世界行脚
コンセントメンバーが行く、国内・海外出張の裏側こっそりみせちゃいます
コンセントメンバーが行く、国内・海外出張の裏側こっそりみせちゃいます
サンフランシスコで開催された前回の様子はこちらから
世界行脚 : Service Design Global Conference in San Francisco[前編]
http://sustoco.concentinc.jp/angya/sanfrancisco/index.html
Service Design Networkとは
2004年発足、2008年からNPOとして活動している国際機関。
「サービスデザイン」分野についてアカデミック、ビジネスの両面から議論を促進する場として機能している。
Service Design Network
http://www.service-design-network.org/
Service Design Global Conference 2012のプログラム
http://service-design-network.org/sdnc/france12/en/program-2/
カンファレンスは10月29日からの開催でしたが、今回、コンセントのメンバーは10月26日夕方に現地入りしました。前日の28日にはMember's Dayという会員向けプログラムが予定されていましたし、またパリオフィスのあやかちゃんを含め、全員で事前に、サービスデザインについて認識のトーンを揃えるためのミーティングをしておいたほうが良いと考えたからです。ちょうどパリに発つ数日前に、「三菱電機グループ 三社合同Webサイト活用セミナー」にて、はせがわさんが「ユーザー体験価値から発想するサービスデザイン」というテーマで講演する機会がありました。その講演のなかではせがわさんは、サービススデザインとは「利用者への提供価値をもとに事業を構築する、これからの時代のビジネスアプローチ」であると定義したりもしていたので、すべてのカンファレンスプログラムがスタートする前日の27日にメンバー全員でパリオフィスに集合し、改めてサービスデザインという考え方が生まれてきた背景や、サービスデザインとは何かといったことについて共有しました。今回、色んなポジションのメンバーで渡仏したので、同じ会社のメンバーとはいえ問題意識や観点はそれぞれ違っています。「サービスデザイン」をテーマに議論するといってもトピックは多岐に渡りました。お客様の課題を解決するアプローチとしてサービスデザインがどのように有効か、サービスデザインといった時にコンセントが特にどの領域で貢献できそうか、サービスデザインにデザイナーが関わる意義は何か、プロセスとアウトプットとどちらの質が問われるか、誰がサービスデザインをやるべきか、日本の企業と海外の企業では体制なども違うので同じようにサービスデザインを導入できるのか、サービスデザインとはイノベーションのための発想法的アプローチなのかそれともサービス改善などを含むサービス全体を統括する活動全般なのか…など、議論は尽きません。夕食のレストランの予約時間を過ぎそうになっているのに、また外が真っ暗になっているのに、それに誰も気づかないほどかなり長時間、真剣に話し込んでいました。
10月29日から始まる2日間のカンファレンスに先駆け、28日は、サービスデザインネットワーク(以下、SDN)会員向けにMembers' Dayが設定され、基調講演やワークショップが展開されました。会場はパリらしいパサージュの中にあるコンパクトなイベントスペース。90名ほどの参加があり、ここではサービスデザインを取り巻く環境やSDNの現状と今後どのようなベネフィットを提供していくべきかといった、内省的なトピックが多く扱われました。「サービスデザイン」という言葉自体がまだそれほど明確に定義されておらず、また「サービス」も「デザイン」もかなり広い意味を持つ言葉であるために、どの分野で、どのタイミングで、どのようなバリューが出せるかといったこと自体が、まだまだ継続的に議論されているという印象です。もちろん懐疑的に…ではなく、より明快さを提示できるようにしたいという強い思いからであることは間違いありません。サービスデザインが社会や企業の活動にとって本当に有益なアプローチなのだとすれば、それは自身の組織活動においても同様であり生かされるべきです。実際、この日のプログラムもプレゼンテーションを見て聞いて終わりではなく、出席者全員がワークショップ(以下、WS)に参加しSDNの今後の活動について考えました。
WSは3種類。「アカデミックWS」では教育機関等でサービスデザインをどのように教え、サービスデザイナーをいかに育成するかについて、「イベントWS」ではSDNの将来のカンファレンスやイベントをどのようにデザインするべきかについて、「メディアWS」ではSDNやサービスデザインの認知向上のためにいかにメディアチャネルを活用していくべきかコミュニケーション戦略についてそれぞれ検討しました。コンセントメンバーが参加した「イベントWS」では、カンファレンスのテーマは何が良いか、どういった人に参加を呼びかけたらよいかなど5つの観点で、ポストイットを使いながらアイディア出しをしました。壁面に洗いだしたアイディアはさらにグルーピングして、各トピックの近くに立っていた人が発表。参加者全員が関与できるようワークショップスタイルで、また議論を視覚化しながら問題解決を図っていくアプローチは、非常にサービスデザイン的だと言えます。
