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特集「AZグループをひも解く」 インタビュー:6

kusakanmuri 花屋じゃない発想だからこそ、今の形がある

支える仕組みからひも解く

花屋じゃない発想だからこそ、今の形がある

岩楯「コンスタントに買える」「誰に頼んでもイメージに近いものができる」ということが企画商品の価値になってるんですね。

堀田さんそれを可能にするためには仕組みが必要なんですよね。
たとえばデザイン会社でも一人の優秀なデザイナーが前面に立っているタイプの会社があるように、花業界にも一人のカリスマ性のあるフローリストがいて「そのフローリストのつくり出す世界観=ショップの世界観」となっているタイプの花屋があります。一方、一人のカリスマ性ではなく、チームで引っ張るといったタイプの花屋もある。

kusakanmuriの場合は後者です。チームとして商品を生み出して、且つそれが持続可能になるように設計されているので、極端な話、たとえスタッフが入れ替えになったとしても、一度開発した商品は再現可能となる。作家性が立っていても、たとえば「Nicolai Bergmann flowers & design」のようにビジネスとしてうまい展開をしているところもあります。有名な「フラワーボックス」は、みな、ニコライ・バーグマンの名前で買っていくわけですが、彼自身が一つ一つつくっているわけではないですよね。彼以外でもつくれるように再現可能、持続可能になっているんです。

岩楯カリスマ性ではなく、持続可能というのが大事?

堀田さんいえ。どちらが大事ということではなく、あくまでもタイプ分けをしたときに特徴としてあるものです。

ビジネスとしていかに回していくかを考えるとき、商品自体に再現可能性や持続可能性があることもそうですが、店舗運営における最適化も必要だと思っています。やるべきことに対してのリソース管理や正しいやり方であるかの判断、クオリティ管理など、システムとしてコントロールし最適に回していくことを意識しています。ビジネスとして常に成長したいし継続できるようにしたいんです。

ですので、スタッフにも会社人としての働き方を望んでいます。フローリストにはアーティスト性ももちろん求められますが、同時に企業人としての立ち居振る舞いや基本動作は不可欠で、意識して教えるようにしています。

kusakanmuri立ち上げ時、まるでトップシェフ不在のフレンチをやっているかのように、ジレンマに思っていた時期もありました。私自身、生け花の師範のお免状をもっていますし花は好きですが、花屋の経営ノウハウがあるわけではありませんし、自分でアレンジメントやブーケをつくるわけでもありません。でもショップをオープンさせなくてはいけない。
わからないなりにも、みんなで知恵を出して考えてやってきました。もしカリスマフローリストのような方がきていたら、今のような商品ラインナップにもなっていなかったと思います。

立ち上げメンバーはAZグループ各社から集まった、Webデザインやグラフィックデザイン、編集など、花とは全く異なる分野出身の面々。花屋じゃない発想ができたからこそ、今の形があるかなと。そうした中で一般消費者の心をつかむお店になれたのは、誇りに思っていいかなと思うんです。

働いている楽しさからひも解く

素の声に触れられる

岩楯堀田さんはもともとコンセントの役員でありアートディレクターでしたが、今のkusakanmuriでの仕事につながるところはありますか? アートディレクターとフラワーショップの事業統括は、一見離れているように思うので興味があります。

堀田さん「堀田理佳、人生を語る」(笑)

河内また本を書いちゃう?(笑)

岩楯本を出されてるんですか!?

堀田さん『ウェブデザイナーになってよかった』(2002年。エムディエヌコーポレーション)という本を出したんですけど、今度は『花屋になってよかった』本を書いちゃうとか?(笑)

もともとは空間デザインをやっていたんです。そこから広告デザインを経て、Webデザインをやるようになり、紙のデザインもやったりと。コンセントとkusakanmuriの間には、AZグループで展開している多目的クリエイティブ・スペース「amu」の運営をやっていた時期もあって、イベントをはじめ無形なもののデザインをやり、今に至ります。

kusakanmuriの場合、ブーケなどの生花だけではなく、レッスンやイベントなども商品として提供しています。ですので、コンセプトや想いがあって、それをなにかしらの形にしてアウトプットするという意味では、広く捉えると同じことかもしれません。空間であれば空間を、二次元であれば二次元を、手に取れる商品であれば手に取れる商品に落とし込む。

岩楯kusakanmuriで働いていて楽しいと思えることはどういうところですか?

堀田さんkusakanmuriを立ち上げた理由の一つが、B toBのビジネスを行ってるグループの中で、初めてのB to Cビジネスの試み、というところだったのですが、まさにC顧客からダイレクトに反応が返ってくるのがおもしろいですね。

たとえば、定期的に発行しているメールマガジンがあって、ビジュアルメインでその時季の商品イメージを大きく入れたものを発行しているのですが、配信するとすぐに「すてきなアレンジですね」「いいですね!」といった返事が来るのです。また、依頼を受けた商品をお届けした後、依頼主の方から「すごくすてきなリースでした!」とか「相手の方にすごく喜んでもらえました!」というお声をメールや電話でたくさんいただきます。商品をお届けに行った際に、受け取った方から何度もお礼を言われて、「いやいや、お礼なら注文主の方へ…」と思いながら恐縮して帰ってくることも。こんなふうにお客さまの反応を直接得られるというのは嬉しいですね。

