世界行脚 vol.18 Eyeo Festival in Minneapolis

Converge to Inspire

Eyeo Festival デザイナー3人が見てきたデザインとテクノロジーの最前線

6月10日~13日まで、アメリカのミネアポリス(ミネソタ州)で開催されたEyeo Festivalにコンセントのデザイナー3人が参加してきました。コンセントとしては初参加となるEyeo Festival。そしてこの出張が海外カンファレンス(イベント)デビューとなった3人。いったい、Eyeo Festivalってどんなイベントだったのでしょう?写真中心にご紹介していきます。

What?

Eyeo Festival

2011年からはじまったイベント。
データとアートとテクノロジーといった領域を横断する、クリエイティブコーダーやデータデザイナー、クリエイターなどが参加し、インスピレーションあふれるトークやワークショップなどが提供されます。

朝から夜中までとにかくいろんなセッションやイベントがあって、カンファレンスというよりフェスティバルの方がしっくり。単にトークセッションを通じた知識の共有だけでなく、コミュニティ形成の場にもなっているようです。

When?

Eyeo Festivalは2014年6月10日~13日の4日間にわたって開催されました。
出張は、6月6日~16日の11日間でした。

Why?

数あるカンファレンスのなかからなぜEyeo Festivalに行くことにしたのかといえば、「データビジュアライゼーション関連のカンファレンスのなかで一番面白そうだったから。」とのこと。
具体的には、過去のスピーカーにNew York Timesのグラフィックエディター アマンダ・コックス、Bloombergのデータビジュアライゼーション部門グローバル責任者のリサ・ストラスフェルドなど気になる人が多かったこと、またグラフィック畑の人が多そうだったことが面白そうだと感じた理由だったそうです。

つついさんが参加申請を上司にあげたところ「どうせ行くなら誰か連れていったら?」と言われたのがきっかけで、このメンバーでの参加が決まりました。

Who?

コンセントからは、メディアにとらわれずにデザインをしているデザイナー3名が参加。幅広いトピックを扱うEyeo Festivalをカバーできる最高のチームになりました。

つついさん

雑誌、ムック、書籍、広報ツールなどエディトリアルを中心にたまにWebのデザインも。
撮影や取材に同行することも多い。デザイン経験が豊富。

ミキー

紙媒体のエディトリアルデザイン、動画コンテンツの制作など。その他新しいことを色々試すことも期待されている。
新卒入社2年目。デザイナーでありながらプログラミングの知識もある。

しほちゃん

エディトリアルの分野を中心に、メディアの特性を生かしたコンテンツや情報のデザインをしている。
ミキーの同期。海外生活が長く英語が得意なのも強み。

Eyeo Festival全体としては、出席者のバックグラウンドはかなりバラバラ。テクノロジー+クリエイティブ関係ならなんでもといった印象で、一言で言うと、ビジュアライズを通して「データ」という概念を拡張する人たち。

Where?

北米線のフライトがキャンセルになったり、経由地での便変更があったりと、なかなか波乱含みのスタートとなった今回の出張。とはいえ、結果的にはカンファレンス開催地のミネアポリスと、主要経由地のサンフランシスコという異なる表情を持った2都市を見ることができたようです。

Minneapolis ドライで現代的な町並みと宗教性の高さを感じさせる教会群との対比が印象的な街

アメリカ合衆国ミネソタ州東部に位置する都市(Wikipediaより)ミネアポリスでEyeo Festivalは開催された。

気候

滞在中は嵐だった最終日を除いて天候にとても恵まれました。快晴が続き湿度が低くカラッとしていて過ごしやすかったです。
冬は雪も積もり寒さが厳しそうだけど、夏は美しくとても快適だと感じました。

飲食店の営業時間が短い!Eyeoに終日出席していたので、何度か晩ご飯にありつけないという事態になり、アメリカ出張なのにみんなで痩せて帰ってきました。でも、食べたものは全部美味しかったです。

MALL OF AMERICA

みどころ

なんといってもミネアポリスと言えば世界最大の年間ビジター数を誇るショッピングモール、Mall of America。
野球場の跡地を利用してつくられたこのモールは、写真のように真ん中に屋内遊園地が入っているほか、水族館、映画館、そしてショッピング店舗や飲食店が並んでいる。野球場のストラクチャーの中に遊園地を突っ込むというアイデアといい、商業施設としてはなかなか面白い。90年代オープンゆえの老朽感を伴っており、ダサくてかっこよくないところがいい感じでした。

San Fransisco 区域ごとの個性の強さと生活感あふれるイメージを持った街

東京からミネアポリスへの直行便がないというだけの理由で経由したサンフランシスコ。
現地の方との交流でアメリカのテクノロジー業界の現状を垣間見ることができた。

観光

出張直前の週末に参加したTEDxTokyoのパーティーで出会った方に、サンノゼに住んでいる彼のお兄さんを紹介してもらい、サンフランシスコ案内をしてもらいました。

パーティ

しほちゃんの高校時代の友達のホームパーティーに招待され、そこでサンフランシスコ在住のクリエイティブな方々の話をたくさん聞くことができました。サンフランシスコ市民とシリコンバレー企業の対立といった気になるトピックも。

ミーハーにこんなお店にも行ったよ

Dandelion Chocolate

Blue Bottle Coffee

My Eyeo Festival

参加メンバーにとってEyeo Festivalのなかで印象的に残ったセッションはどのようなものだったのでしょうか。

"The Shapes of My Thoughts" by Giorgia Lupi

スピーカーはAccuratというデザインスタジオの共同代表で、特に有名なのがイタリアの新聞に連載しているデータビジュアライゼーション。このセッションは、いかに日々のスケッチからインスピレーションを得ているのかを紹介するもので、スライドも全部手描き!

