く
働いている楽しさからひも解く
今後の展開からひも解く
堀田 理佳さん Rika Hotta
株式会社草冠 取締役/事業部長
Q. ふだんの仕事を教えてください。
草冠の事業のすべてを統括しています。
具体的に言うと、商品開発をして、販売計画を練り、販売の現場である店舗、リアル店舗とオンラインショッピングサイトの両方の運営を監視し、定期的に売上をチェックしています。スタッフを叱咤激励しながら、目標に達していないところがあれば手を打ったり、不足しているものがあれば手配したり。
また、PR・広報も担当しています。花屋には季節のトレンドがあるので、事前にプランニングして、季節ごとのネタを仕込んだり。1年のうち一番大きな山となる5月の母の日と12月のクリスマスはもちろん、2月のバレンタインデーなど合間にあるいろいろな季節ごとのイベントに向け、2~3ヶ月先をみながら仕掛けていきます。PRツールとしては、オンライン上のWebサイトや、SNS、メールマガジン、紙媒体として会員向けに年4回発行している『草冠通信』があり、これらのプランニングも行っています。
商品、プロモーション、広報、店舗運営をすべて見ています。
※所属先は、2015年1月取材時点のものです。
岩楯kusakanmuriで扱っている草花は「白と緑のみ」ですが、なぜなのでしょうか?
堀田さん「都会の野原」ということをショップのコンセプトにしていて、表記上は「白と緑」と並列になっていますが、白より先に「緑=草ありき」なんですよ。癒しの色のグリーン。花屋とは言っていますが、あくまで「草をテーマにしたい」という想いがあります。社名がそもそも「“草”冠」ですし。こう言ってしまってはなんですが、花は添え物なんです。たとえば赤やピンクの花をもってきてしまうと、花が主役になって草が脇役になってしまいます。草と合わせるための白い花、あくまで「草」が主役なんです。
岩楯確かに、赤などの花があるとその色自体に意味がありそうな感じもしますものね。でも白と緑だけでは単調になってしまわないでしょうか?
堀田さん一口に白と言っても、純白の白だけでなく、黄みがかった白、青ざめた白、ピンクっぽい白などいろんな白があります。緑も同様で、淡い黄緑色から深い緑までさまざまです。また、色だけでなく質感や形状の異なるものが無数にあるんです。なので、白と緑だけでも、組み合わせによって、可愛らしい雰囲気にも、シンプルで清楚な感じにも、シックにも、モダンにも、ご要望に応じてさまざまなバリエーションがつくれるんですよ。
それに、「白・緑」の色縛りで仕入れていると、珍しい種類の草花が結構入ってきて、通常、花屋の店頭であまり目にしないような草花に出会えることもおもしろいですね。「これなんていう花ですか?」という会話から、お客さまとのコミュニケーションが始まることも多いんです。
岩楯堀田さんは、「つくる、つながる、くさかんむり。」というブランドコンセプトをどのように捉えていますか?
kusakanmuriのブランドコンセプト
堀田さん花の場合、買ってくださる人が最終的にその花を受け取る人ではなかったりするんですよね。もちろんご自宅用に買っていかれる人もいますが、大半がギフトとしてです。その場合は、Aさんという人が買いに来ていてもBさんという人に渡すためで、花を手にして感情が動くのはBさん。ここが単なる物販と違うところだと思っています。
ですので、「つくる、つながる、くさかんむり。」にある「つながる」というのは、まさに私たちが、AさんからBさんになにかを仕掛けたいというときに「つなぐ」お手伝いをしている、ということだと解釈しています。
小さなバラをハート型にアレンジした「ガトー・ドゥ・ローズ(バラのケーキ)」という商品があるのですが、これをプロポーズ用によくオーダーをいただくんです。日付と届け先のホテルの指定があって、心を込めておつくりして祈るような気持ちで届けるのですが、後日、オーダーした男性から「成功しました!」という報告をいただけるんです。
依頼主の想いをお相手の方に「つなぐ」ことができたことにホッとしますし、そういう瞬間に立ち会えるということが本当に嬉しいですね。
岩楯単にモノを売っているのではなく、プロとしてお客さまをサポートするということを大事にされているんですね。
もう一つの「つくる」についてはいかがでしょうか?
堀田さん店頭スタッフが自分たちの手でつくり出しているので、「実際に人の手でつくっている」ということはもちろんありますが、「白と緑の草花のみ」と並ぶ、kusakanmuriのもう1つの特徴である「お客さまご自身で花束をつくることができる」という意味が込められています。
一般的なお花屋さんでは、花は冷蔵のショーケースの中で管理されているため、お客さまはご自分で触れることはできず、店員さんがやってくれるのを遠目に見るしかなかったりしますよね。「そこはそうじゃないんだけど!」と遠隔操作みたいで歯がゆかったりする(笑)。一方、kusakanmuriの場合は並んでいる草花を自由に手にとれます。子どもの頃、野に咲いている草花を摘んでお母さんや友だちにプレゼントしたように、自分の好きな花でブーケをつくって、大切な人にプレゼントすることができる、というのが特徴なんです。
必ずしも花のプロフェッショナルが「つくる」だけではなく、お客さまご自身が「つくり手」となることができて、自分の想いをその場で直接形にして大切な人にプレゼントできる。それが「つくる、つながる、くさかんむり。」というブランドコンセプトに込められている想いです。
岩楯フラワーショップkusakanmuriにはブーケやアレンジメント、リース、スタンドフラワーなどをはじめ、たくさんの商品ラインナップがありますが、2011年の設立時からこうした構想があったのでしょうか?