特にヨーロッパ開催のカンファレンスでは参加者の母国語が必ずしも英語とは限りませんし、文化背景の異なる人たちと一緒になる機会が多くなります。にも関わらず、議論やワークショップがスムーズに進行するのは、参加者全員がサービスデザインに興味を持ち実践しているだけあって本質的な意図が共有できているためかもしれません。だからといって画一的になることもなく、さまざまな国の参加者があったおかげで、北米圏のみ、英語圏のみで検討している時にはおそらく出てこないようなインターナショナルな観点も盛り込まれたようでした。また、このWSはまわりの人と話す機会になり、翌日からのカンファレンスを前に、言語的なハードルが多少あっても気後れせずに参加できる自信を持つこともでき、有意義なプログラムだと感じました。ちなみに、この日別の会場ではPh.D and Student Dayというプログラムも提供されました。今年からの試みだそうですが、SDNが教育分野にも力を入れていこうとしている姿勢がうかがえます。
私に関していえば、「なんで広報担当がカンファレンスに行くの?」と思う人もなかにはいるかもしれません。そもそも私がサービスデザインに興味を持ったきっかけは、10年ほど前に、とある自動車メーカーでサービスの企画・開発に携わっていた時にさかのぼります。当時サービスデザインという言葉は知りませんでしたが、新サービスの立ち上げからバージョンアップ、企業内の別のサービスやデータ資産を活かすようなサービス間の連携、さらにそれのグローバル展開といった現場で常々感じていたことがありました。それは、便利な機能であってもユーザーの文脈が考えられないまま提供されると使えない、適切な構造やインターフェースとしてタンジブルなものになっていないと伝わらない、またユーザーの利用時に、接触する可能性のあるあらゆる要素(オペレーターや店舗スタッフなど人の振る舞いを含む)が、コンセプトに基づいて呼応していないと製品自体は優れていてもサービス全体としては最終的には満足度の高い体験が与えられないかもしれない、ということでした。
サービス全体を見渡し統括するような役割の必要性や、機能ありきではなくユーザー中心で考える必要性、サービスとサービスの関係性のデザインの必要性を強く感じ、そうした問題意識からその解決の糸口になりそうだという感触のあった、IAやUXに興味を持つようになりました。過去数年参加しているIA Summitを見ていると、議論が IA ⇒ UX ⇒ サービスデザインといったように移ってきているように感じますが、私の場合は逆で、サービス全体の体験についての問題意識 ⇒ IA・UX ⇒ 一巡してサービスデザイン という風に来ています。
現在ではサービス開発や個々のプロジェクトからは離れて主に広報的な業務をしているので、「なぜ広報担当が?」の質問に戻るわけですが、広報担当として、コンセントがやっていることや関心を持ち実践していることについて、正しく理解し広報していくためという理由ももちろんあります。でも、それだけでもありません。広報業務には例えばインナーコミュニケーションが含まれます。その中には社内教育や適切な情報提供のしくみ作りなどもあると考えています。つまり社内への各種情報提供というサービスを提供しているとも捉えることができます。またコンセント全体としては、プロジェクトを通じてお客さまの問題解決を図るためのデザインサービスを提供しています。社内向けであろうと社外向けであろうと、また、既存業務の改善であろうと新サービス創出であろうと、サービスデザインのアプローチをその両面に生かせるのではないかという期待があります。また同時に、サービスデザインを提供する会社として個々のマインドセットはどうあるべきか、どんな組織文化が必要か、といったところにも関心があります。どんな価値観に基づいて、それをどのように展開していけるか。サービスデザインの考え方は、新しい商品やサービスを生み出すための発想だけでなく、企業内の管理系部門が扱うような組織デザインに関わる部分へも応用できると考えているからです。
私の場合の参加背景はそんな風です。一方、パリオフィス駐在員のコーディネーターあやかちゃんの場合は、グループ会社全体が現在提供しているサービス(コンセントのようにデザイン会社もあれば、出版社、花を通じたライフスタイルの提案をしている会社もあります)と、それぞれの価値の掛け合わせで生まれるかもしれない新しいサービスを、パリという環境を生かしてどのように展開できそうか、ということを考えていく時に役立てられるでしょう。もちろん、プロデューサーやデザイナーに関して言えば、より納得度の高い提案や精度の高い問題解決ができるよう、カンファレンスで見聞きする事例を参考にしたり、ワークショップの手法やドキュメンテーションに役立つツールなどを学んでくることも参加の意義と言えます。
さて、今年のサービスデザイングローバルカンファレンスのテーマは、Cultural Change by Design。直訳すると「デザインによる文化的変化」ですが、これには、デザインの活用によって経済、社会、文化にどのような変化を起こすことができるかといった、どちらかといえばマクロ的な観点と同時に、組織内でカルチャーの変化を起こすためにデザイナーは何ができるかといったような、ミクロ的な観点も含まれます。今回のカンファレンスではプロセスやフレームワークのような話よりは、どちらかといえば後者、つまり組織にいかに根付かせるかにフォーカスが強くあたっていた印象で、つまりそれはサービスデザインを組織に導入するのがいかに難しいかを示唆しているようでもあります。