もちろん、ポジティブな反応だけでなくネガティブな反応もあります。私のキャリアの中でWebデザインの時代が一番長いのですが、Webサイト上の設計や表記などは一応プロの目で納得してリリースしているのですが、想定していなかった点をお客さまからご指摘いただいたこともありました。お問い合わせフォームや店頭で同じような質問ばかりいただく、といったような。最初は「え? こんなに書いているのに、表現しているのに、伝わっていない!?」とあせりました。でもそれが真実ですよね。「あ~、こういう情報が足りていなかったのか、わかりにくかったのか」と気がつくわけです。それは現場にいないとわからないことです。

以前関わっていた、B to Bの関係ですと、Webサイトを構築して納品したら一旦プロジェクトは終了とならざるを得ませんが、相手がC顧客であれば終わりはありません。常にコミュニケーションが発生するんです。生の声に触れられる、そこが、緊張もするしおもしろいところでもありますね。

今後の展開からひも解く

生活をより豊かにできるように。kusakanmuriのスクール、スタート

岩楯kusakanmuriでは、生花だけでなくレッスンやイベントなども商品として提供しているということですが、そのあたりについて教えてください。

堀田さんレッスンはフラワーアレンジメントとハンドメイドを中心に行っていて、新しくヨガのレッスンもスタートしています。イベントは、レッスンよりも気軽に参加できて、人と人をつなぐ場となるようにという意味を込めて「kusakanmuri gathering」というシリーズ名で展開しているのですが、これまでに音楽コンサートや写真のワークショップなど、さまざまな内容を企画・開催しています。
さらに今後はスクールとしてレッスンを拡大していく予定です。

岩楯今までのレッスンとはどう違うのでしょうか?

堀田さん今までのラインに加えて、デザインや編集、アートやカルチャー、身体や食などヘルスケアに関するものなど、ライフスタイル全般にラインナップを増やしていく予定です。

AZグループのミッションは「ふつうの人々の、ふだんの情報生活がより豊かで、美しく、創造的なものになること。」ですが、直接的に実行できているのがkusakanmuriだと思っているんです。「花を買って帰ったら、お部屋が明るくなりました」という時点で、もうその人の生活が豊かになっているんですよね。レッスンもそういうポリシーでやっていて、アレンジメントのレッスンであれば「こうやったらステキ」と思えたり、ハンドメイドのレッスンであれば、「今までできなかったことが自分でできるようになって、それを生活に取り入れたら豊かになった」と思えるように。

新たに加えるラインナップも決して専門的な難しいものではなく、実際の生活に落とし込めるもの、人々の生活を豊かにできるヒントやTipsを与えられるようなワークショップをやっていきたいと考えています。

岩楯レッスンを拡大していきたいと考えた背景にはどんなことがあるのでしょうか?

堀田さん草花や雑貨などを販売してきて、固定のお客さまやファンがついてくださるようになりました。でも、kusakanmuriが提供しているのは、モノを売ることではなく、「草花や手作りの雑貨に囲まれた豊かな暮らし方の提案」なのです。レッスンやイベントでも、「こころをつなげていく」というコンセプトが根底にあり、感性豊かな講師たちと人々の交流、参加者同士のコミュニケーションを大切にしています。
その活動をさらに広げていくということがスクールの目的です。リアルな場に人々が集まり、それぞれの手でなにかを生み出していく、生活を豊かにする知恵を共有する、そういう場を今以上に充実させていきたいと考えています。

場所も「amu」の中だけにとどまらず、もっと外に飛び出してやっていきたいと思っています。たとえば、那須でハーブ摘みをやったり、本場フランスやオランダで花に触れたり。花だけではなく、伝統工芸品といった生活の知恵が垣間見えるところでも展開していきたいですね。以前やっていた「kusakanmuri Travel」と親和性のあるプログラムができたり、AZグループ各社と連携するなど拡張可能性はあるかなと思っています。

岩楯内容だけではなく、場所も広げていく。

堀田さん地方在住でkusakanmuriのファンという方が実はたくさんいるんですよね。来店はしないけれども、オンラインショッピングサイトで商品を買ってくださる方、オンラインから会員登録をして、会員向けに発行している『草冠通信』やメールマガジンを購読してくださっている方ですとか。
なので、恵比寿、東京という枠にとらわれず、国内各地でいろんなカリキュラムができると思っています。また、AZグループにはパリ支局があるので、パリでも開催したいですね。昨年、パリに視察に行ってきましたが、パリ在住のフローリストともコネクションができています。パリの文化やセンスをkusakanmuriを通じてお届けする、逆に日本の文化をパリ在住の方にお伝えする、といった交流も可能です。

kusakanmuriとつながっている方は、全国や海外にもいらっしゃる。レッスンの拡充を通して、もっと多くの方たちとつながり、たくさんのコミュニケーションが起きることを期待しています。そして、多くの方たちの豊かで創造的な暮らしにkusakanmuriが寄り添えたらいいなと思っています。(終わり)

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特集「AZグループをひも解く」 ~ Interview:働いている人の考えから探る~

Interview: 1
株式会社 AZホールディングス
Voice from the branch offices:
京都支局・パリ支局
Interview: 2
多目的クリエイティブ・スペース「amu」
Interview: 3
株式会社 ビー・エヌ・エヌ新社
Interview: 4
株式会社 コンセント
Interview: 5
株式会社 フィルムアート社
Interview: 6
株式会社 草冠(kusakanmuri)
Interview: 7
株式会社 PIVOT

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