堀田さん手探りでやりながら考えていきましたね。たとえば、今は月ごとの限定商品を発売しているのですが、オープン当初はなかったものです。12月にショップを立ち上げて、1月、2月、3月とやっていくうちに「そろそろ母の日だ!」となり、あわてて母の日向けの商品をつくる(笑)といったように、今から考えると後手後手になってしまっていました。途中でそれではいけないと気づいたんですよね。季節に追われるのではなく、こちらから仕掛けないと、と。それから、「毎月その季節にあった限定商品をリリースしていく」というのを始めたんです。
岩楯毎月の商品とは、たとえばどんなものがあるんですか?
堀田さん最近のものだと、2月のアレンジメント「春を待つ窓辺」。スクエア形の花器を使って、窓辺から春の草花を眺めているという情景を表現しています。3月のアレンジメントは「草原の散歩道」。春の陽気に誘われて外へ出かけ、バスケットいっぱいに花を摘んできた様子をイメージしています。同じく3月の商品の「きみへ贈る春色のブーケ」は、送別や卒業などの機会が多い3月に大切な方へ贈っていただきたいという想いが込められたブーケです。
テーマになるのは、季節感とその月にあるイベントや行事などですね。こんなふうに季節を感じたり、草花と向き合ったら素敵ですよ、というkusakanmuriからの提案が込められています。
旬の草花でつくりますので、基本的にはその月だけの限定発売ですが、大変人気が出たため定番商品化したものがあります。草花の幾何学模様の美しさを表現した「ネイティブフラワーパレット」というアレンジは11月の商品として発売したのですが、男性を中心にじわりじわりと人気が出て、ブーケやリースを加えて新ジャンル「ネイティブフラワーシリーズ」を登場させました。今も人気商品の一つとなっています。
岩楯実際に販売される商品は、どんな観点でジャッジされたものなのでしょうか?
堀田さん商品をつくるのは花のプロフェッショナルである現場のフローリストですが、監督として私が入り、コンセプトと商品が合致しているか、つまり「この季節のコンセプトがこうだから、こういう商品・タイトルになっていて、こんな気持ちが込められている」ということがつながっているか、本当に季節を表現できているか、kusakanmuriが目指す方向と合っているか、という観点で判断するようにしています。ブーケなのかアレンジなのかフレッシュリースなのかも、「その花材が一番生きるのはどの方法か」という視点で考え、花束ばかりが続かないようにといったことにも配慮しながら決めているんです。
堀田さん今お話しした、ネーミングがありコンセプトも考えられているという企画商品をコンスタントに置いているお花屋さんは、あまりないでしょう。たいていの場合、予算と用途を伝えてその場でつくってもらうか、でき上がっているアレンジメントの中から選ぶしかありません。オンラインショッピングサイトで値段やサイズ別のアレンジメントを探すこともできますが、その場合でも、サンプル写真はとある季節に撮影されたものだから、届ける季節により花が変わってしまい、手元に届くのはサンプル写真のイメージとは異なるものになってしまう。
kusakanmuriでも、予算と用途でのオーダーを承りますが、先ほど紹介した「ガトー・ドゥ・ローズ(バラのケーキ)」や各月の商品をはじめ、「アニヴェルセル(お祝い)」という名のフレッシュリース、12本のバラを束ねた「ドゥゼーヌ・ドゥ・ローズ」といった企画商品があり、写真を見て商品を選ぶことができます。つまり、事前に見たイメージとほぼ同じものが購入できるわけです。
Gateau de Rose
ガトー・ドゥ・ローズ
[バラのケーキ]
「純潔」の花言葉を持つ真っ白なバラを、ハート型にデコレーション。まるでケーキのようなアレンジメント。甘くてやさしい気持ちをお届けします。女性の方への贈りものにおすすめ。
清潔感あふれる白い花々が、心からの祝福の気持ちをお届けします。結婚祝いや誕生祝いに最適。白い花をメインにアレンジしています。
Douzaine de roses
ドゥゼーヌ・ドゥ・ローズ
[12本のバラ]オールドローズ
「ドゥゼーヌ」とはフランス語で12を意味し、12本のバラにはそれぞれ「永遠、真実、栄光、感謝、努力、情熱、希望、尊敬、幸福、信頼、誠実、愛情」の意味が込められています。ヨーロッパでは婚約式の朝、男性から女性へ白い花のブーケを贈るという伝統があるそう。特別な気持ちを伝えたいときに最適のブーケです。
特に男性のお客さまには、花を買うときになにをどう頼んでいいのかわからなかったり、でき上がりの想像がつかないといった方が多いんですね。予算と用途を伝えた後は賭けになってしまう。つまり、たまたま頼んだフローリストのセンスに委ねることになってしまうんですよね。ところが、企画商品であればどのフローリストに頼んでも同じものができ上がりますし、事前に「こんな雰囲気になる」とご自分の目で見ることができるので、買いやすいといったこともあると思います。
これは、来店の必要なく注文できるオンラインショッピングサイトでも大変好評で、全国各地に在住の方はもちろん、海外在住の方からオーダーをいただくこともよくあるんですよ。実は、海外からの注文は当初想定していなかったのですが、海外に住まわれている方が日本に住むご家族に花を贈るといった用途でたくさんのオーダーをいただきます。
特に遠方からの注文の場合、あらかじめ写真で商品イメージを確認できる、というのはとても重要だと思います。
次のページ: 花屋じゃない発想だからこそ、今の形がある
index
特集「AZグループをひも解く」 ~ Interview:働いている人の考えから探る~