アメリカのエクスペリエンスデザイン会社Adaptive PathのJamin Hegemanが「カスタマージャーニーマップはサービスデザインの素晴らしいツールだが、Actionable(実行可能)かつ実行されなければ意味がない」と言っていたことや、スウェーデンのサービスデザインエージェンシーTransformator DesignのDaniel Ewermanが「サービスデザイン1.0はタッチポイントのデザイン、サービスデザイン2.0はマネージメントコンサルなど実装支援のためのデザイン、そして現在はサービスデザイン3.0で、これはサービスをデリバリーする組織のデザイン。企画を立ち上げて終わりといったワンショットではなく、継続的にすばらしいカスタマーエクスペリエンスをデリバーできる組織をデザインすることが重要。」と言っていたことを考えても、サービスデザインとは、サービス提供の流れ全体に関わる話だと思いました。
Members' Dayと2日間のカンファレンスに出席してみたうえで、改めて「サービスデザインとは何か」について考えてみても、正直、参加者ごとに、その捉え方のレベル感に幅があることは否めません。イノベーションのための発想法のように捉えている場合もあれば、オペレーションレベルのマネジメントを含む機能するシステムのように捉えている場合もあれば、ビジネス戦略のように捉えている場合もあるように感じました。
でも、あえてサービスデザインのアプローチとは何かをまとめるとすれば、アメリカのデザインスタジオMad*PowのPaul Kahnのプレゼンテーションでも触れられていた、サービスデザインシンキングについての次の5原則になるでしょうか。(※)
SDNのファウンダーでプレジデントでもあるBirgit Magerが強調していましたが、サービスデザインとは「It's about creating value(価値を生み出すことに関わる話)」であるというのは、サービスデザインのどの部分を考えるにせよ共通して言えそうです。プロジェクトにおいても「価値」にフォーカスし物事を分解して考えるためには、プロジェクトマネジメントとは別軸で先に挙げた5つの観点を持ち、実際に動くための推進力が必要になります。この推進力とは、チームのなかにファシリテーションを埋め込むことにほかなりません。
革新的なエクスペリエンスを生み出すために欠かせないと考えられるその役割は、これまでデザイナーが当たり前にやってきたプロセスやスキルをまさに生かせる領域。デザイナーには今後ますます、価値にフォーカスし、多くの人を巻き込みながら、サービス提供者であるビジネスサイドとサービス利用者であるユーザーをブリッジする、ファシリテーターとしての役割が期待されていくのでしょう。
みんなの感想
サービスデザインはメタデザインの話でもある
潜在的な需要に供給が追いついていないどころか、供給側が需要に気づいていない状況。これはチャンス!
サービスっていうのは文化のコンテクスト抜きには考えられないんだなぁと改めて実感。
「サービスデザイナー」と自信たっぷりに名乗っている人が思った以上に多くてびっくり
世界行脚 : Service Design Global Conference in San Francisco[前編]
http://sustoco.concentinc.jp/angya/sanfrancisco/index.html
コラム : サービスデザインとは何か 〜デザイン能力はサービスビジネスの不可欠要素に〜
http://www.concentinc.jp/labs/2011/12/service-design/
コラム : Service Design Global Conference(2011 サンフランシスコ)参加報告
http://www.concentinc.jp/labs/2011/12/service-design-global-conference-report/
寄稿 : HRI『科学技術と自律社会』
Part1. サービスデザイン × インクルーシブデザインをめぐる対話
Part2. サービスデザイン × インクルーシブデザインのプレゼンテーション
http://www.hrnet.co.jp/publication/pub_ss.html#ss5
動画 : 第31回HCD-Netサロン:サービスデザインとHCD2012
パリでのカンファレンス期間中のランチタイムに、SDNのファウンダーや本部スタッフ達と打ち合わせ。Japan Chapter立ち上げのためのプロセスなどを確認しました。また、現在英語中心で展開されているSDNが提供するコンテンツやツールを、英語圏ではない日本でいかに活用されるものにしていけるかなども検討。日本以外では台湾などからもLocal Chapter立ち上げの申し出があったそうで、非英語圏での活動が今後加速しそうです。なおJapan Chapterの正式発足後には、Service Design National Conferenceの東京開催も予定しています。