「データとビジュアル表現が結びついていてきれいだなー」と思っていたのですが、そのプロセスはといえば、

すべてのデータが上手くおさまるルールを設定して

何かのビジュアルをメタファーとして持ち込んで

その検証をアナログでやる

とのことで、下手なプログラミングよりややこしいんじゃないかとすら思えました。

でも「データをビジュアライズしたものをベースにして、そこからちょこっと表現をいじったもの」と、「最終的なアウトプットのカタチをずーっと考え続けながら、データをビジュアルに置き換えるルールを粘り強く探す」のとでは、やはりうまれる表現が違うんじゃないかと感じました。「ルール<ビジュアル」なバランスというか。他にもアナログな手法でビジュアライゼーションする人のセッションを聞きましたが、アナログであることの強みはどこかにある気がします。

Glitch [workshop]

Glitchとは、そもそも破損、欠損などによってデータが壊れ、実行する際に想定とは異なる結果を生んでしまうものや状態をさしますが、最近ではそこから敷衍して、動作はするがおかしな挙動をするデータを意図的につくりだすことをさすことが多いです。
このワークショップでは、講義やワークを通じて、Glitchとはなにか、何を生むのか、どのような意義があるか……といった、Glitchそのものを知る端緒が得られました。

受講して感じたのは、Glitchとはリバースエンジニアリングの手法でもあるということです。
例えば画像データに適当に細工をすると、最初はよくわからない壊れかたをします。それを何度も繰り返すうちに、いじった数値と壊れかたの法則性が段々と見えてきて、画像データ……例えばjpgとはどういう構造なのか、ヘッダにはなにが書かれているのか、どういう圧縮を施しているのか……そういったものが頭にすんなり入ってきて、非常に豊かな経験が得られます。
今まで気づかずに、あるいは考えようともせずに無視していたデータの構造を、独特な“Glitch”表現と戯れながら学んでいく……これが、Glitchの強い魅力だと考えています。

"And Then There Were Twelve-How to (keep) running a successful data visualization and design studio" by Giorgia Lupi

必ずしもトーク自体が最も素晴らしかったとか最も聡明だったからというわけではなく、企業を非難することも厭わないインデペンデントな立ち位置と、最もパーソナルな話まで打ち明けてくれたことが、他と比べやや異色でした。

そのような理由からも、彼のトークは最も拍手喝采を浴びたトークのひとつでした。主には精神的な面でのデザイン会社経営についてのアドバイスで「そうあってほしくないと思ったけれど、学ばざるをえなかったこと」。「友達とはいえ解雇しなきゃいけない」その苦しみとか。「大切な仲間がいずれ去って行く」その痛みとか。「すべてが止まった瞬間」(彼の場合では身近な人の死)の辛さとか。「そういうことを乗り越えていくということがデザイン会社を経営するということには伴う」というメッセージは、雇用される立場の私のような人間が、雇用側の立場を考えるきっかけになった気がします。

あとはコミュニティの話をたくさんしていて、「データビジュアライゼーション」がマイナーな分野からメジャーな分野になってきたことを挙げながら「今までインデペンデントで来てたけど、このコミュニティは今後どうするの?」といった問いも、Eyeoらしさを写しているなと思いました。

How?

今回が海外カンファレンスデビューとなった3人。
カンファレンスに参加せずとも情報入手が容易にできる現代。
それでもなお、忙しい業務に都合をつけて参加したことはどんな意味があり、今後にどう活きていくのでしょうか。

つついさん 好奇心を刺激され続ける場

セッションについては聞き逃すまいと必死になるので、日本でのんびりと動画を見るより残り方が違うような気がします。セッションの感想を参加者同士で話し合うことで、つたないながらも自分の意見を持てた気がします。デザイナーとして普段の仕事に夢中になっているとどうしても内に内にとこもりがち。定期的に全然違う環境に身を置くことが重要だと改めて実感するとともに、スピード感あふれる世界のことをもっと知っていきたいと思うようになりました。コーディングも勉強してみたくなりました。

ミキー 現実感覚を認識する場

職場や自宅といったいつもの環境を離れるということは、自分自身の入力と出力が変わるということに他なりません。
海外のカンファレンスに参加することで、先験的に認めていた自分の “現実感覚”との差異があらためて感じられ、それによって、私自身の“現実感覚”も変わっていったように思います。実務的な話では、Eyeo Festivalで得たヴィジュアライズのトレンドを見極めつつ、制作にも取り入れていきたいです。ただ、気の向くままプログラミングしていたい欲求も強くなってきており……Adobeを極力使わない制作環境というのはいずれ開発してみたいところです。

しほちゃん デザインについて議論する場

自分がつくっているものの政治的な局面みたいなものはもっと意識していこうと思いました。世間に流通するモノをつくっている以上、そこに政治性は絶対に孕んでいるので。こうやってデザインの社会性や政治性や課題を議論する場というのが刺激になったので、もっとこういう場を増やしていきたいなと思いました。特に日本におけるエディトリアルデザインという分野の議論はもっと活性化できると思うので。