FEATURE ARTICLES 17

特集「AZグループをひも解く」 インタビュー:3

ビー・エヌ・エヌ新社 「本(=一つの世界)」でワクワクする社会を

出版業界に対する考えからひも解く

生まれ変わることが必要

岩楯最後に出版業界の今後について、お二人がどう考えていらっしゃるかお聞きしたいのですが、まずは今現在において、出版業界はどのような状況にあると思っていますか?

村田さん斜陽産業ですよね。早くつぶれてくれないかなと言うと語弊がありますが。サスティナブルを目指すのならば、一回なくなって生まれ変わる必要があるかなと。それが出版業界の未来のためになると思っています。

岩楯延命ではなく、一回なくなる必要がある?

村田さん延命では次に進めないんじゃないかなと。変わるって本当に難しいですから。

紙の出版はWebとよく比較されますが、そんなにいい構図だとは思っていないんです。というのも、こう言うと怒る方がいるかもしれませんが(笑)、僕はWebも出版だと思っているので。「Publish(出版する)」って「Public(公共)にすること」なので、そういう意味では両者は同じことなんですよね。

今の出版業界は、取次があって書店があって版元があるという他の国にも類を見ない仕組みを築いて、僕をはじめたくさんの人が本の恩恵を受けています。これはこれですばらしいのですが、世の中が変わったのだから仕組みも変えないといけない。世の中の何が変わったかと言うと、スマートフォンなどが行き渡り、人と人とのコミュニケーションのあり方、つまり意思疎通の方法や、何かを人に伝える方法です。今あるこのありのままの世界を生き生きと活かしていくためには、出版だけではなく、社会システム自体が変わってしかるべきだと思っているんです。

武田さんどちらかと言うと保守的な業界ですよね。たとえば、何年か前の電子書籍元年のときも、最初に必死になって動いたのは印刷会社で、出版社は動きが鈍かったかなと。もちろん大事に守らなければならないことはあるのですが、変わろうという意識が低いのかもしれません。再販制度※2に関する議論はしつつもなかなか進まない。実験的に取り組んでいる出版社ももちろんあるのですが、書店がその動きに追いついていなかったり。

そうした、新しいことをやりづらい構造になっているという意味では、村田さんの言う通り、一旦なくして生まれ変わるっていうのはありだと思います。

※2 再販制度……正式名称は「再販売価格維持制度」。出版社が書籍・雑誌の定価を決定し、小売書店等で定価販売ができる制度を指す。独占禁止法では再販売価格の拘束を禁止しているが、1953年の独占禁止法の改正により著作物再販制度が認められている(参照:一般社団法人 日本書籍出版協会 Webサイト内「書籍・雑誌の再販制度(定価販売制度)とは?」 http://www.jbpa.or.jp/resale/

体験へのシフト

岩楯業界全体を見て、「これは変わるきっかけになるかも」と感じていらっしゃることはありますか?

村田さん少しずつではあるものの、最適化の方向で変わろうと動いている感じはします。たとえば、紙の本と同時にKindleで出すのが当たり前になってきたりなど、版元も動き出していますし。「ちゃんと稼げそうだ」というビジネスモデルが見えてきたということだと思うんですけど。

武田さんあと、カードやステーショナリーなどのプロダクトを扱う書店が増えてきましたよね、世界的にも。出版社がプロダクトをつくり、それを取次が流通させ、書店で販売するという、もともとの出版業界の図式を活かして展開ができる。

村田さん体験にシフトしているんですよね。

岩楯村田さんが担当されている、「amu」でのシリーズイベント「BNN CAMP」※3もそうした体験の一環なのかなと話をお聞きしていて思いました。

※3 「BNN CAMP」……BNN新社の本にまつわるゲストをお招きし、領域横断的にかつお客さま参加型で、その回ごとのテーマについて語り合うシリーズイベント。 http://www.a-m-u.jp/event/series/bnn-camp/

村田さん「BNN CAMP」は、僕の中では「Generative Magazine(生成的な雑誌)」だと思ってやっています。知らない人たちが集まり、その場で同じ時間を共有して何かをやるという。
本はつくり込んだ後に「切断」があるんですよ。その切断したものを世の中に送り込むわけですが、「BNN CAMP」はその場で生成的にやるというコンテンツのあり方のようなものなんです。

岩楯「切断」というのは?

村田さん紙の本はブツだけど、イベントはポケットから取り出せないですよね。つまり、本には最初と最後のページがあって「際」があるけれど、イベントにはその「際」がない。だから生成的な雑誌なんですよ。

これからの出版営業のあり方とは?

岩楯これからやっていきたいことは?

村田さんさきほどの出版業界の話につながりますが、BNN新社の質的な変化は喫緊の課題ですよね。

岩楯「質的な変化」というのは?

村田さん出版のあり方そのものの変化です。
「体験にシフト」と言いましたが、一度紙の本から抜け出して、どういうものが喜んでもらえるのか、ワクワクしてもらえるのかということを考える。とは言っても、決してモノの価値を下げるという話ではありません。モノはモノで大事なので。

武田さんけっこうシビアな話ではあるのですが、出版営業のあり方が今後どうなるのか、ということがよく言われていて、他社の営業の方とも意見交換をすることがあります。書店が年々減ってきていて、電子書籍が出てネット書店で本が購入できるようになった。ネット書店は電話とメールがあれば済むので営業にいく必然性がない。そういったいろんな話をするんですが。

大きい出版社になればなるほど、営業一人一人がやることは限られていて、十何年、取次に行ったことがなく書店しか回っていない、という人もいるんですよね。一方、規模が小さい出版社になればなるほど、いろいろ考えたりやらざるを得ない。そういう意味で言えば、BNN新社はいい規模感でやっていて、一人一人が機動力をもてるという強みでもあるかなと思います。

村田さん今後の営業のあり方ってどう変わっていくのかな?
「顧客」と聞いて誰を思い浮かべるかといったときに、編集者である僕は「見知らぬ他者」であるけれど、営業の武田さんの場合は「書店員」というように、編集者と営業とで異なる。もちろん書店員さんも大事だけど、書店員さん以外の顔も思い浮かべるようにシフトすればいいわけだよね。そうじゃないと極端な話、仕事がなくなる可能性もあるわけだし。

書店に人が来ないと言われている中で、どうやったら人が来るようになるかを考えるということは、書店だってやってほしいはず。それを考えるのが出版営業だと思っています。

武田さんそうなんですよね。

村田さん書店だけじゃなく、たとえばカフェなどに本を置いてもらうように働きかける営業のあり方もあっていいと思うし。

岩楯書店が人と本を結びつけるメインの場だったけれど、書店以外の方法を考えるという。

武田さんじゃないと厳しくなりますよね。「本は本屋で」という状況ではなくなってきているのが大きな変化なので。

岩楯そうした状況の中で、武田さんご自身は営業としてどのような動きをしていきたいですか?

武田さんBNN新社は売上げの8~9割が書店とAmazonなどのECサイトで成り立っていますが、このバランスも変えていかなければと思っています。もちろん、書店は今後も変わらず本を売る大切な場所です。ただ、それ以外のところにも情報が必要な人はたくさんいるはずです。紙なのか電子なのかまたは別のものなのか、アウトプットの形自体何が最適なのか、そしてそれをどのような手段で情報を必要としている人のもとに届けるのを考えるのが、これからの僕自身の関わり方になると考えています。(終わり)

index

特集「AZグループをひも解く」 ~ Interview:働いている人の考えから探る~

Interview: 1
株式会社 AZホールディングス
Voice from the branch offices:
京都支局・パリ支局
Interview: 2
多目的クリエイティブ・スペース「amu」
Interview: 3
株式会社 ビー・エヌ・エヌ新社
Interview: 4
株式会社 コンセント
Interview: 5
株式会社 フィルムアート社
Interview: 6
株式会社 草冠(kusakanmuri)
Interview: 7
株式会社 PIVOT

特集トップページに戻る